卒業式も終わり、春休みに入り、一通り落ち着いたので、毎日書けそうです。
それでは、続きです。




「父さん!これ、持っていた方がいい?」

風呂敷を広げた海斗が、土間にいる父に向かって叫んだ。

火事で、村にいられなくなったために、町へ出かける準備をしているのだ。

しかし、シーンとして声が返ってこない。

「父さぁん?」

しばらくすると、

「‥‥っ!!ちょっ、危ない!!」

「きゃっ!」

「‥‥‥!!」

あわてて見に行くと、芽衣子が転んでいて、その上の、棚から落ちそうになっている鍋の山を、父親が必死に抑えている。

「あ、海斗!!」

「めーちゃん!!」

芽衣子に駆け寄り、棚の近くから、逃がそうとする海斗。

「めーちゃん、大丈夫?」

「‥ちょっと、足くじいちゃって‥‥」

「ちょっと待ってね」

海斗は、芽衣子を抱きかかえると、その場を離れようとした。が、それより前に、彼の父親の手が滑り、鉄の鍋が一気に棚から落ちていく。

間に合わないと、とっさに判断した海斗が、芽衣子をかばうように、彼女を抱え込んだ。

ガラン、ガラン!と音を立てて、鍋が床に叩きつけられる。それと同時に、海斗の背中にも、硬い鍋が激突した。

「‥‥‥っ!!」

「‥海斗‥‥っ!!」

痛みに顔をしかめたものの、彼女に心配をかけないように、無理に表情を作り、

「‥‥大丈夫?めーちゃん‥‥」

「だ、大丈夫って、それはこっちのセリフよ!バカ!!」

「‥‥‥」

助けられても、海斗がケガしちゃ意味が無い!と言わんばかりにそう言い、ため息をついて立ち上がる芽衣子。

「海斗、大丈夫か!?あぁ、ケガさせちまったな、ちょっと待てよ!治療道具持って来る!」

父親は、あわてながら、血相を変えて、転びそうになりながら、奥の部屋へ走っていった。

「‥父さんも慌てすぎだ‥‥」

そのあわっぷりに、あきれ気味に言う海斗。

「もう!バカ!早く立ちなさい!」

そう言いながらも、心配なので、芽衣子は、さっと手を差し伸べた。

「はぁい‥‥」

海斗が、その手を取り、土間の上がり口に座る。

「もう!海斗の父さんってどれだけドジなのよ!おかげで海斗がケガしちゃったじゃないのよ!」

愚痴りながらも、彼女は、海斗のことを心配していた。いや、むしろ、自分のためにケガをしないでほしい、と言ったところだろう。

「海斗も海斗よ!私なんかかばったりして?」

そんな芽衣子に、彼は、

「‥‥うん‥」

とだけ言って、流し目で微笑を浮かべていた。びくっとして、たじろぐ芽衣子。

「な‥なによ‥‥?」

人が怒っている表情見て微笑を浮かべられたら、誰だってびっくりするだろう。

「‥んーん‥‥」

「はっきり言いなさいよ?逆に気持ち悪いわ‥‥」

いつもなら、『気持ち悪いってなにさ!』とか言ってくる海斗が、反論してこない。

彼女にとって、この上ない、気味の悪さである。

「めーちゃんが‥けがしなくてよかったなぁ‥ってさ‥‥」

片膝を立て、その上に顎を乗せ、コトリ、と首を傾ける海斗。芽衣子には、その仕草が、なんとも幼げで、無邪気で、そして、可愛らしく見えた。

「‥‥‥」

「‥‥?めーちゃん‥?」

その仕草に見入っていた芽衣子は、びくっとして、

「え!あ、なに!?何の話してたんだっけ?えーと、そっか、ケガのことで‥‥!」

そのあわってっぷりに、海斗は、思わず笑ってしまった。

「ぷっ‥‥はははっ‥変なめーちゃん‥‥!」

「わ、笑わないでよね!ちょっとぼーっとしてただけよ!」

「えー?なんでかな~?」

「~~~っ//!それ以上聞くな!バカイト!!」

「バカイトじゃない!」

そんな言い合いをしていると、彼の父親が、遠慮がちに話しかけてきた。

「あ、あの~‥仲のえぇとこ悪いけど‥治療具、持ってきたから、ここに置いとくな」

「あ!でも、どうやって治療を‥‥」

「じゃ!仲良くやれよ!水を差しそうな邪魔者のおれは、外の物、整理しとくから!」

「あ、ちょっ‥‥父さん‥!?」

止めようとする海斗の言葉も耳に入れず、治療道具の入っている箱を置くと、せかせかと外へ出て行った。

「今のうちに芽衣子ちゃん、捕まえとけよ~!べっぴんさんだからなぁ~!」

その、捨て台詞に、

「つ、捕まえとけって‥僕はそんなじゃないってば!!た、たしかにめーちゃんはかわいいけど‥‥」

否定したいんだか、したくないんだかよく分からない、海斗。

「‥‥っ//!か、かわいいって‥‥//」

その後ろで、恥ずかしそうに、顔を真っ赤してうつむく芽衣子。

足音が遠ざかり、静かになる。妙な静けさに、2人とも気まずくなり、発する言葉が見つからない。

──~~~っ!何かしゃべってよぉw!

いろんな意味で必死な芽衣子。

「あ、あのさ!足、くじいちゃったんだよな?」

先に口を開いたのは海斗だった。それに対して、芽衣子は、こくり、と軽くうなずいた。

「ちょっと、足、見せて?」

芽衣子が足を差し出すと、彼は、そっとふれ、白い包帯を出すと、

「固定するからじっとしてて」

そう言って、慣れた手つきで、ゆっくりと包帯を巻く海斗。落ち着いたものの、芽衣子は、まともに海斗の顔を見れない。

「よし、これで大丈夫!あとは──」

「海斗!!」

突然、大声を出した芽衣子に、彼は、びくぅ!として彼女を見、

「ふぁ、ふぁい!?」

なんとも情けない返事である。

「包帯巻くから、背中、見せて!傷を治さないと!!」

「あ、うん;;」

海斗が、強い発言をする芽衣子に、たじたじになるのも無理も無い。

最初、海斗がこの村に来たときの彼女の印象は、立ち振る舞いの美しい、優雅に舞を舞う、おしとやかな少女、だった。

紅葉や銀杏の葉が舞い落ちるように、神具を片手に舞う──その姿が、幼い海斗に、なんともいえない、美しい印象をもたせ、彼女に惹かれさせた。

が、それも、大人達の前でだけ。海斗の、年に相応しない、無邪気な仕草が、彼女の自然な表情を引き出していたのだ。

彼は、それを知らない。
が、時がくれば、いずれは知ることになるだろう‥‥。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

番凩・4

前に投稿した同じもので、誤字があったので、それを消して、訂正しました;;すいません><

閲覧数:350

投稿日:2010/03/18 12:23:00

文字数:2,577文字

カテゴリ:小説

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  • enarin

    enarin

    ご意見・ご感想

    今晩は!、続き拝読させて頂きました!。

    どうやらめーちゃん、落ち着いてくれたようで、何よりです。そして大火事により止まっていた時間が動き出しましたね。めーちゃんは前向きに、そしてそもそも固定の家を持たない海斗家族は移動することに。

    でも両方怪我しちゃいましたね。こういう手当の時って、みょーにドキドキしちゃいますね。人間の”いたわりの心”がストレートに出て。

    しかし、めーちゃんに関しては、まだまだ何かあるようですね。

    では、次にシュワッチ!。

    2010/03/18 16:51:44

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