「……世良。」
メガネをかけなおし、背筋をピンと伸ばして足早に教室へと戻っていく世良を”私”は見送った。
『な、奈々…』
近くにいたクラスメイトが戸惑うような目をして私の名前を呼んだ。
今朝、世良と話している時もこの子は私に笑顔で手を振ってきていた。
しかしどうやら彼女は世良の事が苦手なようで、世良を見るなり私にも一歩引いた姿勢に切り替わった。
私は世良のことを、初めて見たときから気に入っていた。
白銀の雪を思わせるような綺麗な髪、意志が強そうな瞳。
真っ白な肌。ピンと伸びた背筋。
私には、何故皆がそんなにも世良のことを遠巻きに見るのかが分からなかった。
近寄りがたい雰囲気だと、話しかけても反応が冷めすぎて怖いと、そういった話をよく耳にする。
何故みんな分からないのだろう。
あれはただ、怯えているだけだ。
人と接するのが怖くて、どうしたらいいのか分からないだけだ。
彼女は、とても優しい。
そしてきっと、すごく心配性で義理堅いんだろう。
ああいう人間は傍から見ると近寄りがたいだけで、私たちの方から普通に接していれば彼女だってあそこまで達観したような態度はとらない。
私たちの方から、一線を引いたような形で接していれば、ただでさえ人と接することが怖くて警戒している彼女は敏感にそれを感じ取ってもっと気を張り詰めて自分の中へ入っていってしまうだろう。
数年前に見た、あのときの光景は確かに私の中に焼き付いている。
苦しくて、苦しくて、どうしていいか分からずに動けなくて今にも崩れそうで。
真っ暗な闇の中歩き続けて、ただ一つ残されていたあの光を探していて。
けれど、見つからなくて
見つけられなくて
それでも歩いて、歩いて、歩いて…
そのとき、私は初めて彼女を見た。
どんな真っ暗な闇の中でも、彼女の白銀の髪と、白い肌は黒い世界の一角を切り取ったかのように綺麗に見えて
端正に整った小さな白い顔に蒼く凛々しい瞳は光を失うことなく真っ直ぐに私のただ一つの光を見つめていて
今にも壊れて消えてしまいそうな小さなその光を、彼女は祈るように見つめていた。
触れることもせず、近寄ることもせず、その祈りを声に出すようなこともせず、ただただ見つめていた。
”嗚呼、なんて優しい人なのだろう”
…そう、思った。
救われた。彼女のその行動に。彼女のその瞳に。その姿勢に。
胸が震えた。
嬉しさで、苦しさで、胸いっぱいの切なさで。
彼女は優しい。
ただ、分からないだけで。知るのが怖いだけで。臆病なだけで。
そして、とても不器用なだけで。
あのときはまだ、私は彼女の名前を知らなかった。
彼女の声色を知らなかった。
だから今朝、彼女を見かけた時。
あの白銀の髪の優しい少女が私の目の前を通ったとき。
知りたいと思った。彼女の事を。
優しくて、怖がりな、白銀の髪の彼女の事を。
そして知った。
世良という名前を。彼女の声を。
臆病な彼女の中にある、心のほんの一部を。
相手の雰囲気に気圧されて、相手を知ることを拒んではいけない。
私たちが見ている一部が、その人の本質とは限らない。
皆が知ろうとしない世良という少女のように。
私はちゃんと知っている。
彼女の優しさも、臆病さも、脆さも。
たった一人の同い年の女の子の、誰でも持っているそんな人間として当たり前なところも分かろうとせず、受け入れず、ただ避けるだけで、彼女を孤立させる人たちを私は許せなかった。
『ね、ねぇ…奈々。どうしてあの子と一緒にいるの?何をそんなに喜んでたの??なんであの子怒鳴ってたの??』
怯えたような瞳でそう聞いてくる一人のクラスメイト向けて、”僕”は問いかけた。
「ねぇ、なんで君はそんなに世良を怖がってるの?」
そう聞くと、その子は困ったように少し顔を伏せて、大体の人が口にするような世良の印象を答えた。
少しばかりの苛立ちが私の中で湧き上がる。
「そんな風に何も知らずに自分の中で人を決めつけちゃいけないよ。世良は、優しいよ。触れてみれば、分かる。」
そういうと彼女は目を見張り、そそくさとその場を立ち去った。
ちゃんと、分かってほしい。世良の事を。
そして私は、あの人との約束を果たす。
「その為に、世良を生徒会に入れる。そして、僕も入る。絶対に。」
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