次の日。
僕はシーカーと共に部屋を掃除していた。
「シーカー、この部屋何年使ってない!?」
埃が盛大に積もった部屋。その量が尋常ではない事は生まれてからが短い僕にも分かった。
「多分・・・10年以上は使ってないかと」
さらりと凄まじい事を言ったシーカーの頭を容赦なく殴る。やっぱり、その身体は冷たかった。
二人して咳込みながら大掃除をした。僕が口に布を巻いてはたきを掛け、シーカーが雑巾で床を拭く。掃除が終わった時には夕日が差し込んでいて、結局1日仕事になってしまった。
「サンディ、一緒に市場に行かない? 特に緊急で買う物はないけど」
断る理由のなかった僕は頷く。シーカーはまた僕の頭を撫でた。




夕方の市場は、生き生きとした喧騒に包まれていた。
「サンディ、お肉いる?」
「別にどうでもいいが・・・シーカー、この国は戦争に負けたんじゃないのか?」
シーカー曰く「この間」戦争に負けたというのに、市場は想像より賑やかだった。
「確かに負けた。だが、負けっぱなしではない。少しずつ、活気を取り戻そうとしている。まあ、これでも乏しい方だが」
僕にはよくわからない。だがシーカーは機嫌がいいのか歌を歌い始めた。
『黒服が街を行く 消え逝く者を捜して
退屈な気分 ごまかすための時間
死神が街を行く 消え逝く者を捜して
見つけたのは 可愛いらしい伯爵の娘』
「その歌は何だ?」
シーカーの歌声は、思ったよりも澄んでいた。死神の歌だなんて、そんな縁起でもない物誰が作ったのだろう?
「この世界の死神は、生き物を殺す力を持たない」
「?」
いきなり始まった、酷く抽象的な話。
「何故なら、死神達は元々人間だから。人の記憶がなくても、あるなら余計に、人の心を持っているから。私情によって殺すべき者を殺さなかったり、殺す必要のない者を殺す事になってはいけない―――稀に例外があるけどね」
言っている事はよくわからないが、死神というのも大変なのは分かった。そして僕にそうやって話すシーカーの横顔は、とても儚いものだった。
「例外?」
僕は引っ掛かる事を素直に聞いた。
「双子のきょうだいは例外だ。同じではないがとてもよく似た魂をしているから、片割れの死を肩代わりする事ができる。残った方は本来死んでいる身であるのと片割れの死に引きずられるのとで病を背負うし、死んだ方もその罪を購うため死神となる。本来は生きているのと片割れの生に引きずられるのとで、片割れが死ぬまで成長する死神に」
その言葉は、シーカーが身をもって体感したような重みがあった。
もしだとすれば、彼は死神という訳か。
僕は一瞬でもそう思った自分に苦笑して、かぶりを振ってその考えを打ち消した。
・・・まあ、普通死神に会うなんて死ぬ直前くらいだから、そんな事はないだろう。
そう思いながら歩いていると、
「あ」
と声を上げてシーカーが不意に足を止めた。
「どうした?」
僕が声を掛けるが、返事はない。その視線は、一つの店のショーウィンドウに釘付けだった。
気になったので、僕もとてとてと駆け寄る。
「・・・懐かしいなぁ」
ひんやりとした硝子に手を付けて、シーカーは何かをじっと見つめていた。
「?」
僕も、一緒になって覗き込む。

そこには、綺麗な銀のペンダントがあった。
透明な雫形の石を花の形にあしらった、銀の鎖が優美な首飾りだった。
横目にシーカーを見ると、唇を噛み締め一瞬辛そうな表情が過ぎったが、直後安堵したような笑みを浮かべる。
「シーカー、このペンダントは何か特別な物なのか?」
彼は瞳の中に誰かを捜すようにじっと僕を見た。
そして、酷く儚い笑みで僕の頭をくしゃりと撫でる。
「昔、私が妹に贈った物なんだ」
その時を思い返すような、昔を想う視線。
「当時の私には、とても高くてね。妹に贈るつもりだったのに、結局彼女と半分ずつお金を出し合って買ったんだ」
「不甲斐ない兄だな」
プレゼントのお金の半分を贈る相手に出してもらうって、かなりどうかと思う。
妹という事は、相手は年下だというのに。
「本当に、不甲斐ない兄だったよ」
痛みを覚えるようなその笑みの儚さに、僕は彼が妹の事を過去形で語った事の意味を考えるのを止めた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
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【白黒P】捜し屋と僕の三週間・5

二人が見ているのは、レンがリンに贈った(正確には割り勘した)ペンダンド。
50年経った今でも高いw

閲覧数:249

投稿日:2011/06/17 23:23:55

文字数:1,747文字

カテゴリ:小説

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