イチオシ独立戦争 ※二次創作


※この物語には残虐な描写、グロテスクな表現があります。

01
 擦過音。
 僕は耳元で爆ぜるその音に、とっさにその場に身を投げ出して、瓦礫の陰に倒れこんだ。
 それは反射的なもので、その擦過音が耳元を掠めた銃弾の音だとはっきり認識したのは、倒れこんだあとになってからだった。
 抱えた自動小銃ががちゃりと音をたてた瞬間、その衝撃で引き金に指が触れてしまう。
 発砲音と共に、地面と僕の身体の間で自動小銃が暴れた。
 顔のすぐ横で銃火が明滅し、銃弾が明後日の方向に飛んでいく。耳元で激しい発砲音が響く。排出される焼けた空薬きょうが、僕の胸元で焼けつく痛みを生む。
「……ぐっ」
 僕は泣き叫びたくなる気持ちをなんとか押さえ込んで、顔をしかめる。
 なんとか焼けた空薬きょうを払いのけ、自分の自動小銃を見下ろす。
 暴発で無駄遣いしたのは四発。銃弾はまだ残っている。
 耳鳴りもしていて、もうろうとするけれど、ぼんやりしてなどいられない。
 自分のミスだ。だけど、あのまま突っ立っていたら死んでいた。
 ……いやそもそも、うかつにこんなルートをとったのが悪かった。
 部隊で一人だけ指揮官に誉められて舞い上がってしまった。それで、普段なら避ける開けた場所を通った。それで、リスクなんて考えずに突撃した結果だった。
 頭上ではまだ銃弾が飛び交っていて、瓦礫の陰からは出ることができない。
 だけど、ここに敵が一人いることは既にバレている。回り込まれる前に移動しないと、ここでぐずぐずしていてもやはり死ぬだけだ。
 一か八かに賭けるしかない。
 とはいえ、これまでにその賭けをやらずに済んだことなどない。
 僕の戦いは――僕の人生は、いつも一か八かの無謀な賭けだらけだった。
 鳴り響く銃弾の音からして、撃ってきているのは二人。
 そして彼らは、相対する僕らと同じでずぶの素人だった。とりあえず銃の撃ち方だけを叩き込まれ、自分が撃たれないためにはどう立ち回ればいいのか、生き残るためにはどうすればいいのかを知らない兵士。
 間隔を開けずに撃つことなどできず、二人そろって同じタイミングで弾倉を使い果たし、銃撃に空白ができる。
 ――今だ。
 僕は身を起こして瓦礫から自動小銃だけ出し、牽制ででたらめに撃つ。
 そんな適当に撃って当たるわけなどないが、敵は悲鳴をあげて逃げまどう。
 その隙に瓦礫から飛び出すと、敵に向かって撃ちながら建物まで走る。
 走りながら、今度はちゃんと照準器をのぞいて狙いをつけるが、僕の撃った弾丸は敵の周囲の壁に弾痕をつけるばかりで、建物にたどり着くまでに彼らを仕留めることができなかった。
 ――今ので照準が狂ったか。
 建物の陰に入って一息つき、弾倉を入れ替えながらそう考える。
 瓦礫の陰に倒れこんだ衝撃が、銃に影響を及ぼさないわけがない。
 うかつにもほどがある。
 今、生きているだけで幸運だ。
 一つのミスが死に直結する。もっと……うまくやらないと。
 意識を切り換えて、僕は建物の陰からさっきの敵を見る。
 彼らは逃げるのに必死で僕がどこに逃げたのか見ていなかったらしく、今は何事か叫びながら、でたらめに撃ちまくっていた。
 僕は陰から膝立ちになってしっかりと狙い、射撃。
 当然ながら、照準からはかけ離れた軌道で銃弾が抜ける。
 それを元に、今度は角度を調整して再度発砲。
 敵が倒れる。が、当たったのは腹だ。死んだ訳じゃない。
 もう一人がかけより、倒れたそいつを引きずって助けようとする。
 ――いい的だ。
 自動小銃を両手と肩でしっかりと固定し、頭を撃ち抜く。
「……」
 僕の放った弾丸はそいつの眼球から後頭部へと抜けていった。
 力を失って倒れていくのを見ながら、耳を澄ます。周囲には他に誰もいないみたいだ。
 立ち上がって二人に近づく。使っている自動小銃は同型だった。無駄に使ってしまった銃弾をもらっていかないと。
「う……あ……」
 重なりあって倒れている二人。上にいるやつは僕が頭を撃ち抜いたから即死。下にいるやつはまだ息があった。そばまで来て見下ろす僕に気づいて、血を吐きながらもがく。
 銃を撃とうとしているのだ。
 だがそいつの自動小銃は死体の下だ。上のやつをどかして僕に銃を向ける力も残っていないんだろう。ほっといてもすぐに死ぬ。
「……」
「ごほっ……や、やめ――」
 僕は引き金をひいた。
 そいつの頭が衝撃に跳ね、鮮血が僕にかかる。
 二人とも、僕と同じくらいの歳だ。
 たぶん、十五、六歳くらい。
 よくあることだ。
 殺すことも、殺されることも。
 そんなことにかかずらってはいられない。ただでさえこの戦闘で時間を無駄にしているのだ。
 死んだのを確認してから、僕はそいつらから弾倉を二つ拝借すると、目的地へと急いだ。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

イチオシ独立戦争 1 ※二次創作

第一話

お久しぶりです。
今回はゆうゆ様のアルバム「イチオシ独立戦争」より「イチオシ独立戦争」をお送りいたします。

今作には残虐な描写、グロテスクな表現があります。
また、倫理的に許しがたい行為、というのも多数出てきます。
残虐・グロテスクといった部分の詳細な描写は避けていますが、苦手な方はご注意ください。

今回のテーマは……この第一話を読んでくださった方には説明するまでもないと思いますが「子ども兵」です。
ボカロ二次創作でやるテーマではない。
……原因は、女子生徒が自動小銃を抱えたアルバムのパッケージデザインだと思っています(責任転嫁)

全十話。最後までお付き合いいただければ幸いです。


今回、二次創作にあたり、下記の書籍を参考にしました。

鬼丸昌也+小川真吾「ぼくは13歳 職業、兵士 あなたが戦争のある村で生まれたら」合同出版株式会社 2005年
永井陽右著「ぼくは13歳、任務は自爆テロ。 ――テロと紛争をなくすために必要なこと」合同出版株式会社 2017年

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投稿日:2018/08/25 18:06:06

文字数:2,011文字

カテゴリ:小説

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