!!!Attention!!!
この話は主にカイトとマスターの話になると思います。
マスターやその他ちょこちょこ出てくる人物はオリジナルになると思いますので、
オリジナル苦手な方、また、実体化カイト嫌いな方はブラウザバック推奨。
バッチ来ーい!の方はスクロールプリーズ。
パトカーが家の影に隠れて視界の外へ消えてしまっても、私たちは暫くその場から動かなかった。これで終わりなのかもしれないと思うと、どうしても足が動かせなかった。
あの人が願ったように一人で歩けるような強い子になりたいのに、ただ佇むことしかできない。とても、寂しい。
自分を奮い立たせるために何か声を出してみようと口を開いたけれど、何も声は出てこなかった。
「ちょ、・・・!」
驚いたようなその声と共にバランスを崩しながら隣へやってきたカイトは、私の目を真っ向から見て開いていた口を閉ざす。
何度か言葉をひねり出すように口を開閉して、彼は一度大きく息を吐き出した。意を決したように再び開かれた口から出てきた言葉は、一瞬私の目を細めさせる。
「俺・・・何も知らなくて、ごめん」
思わずきょとんとする私に、申し訳なさそうな顔をしていたカイトはすぐに笑顔を作った。その笑顔に首を傾げる私の頭に、彼の手が伸びてくる。人間ではないその手の温度は、最初会った日の温度よりも高くて、まるで本当の人間のようでドキッとした。
そういえば、彼は出会った頃と比べものにならないほど人間らしくなった。喜怒哀楽の表情や、感情を与えられたボーカロイドは、完璧な人間の再現のようであって・・・複雑な・・・例えば怒りと悲しみというような、二つ以上の感情が混じった表情を作ることはできない。感情も、細かいものはわからないはずだった。
けれど、目の前にいる彼はどうだろう。このカイトは、笑顔の中にどこか哀愁を漂わせている。人といることで進化する機械・・・果たしてそれは本当に機械だろうか。
頭を撫でる手を感じながら目を軽く閉じると、閉じた目の辺りにもう一つの温もりが触れた。目を開くと、穏やかに微笑んだカイトがその手で何かを拭うように私の目の周りに触れている。
「大丈夫だよ、マスター。あの人は・・・竜一さんはきっと帰ってくるから、笑って」
泣かないで、と付け足すカイトに、自分がいつの間にか泣いていたことに気付かされた。頬に滑らせた自分の指先が、涙を掠める。彼が複雑な表情をしていたのはこのせいだったのかと今頃になって気付いた。
カイトが両手を私から離したところで、自分の手で零れていた涙を拭う。
「ありがとうございます、カイトさん・・・でも私、見た目より元気ですから」
にこっと笑いかけると、カイトはまた顔を逸らした。
彼の後ろから忍び寄る影に、私は思わず危険を感じて少しだけ後退る。
案の定、忍び寄ったその人はカイトの肩に手を回して突っ込んできた。そのままバランスを崩したカイトが、私の後退った距離を前進する。
「若いってのはいいな。青春だ」
「まあ、そんなに年取ってました?」
気持ちが良いほどからっと笑った司くんに、その後ろからくすくすと小さな笑い声。
「言葉の綾ってもんだ」「あらあら」・・・なんていつものやり取り。それが何だか面白くて、小さく笑みが漏れた。
きっと二人のそのやり取りは、私を心配してのものだったのだろう。
何だかとても幸せで微笑んでいると、ふとカイトの髪に埃がついているのが目に留まった。
「あ・・・カイトさん、少し屈んでもらっていいですか?」
「ああ」
カイトが屈んでくれたおかげで、少し近くなる距離。その綺麗すぎる蒼の髪にのっていた埃を取った時、彼の伏せられた目に視線が映った。
記憶に新しい、今日の出来事。必死に走ってくれて、必死に私のことを思って動いてくれたことが鮮明に蘇る。
気がついたら、顔にやわらかい髪の感触。少しくすぐったい。
恥ずかしくて離れた私に、驚いた視線が注がれることは見なくてもわかる。
・・・・・・あれ?・・・恥ずかしいって・・・・・・私、今・・・・・・。
「なっ、ま・・・まっ・・・!」
顔が真っ赤なことぐらい、火が出そうな温度でわかっていた。それを見られたくなくて顔を逸らしたのに、カイトの驚いた顔が目に焼きついてしまって余計に恥ずかしい。
どうしてあんなことしてしまったんだろうと今になって思ったけれど、もうどうしようもない。
「自分からやっといてそれはないだろ、律?」
「うひゃわっ・・・!」
耳元で囁かれて、私は思わずびくっと跳ね上がった。後退った私がおかしいのか、司くんはくっと笑い声を堪えている。その時、呆然と見つめるカイトと視線がかち合ってしまってまた顔の温度が上がるものだから、もう穴があったら入りたい気分だった。
何か言わないと誤解されてしまうとわかっているけれど、理由なんて思いつかない。それでもとにかく何か言わなければと慌てて開いた口からは、案の定考えのまとまらない混乱した言葉しか出てこなかった。
「ち、違っ・・・これは、その・・・っふ、ふえぇ・・・・・・
む、昔司くんにしてたのと一緒、でっ・・・その・・・っ!」
「昔と今は違うだろ? お前何歳のつもりだよ」
落ち着いてそう返してくる司くんの後ろで微笑んでるルカさんを見ると、本当に恥ずかしすぎる。
それ自体に意味なんてなくて、ただつい・・・そう、お礼をしたくて気がついたら行動していた、なんてどうやって説明したらわかってもらえるんだろう。司くんが意地悪そうな顔で笑っているから、きっと何を言っても冷静に返されてしまう。
でもここで負けるのは何だか嫌で、私は司くんの腕をぎゅっと引っ張った。
近付く距離が交わり、小さな音を立てて離れる。
「いっ・・・一緒だもんっ!」
再び真っ赤になっているだろう自分の顔のことは気にせず叫ぶように言うと、司くんは自分の口の横を押さえて一瞬状況が把握できなかった、というような顔をした。私だけ赤くなっているなんて何だか悔しいけれど、そこは仕方ない。驚かせることができたなら、きっと及第点だ。
「っな・・・!」
ようやく司くんの口から零れた声に、私は小さく舌を出して見せる。
何を言ってもわかってもらえないのだから、こうなったら自棄だ。
案の定、司くんは驚いてすぐに文句も口から出せない様子。
「お前・・・口で勝てないからって俺にまでこういうことをするのはやめ、」
「司くんのばか!」
怒られると覚悟していたのに落ち着いた返事をしてくる司くんに、何故か苛立ってしまった私の口から出た言葉はそれだった。司くんの口が引きつるのがわかる。
「なーんーだーとー・・・? 俺を馬鹿だっつったか、今っ!」
それが本気ではないとわかっていても、予想した通り気を遣って動いてくれる司くんがやっぱり好きだと思う。
「調子に乗るなよ!」と声を上げながら私を追いかけてくる司くん。私は「え」と戸惑うカイトと、「あら」と驚くルカさんの手を握って駆け出した。
昔の楽しかった日々のことを思い出せるように、小さい頃と同じようにはしゃぐ私は、きっとおかしかっただろう。けれど、三人ともそんな私に文句も言わずに付き合ってくれた。
その途中で零した涙に気付いたのは司くんだけだっただろうか。そうであればいい・・・二人には見つかっていなければいいと思う。
私は、心の中で呟いていた。今日だけは許して、と。
そうして、ここにいないお父さんと竜二さんを思いながら、少しだけ・・・泣いた。
もしかすると神様はこれからも意地悪かもしれないけれど、カイトや司くんやルカさんや・・・大好きな人たちがいればきっと大丈夫、私は歩いていけるんだって、そう思ったんだ。
お父さんと竜二さんが戻ってくるまで、もう悲しい涙は流さないよ。だから・・・絶対に戻ってきてね。
→ep.45
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