注意:実体化VOCALOIDが出て来ます。
オリジナルのマスターが出張っています。
カイメイです。
苦手な方はご注意くださいませ。
オルゴールに入れられていた鍵は、多分きっと間違いなく、…メイコさんの自室の合鍵だ。
紫苑さん所有のこの家は部屋数が多くて、僕ら六人にそれぞれ個室があてがわれていたりする。更にその全てのドアにはきちんと鍵がついていて。
全ての部屋の合鍵を握っているのは紫苑さんだけ。そして基本的に、鍵はふたつしか、ない。
つまりこの鍵は、「邪魔はしないしさせないから」という、紫苑さんからの激励。
たっぷりと曲に聴き入ってから、メイコさんがオルゴールを閉じた。目を開けて僕を認める。
「ありがとう、聴かせてくれて」
…ああ。
はにかむような笑顔と、端的な感想に、突き上げるような感情が喉を襲ってきた。息も詰まって声が出ない。
「…どうしたの?」
メイコさんの問いに口元を左手で押さえて首を振った。メイコさんが眉根を寄せる。
ああ、そうだ、当たり前じゃないか。
音は発するだけじゃ音にならない。誰かに届いてやっと「音」になる。受け手が居てこそ、音を発することに意味が出来る。
…僕は「音」を作れていたんだ。僕の声を紡いでくれる人がいて、僕の声を受け止めて「音」にしてくれる人がいて、僕は。
不安そうな顔になったメイコさんが、オルゴールを左手に乗せたまま、そっと右手を伸ばしてくる。その指の感触を頬に感じた瞬間、声を絞り出していた。
「っき、聴いて、くれてっ、…ありがと…っ」
情けなく涙に揺れる声。メイコさんが軽く目を見開いてから、その目を細めた。僕の頬を一度だけ軽く叩いた右手を頭に乗せてくれて。
「頑張ったわね。お疲れ様」
そんな言葉と共に髪を優しく撫でられて、…結局こらえることは出来なかった。
「ごめんね、もう、…泣いてばかりで…」
衝動が収まるまで、メイコさんはずっと僕の髪を撫でていてくれた。
「そんなこと気にしないで。ちょっとは落ち着いたの?」
「うん…」
頷いてみせると、メイコさんが軽く僕の頭を叩いて手を離す。くるりと身を翻して、机の上に僕の預けたオルゴールを置いているのを見て、ふと思い出した。
「メイコ、さん」
「なに?」
何だか催促してるみたいだけど。でもやっぱり気になるし、もしもあるのなら、欲しい、し。
振り返ってくれたメイコさんに歩み寄って、ゆっくりと、躊躇いがちに、口にする。
「今更、かもだけど、…プレゼントって、なに?」
かあっとメイコさんの顔が赤く染まった。
「…お、おぼえて、た?」
「う、まあ、…そりゃあ。あの時は話、流しちゃったけど…」
目線を彷徨わせ始めるメイコさん。手も落ち着きなく宙を動いている。赤らんだ顔といい、まさか。
「…まさか、とは思う、けど」
「な、なによ」
「プレゼントはメイコさん、とか、言わないよね?」
メイコさんの顔が更に赤く染まった。僕を睨みつけて怒鳴り声を上げる。
「っ、莫迦っ! そんなこと言うわけないでしょ?!」
「あ、うん、…ごめんなさい」
流石に調子に乗っていたのは分かるので、深々と頭を下げる。
「ああもうっ、何処からそういう発想、出て来るのよ…」
…欲しいものだからだと思う、なんてことを言ったら火に油を注ぎそうなので、改めて、ごめんなさい、を口にする。メイコさんが大きくため息をついて、スカートのポケットに手を差し入れた。
「…手、出して」
「手?」
言葉に従って、首をかしげながら両手を差し出すと、メイコさんがポケットから手を出した。しゃら、と軽い金属が触れ合う微かな音がする。僕の左手首に冷たくて細いものが巻きつけられる感触がした。ほんのかすかに、かちん、という音がする。
左腕を持ち上げてみた。三色の丸い石を繋ぐ銀の細い鎖が、僕の手首で揺れている。
「ブレス、レット?」
僕が確認すると、こくん、とメイコさんが頷いた。
「一応、本物の宝石なの。…妹さんのツテで小さいのを格安で仕入れてもらって」
あ、なるほど。紫苑さんの妹さんは、服飾関係の職だから、装飾品とかに関してはツテが広いはず。
「宝石、かあ…」
「ルビーと、サファイアと、アメジスト、なのよ」
深い赤のルビー。深い青のサファイア。その間に、鮮やかな紫のアメジスト。って、この色の取り合わせは。
「メイコさん。これ、…ひょっとして」
「…皆の分までするには、予算、足りなかったし」
頬を染めたままのメイコさんがそっぽを向く。
「アメジストは、あんたの誕生石だし。ぴったりじゃないかなって」
ちら、と様子見の目線を投げられた瞬間、僕はメイコさんの身体を抱きすくめていた。少しだけ強張った様子が感じ取れて、離しそうになる自分を抑え込みながら、問いかける。
「ねえ、メイコさん」
「な、なぁに?」
「僕に触れられるの、…嫌じゃない?」
びくっとメイコさんが震えるのが分かった。あまりに露骨なその態度に、制しきれずに腕を緩めてしまう。でも、メイコさんは僕の胸元に顔を埋めたまま、もごもごと口を動かす。
「あ、あの時、はねっ」
「うん」
「…皆の前だと、恥ずかしくって。反射的に、身体、すくんじゃった、だけで。別にその、…嫌、じゃ、ないの」
もう一度、改めて、強く抱き締める。メイコさんの腕が僕の背中に回された。
許されている。認められている。それが分かって白く染まった重荷が吹き飛んだ。
「メイコさん」
「な、なぁ、に?」
「今日、僕ね、すごくたくさんのものをもらったんだよ」
「…うん」
たくさんの気遣い。たくさんのプレゼント。ああ、でも、…やっぱり一番欲しいのは。
「でもね、このブレスレットも嬉しいんだけど、…メイコさんから、欲しいものが、あるんだ」
「わ、私、から?」
「うん。メイコさんからもらわないと意味ないもの」
ぎゅうっと抱き締める。手放せない。だからせめて。
「…名前、呼んでくれる?」
「な、まえ?」
「うん。…メイコさんに、名前、呼んで欲しい」
大切な紫苑さんと、大好きなメイコさん。弟妹たちも大事だけど、やっぱり、僕の「音」の根底にあるふたりには、…名前を呼んで欲しい。
鎖の感触をしみ込ませながら、腕を解くことなく、待つことしばし。
「…カイト」
メイコさんの声に全身が痺れる。腕の力を強めてしまう。やっぱりこの人が特別だ。呼び声だけでもこんなに僕を絡め取る。
「カイト。…私のところに、来てくれて、ありがとう」
予想外の言葉が付け加えられてきた。
「ありがとう、本当に、…ありがとう。カイトがいてくれて、私は、嬉しいから」
きゅうっとメイコさんが腕の力を強める。
「幸せだから…」
どうしてこう照れ屋の癖に爆弾発言落とすかなメイコさんは。
メイコさんの背中に回していた手を片方、ゆっくりと後頭部に移す。栗色の髪が手に心地良い。気付いたメイコさんが、おずおずと、僕を見上げてきてくれた。その目尻に輝くものを見つけて、僕はそっと顔を近づけた。
もう大丈夫。怖くても、不安でも、つらくても、苦しくても。
アイスケーキの味と、オルゴールとブレスレット、それに、響き続ける僕の名前を呼ぶ声が、僕を立ち上がらせてくれるから。
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ご意見・ご感想
sunny_m
ご意見・ご感想
はじめまして。sunny_mといいます。
カイトの淋しい心持や、他のボカロたちの暖かな感じや、マスター紫苑さんのカイトを大切にしている様子や、もろもろ、心を鷲掴みされた要素は多々あるのですが。
最終的にはメイコさんの可愛さにノックアウトされました(笑)
こんなに素敵なお話の最中に、カイトの誕生日プレゼントはメイコさん自身だろう。と期待してしまった駄目な大人でごめんなさい。
いきてゆくということはちょっと大変だけど、それでも進んでみたら、気がついたら宝物が手の中にあるんだ。と思うような、お話だと思いました。
素敵なお話をありがとうございました!
それでは!
2010/04/02 14:20:05
西の風
>sunny_mさん
はじめましてっ。ご感想有難う御座います!
以前からsunny_mさんの作品、拝見させて頂いておりました(ここで言うことではない
つい詰め込んでしまう身としては、色々なことを感じて頂けたようで嬉しい限りですよっ。
大人で可愛いメイコさんを目指して書き続けたいと思います(笑)。
あー、この後どうなったのかはあえて書きませんが、推して知るべし、ということで。誕生日なのでカイトには山ほどのプレゼントをあげたかったのです(笑)。
こちらこそ、素敵な解釈というか、素敵な読み取り方をして頂けて…っ、幸せです。
有難う御座いました!
2010/04/02 23:55:13
やまと
ご意見・ご感想
すごい素敵なお話でどきどきしながら読んでました。ありがとうございました…!!
2010/03/22 20:50:39
西の風
>やまとさん
ご感想有難う御座いますっ。すごい素敵と言って頂けて光栄です…っ。
お読み下さって本当に有難う御座いました!
2010/03/23 01:03:10