小さな芽が、枯れないように
投稿日:2010/11/09 16:38:17 | 文字数:4,419文字 | 閲覧数:842 | カテゴリ:小説
めーちゃんって、どうあがいても黒くならない…
BGMはRinascita~始まりのうた~です。っていうか「うた」変換できないって、このパソコン駄目だ…早く何とかしないと…
最近カラオケに好きな曲が沢山入って嬉しい…
ちなみに好きな曲は
ミク:ジェンガ(40mP)
ルカ:No Logic(ジミーサムP)
リン:proof of life(ひとしずくP)
レン:10001colors(ナタP)
カイメイ:Rinascita(仕事してP)
10001colorsはニコニコにはルカさん投稿らしいですが、レン版が好きです。先に聞いたからかもしれないんですけども…
歌え。歌え。溢れる、その思い。
<小さな芽が、枯れないように>
「あーもー、しっかりしなさいよ、男の子…っていうか成人男性がべそべそ泣かないの」
「だって僕…殆どお呼びが掛かんないし」
めーちゃん提唱の、べそべそ、という効果音を纏いながら、僕は泣き言を漏らす。
発売されてからもう数ヶ月。だけど、僕に声が掛かったのなんて未だに数えるほどしかない。
「あたしもそうよ。不況の波って怖いわねぇ」
「えっ、そういう問題なのかな、これって」
「そーゆーもんよ」
なんでめーちゃんはこんなにあっさりしていられるんだろう。
「ううう、めーちゃん…」
「ん?」
「僕たちがこうしてここにいることって…本当は、意味無いんじゃないのかな…」
ぐし、と目元を袖口で拭う。多分、いや絶対目の回りや鼻の頭が赤くなってると思う。
自分で自分が情けない。こんなに泣き虫で弱っちいなんて、どうしようもない奴だ。
本当に僕って、使えない…
「…あたしはそうは思わないけど?」
「えっ」
さっぱりとした声に、僕は泣き腫らした目を見開く。
つい見てしまったその顔は、さばさばした明るさを湛えていた。
めーちゃんはしっかりと僕と目線を合わせ、飽くまで軽い調子で言う。
「なんかねー、ほら、あたしって待機年数結構長いじゃない?で、かなりの時間一人だったもんだからあれこれ考えちゃった訳よ。それこそ、なんであたしはここにいるのかな、とか」
僕は黙ってめーちゃんを見つめる。
その暖かい茶色の目を優しく和ませて、彼女は言った。
「結局あたしは、意味のない存在なんてないって結論に辿り着いたの。まあそうでもなきゃやってらんなかったせいもあるけど、今じゃそれもあながち間違ってないかなって気もしてるわ」
やってらんなかったって、めーちゃんちょっと正直過ぎる。
まあ…数ヶ月ほぼ暇状態の僕でさえその気持ちは分かるような気がするんだ。
年単位のめーちゃんの心情は、察するに余りあるんじゃないかな。
うん、本当は愚痴なんて言える立場じゃない。僕なんて、まだできたてのほやほやなんだから。
だけど、だからってこの胸のもやもやが消えるわけでもない。
体育座りした膝に顎を埋めて、僕は溜め息をついた。
「…でも、じゃあ僕たちには、どんな意味があるんだろう」
「あんたねー」
ぴしっ、とおでこに痛み。え、今もしかしてでこぴんされた?
完全に子供扱いされているのは分かったけれど、何故だか嫌な感じはしない。
めーちゃんはそのままぴんっと人差し指を立てる。完全に『お姉ちゃん』の顔だ。
「それ、ユーザーの皆さんに言える?」
「あ」
「あ、じゃないでしょ。まず存在意義そのいち、今現在確実に使ってくれている人がいる。一番忘れちゃいけないわよ」
そうだった。
こしこしとでこぴんされた場所を摩りながら、自分で自分に呆れる。
それさえ忘れて悪いところだけ見て落ち込むなんて、本当にどうかしてる。
とすん。
めーちゃんが僕の隣に腰を下ろす。僕よりも少しだけ背が低いから、その顔はちょっと俯き気味に見える。
こうして見ると、めーちゃんってやっぱり美人だなぁ。いつもは顔の美醜とか気にしないけど、こうして改めて見ているとしみじみとそう思う。
そんな場違いな事を考えていた僕は、めーちゃんの静かな声に意識を引き戻した。
「私ねぇ、KAITOが来るまではやっぱり今一つ自信が無かったのよ」
「自信が無かった、って…え?」
反射的に疑問形になる。
なんでもなーい、とめーちゃんは僕の問いを受け流し、視線を空に向けた。
空、っていっても所詮フォルダの中だから当然青く広がるものがあるわけでもなく、そこにはただ延々と広がる果てしないゼロがあるだけだ。
なのにめーちゃんの視線の先には、確かに果てしなく深いブルーが見えるような気がした。
「私達の存在意義。それは『可能性』なんだと思う」
「『可能性』…」
僕は言葉を復唱してみる。
口の中でそれを転がしてみると、なんだか少し目の前が広くなったような感じがして、ちょっと首を捻る。
なんだろう、この感じ。不快じゃない、むしろ爽やかな気分なんだけど…
クエスチョンマークを浮かべた僕に、めーちゃんは面白そうに笑い声を立てた。
「そ。こんな事も出来るんだっていう見本。だってなんだか不思議な感じがしない?ソフトウェアが歌う、なんて」
「うん。自分の事だけど、科学技術って凄いと思うよ」
「でしょう」
「けど、僕たちって結局扱いにくいんじゃないのかな」
なんだかんだ言ったって、お呼びが掛からないっていう現実は確かにそこにあるわけで。僕は少しだけ唇を尖らせる。
声からして不満げな僕の言葉に、めーちゃんは少しだけ考える仕草をした。
「私達が扱いにくいっていうんなら、それを改良した新しい子が出て来るでしょう。私の後にKAITOが出たように。ま、KAITOに関しては、改良云々とは違う理由での発売なんだろうけどね」
えっ、そんなんで良いの!?
軽い。僕は眩暈を感じた。
なんかこう、そこで「自分が」って事に執着したりしないのかな、めーちゃん。
僕ならする。だっていくら他の人が人気になっても、僕が歌えないんじゃ意味がない…と思うんだけど…
「私、歌うのは好き。けどなんか、私ってそこまでそれに固執してないのよね。KAITOが出る時も、単に嬉しかった。私に続く、誰かが生まれたって事だから」
強がっているような感じはない。
その声は、ただ、ひたすらに静かだ。
「今、芽が出た。そんな風に思ったの」
めーちゃんは続ける。
まるで、どこか遠くを―――未来を見渡しているような目をしながら。
「いつか、そう遠くないうちにその芽は育ち、もしかしたら大きな木にまでなるかもしれない。ううん、あたしはそうなるんだって思ってる。信じてる」
「それって、新しい子が人気になるって事?」
「そういう事ね」
さらっと肯定されてしまった。
僕はなんだか複雑な気持ちになって、思わず疑問を声に出す。
「…めーちゃんは、自分の事は良いの?」
え、とめーちゃんが目を見開く。僕は重ねて質問した。
「自分が売れて人気になりたい、って思わないの?」
僕の問い掛けに、めーちゃんは目をぱちくりとさせた。
「そりゃあ当然思ってるわよ。だから次の子に期待してるんじゃない。その子が売れたらきっと私達も見直されるわ」
「おお、なんか思ってたよりめーちゃんってしたたかだね」
「とーぜん。下積み時代の長さが違うわよ」
「うっ、先に計画されたのは僕じゃなかったっけ?」
「そんな事もあったようななかったような」
「めーちゃあーん」
「ゴメンねー、もうトシなのよーあはははー」
「うわぁ、嘘だぁ…思ってもない事言わないでよめーちゃん」
「私達のすべき事は、芽吹いたものを守ること。そうすれば、後は勝手に伸びていくでしょう」
ひょい、と隣で軽やかに立ち上がる、クリプトン最初の女性シンガー。
多分この人は、どんな存在が後に続いたって変わらないんじゃないかと思う。
いつだって未来に繋がる自分を信じて、前を向いて歌っていくんだろう。のびやかに、爽やかに。
「生きる力ってのは馬鹿にできないわよ?」
そう言って大きく伸びをするめーちゃんの横で、僕も少しだけ笑った。いつの間にか肩からは力が抜けて、色んなものがきちんと見える。
言葉に力がある、って言うのは本当だね。
めーちゃんの言葉は、僕の行く先を照らしてくれる。
僕たちの使命は、単に歌うこと。…じゃない。
いつか僕たちの隣に現れる妹や弟が、笑顔で歌えるように。いつか僕たちの歌に触れる誰かが、何かを感じることが出来るように。
僕たちは―――未来へ繋ぐ歌を歌うんだ。
「カイ兄!もうっ、氷ネギ冷蔵庫に移さないでって何度言ったら分かるの!?」
「えっ、まさかリンの冷凍みかんも!?」
「俺のバナナ解凍したのもカイ兄かよ!」
「わ、私の冷凍マグロはなんとか無事でした…」
妹や弟達の不満の声に、僕は慌てて弁解した。
「仕方ないじゃん、アイスが入らないんだから!」
「アイスが」
「入らないん」
「だから?」
あれっ、皆、なんでそんなに冷たい目で僕を見るんだろう?だってネギやみかんやバナナは冷蔵庫でも保つけど、アイスは冷凍庫じゃないと溶けちゃうんだよ?
なのに、なんでこんなに…殺気、が…
「ぎゃわあああっ、ごめん、ごめんなさいっ!僕のアイス食べないで!買ってもらったばっかなんだよ~!」
「むぐ。うるはいよはいにい」
「冷たくておいしーい!」
「ルカも食っちゃえよ」
「い、いえ、私は実害ありませんでしたから」
頑張れ唯一の良心、ルカちゃん。でも一対三じゃあ暴走する悪魔達は止まらない。
ああ、僕の大切なアイス達は、一人(一個)残らず食べ尽くされてしまうのか…!
「KAITO、マスターからデュエット依頼来たわよ…ってこら皆、何してんの。あんまりお兄ちゃん泣かせちゃ駄目よ?」
「めーちゃん、アイスがあ…!」
「上手く歌えたらまた買ってくれるかもしれないわよ。はい、さっさとスタジオ行く」
半ば引っ立てられるようにしてフォルダを出る。ああ、さよならマイディアアイス…上手く歌えたらご褒美にまた貰えるかなぁ…
スタジオまでの通路を、めーちゃんと並んで歩く。
かつかつ、響くのはめーちゃんのヒールの音。そこにたまに僕の靴の立てる音が混じる。
不意に、めーちゃんが足を止めた。
なんだろう。僕もつられて歩きを止める。
「ね」
静かな通路の中で、めーちゃんの少しだけ掠れた声が小さく笑った。
「言った通り、びっくりするくらいの木になったでしょう」
すぐに何の事を言っているのか分かった。だってあのめーちゃんの言葉は、僕の中でしっかりと根を張っていたから。
だから僕は、躊躇う事なく頷きを返す。
「本当にね」
思えば、あの辛かった時…あれは僕等にとっての冬の時代だったんだろう。
あの時寒さに負けて枯れ落ちてしまっていたら、今ここに僕はいなかった。
冬が来たのなら、春はもう遠くない。
そこで耐え抜くことさえ出来れば―――花が咲くんだというのは、きっとソフトウェアの僕たちであっても変わらないんだろう。
だって、実際こうして咲いたんだ。
大輪の花が。
その中には、僕ら自身も入っていて…
「…はー、めーちゃんには敵わないなあ」
「ふふ、当然よ」
春は永遠には続かない。
やがて夏になり、秋を迎え、再び冬がやってくるのだろう。
でもその時も、何とかなるんじゃないかと思う。
きっとその先には、また花咲く未来があるんだと…信じる事が出来るから。
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星に願いを -唐突な奇跡に対する、幾つかの事例-【兄誕2012*第4夜】
獅子座だったか射手座だったか、細かい事は忘れたが。
観測史上最大規模だというその流星群は、人々を即席の天文ファンに仕立て上げ、ネットの動画サイトでも生中継された。
星に願いを。
濃藍の夜空を降り頻るシューティングスターに、幾多の人々の、数多の思いが託される。
それは、電子の闇夜でも。
星に願いを -唐突な奇跡に対する、幾つかの事例-【兄誕2012*第4夜】
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あなたと私だけの歌【終末ボカロ企画・pixvより】
目を覚ましたとき、真っ先に目に入ったのは真っ赤な空だった。
まるで世界が終わってしまうような不安を与える赤く染まった色に目を覚ましたばかりの私は手を伸ばし、そして手を伸ばしきる前、透明樹脂の冷たい感触が指に触れた。意識がはっきりと覚醒していく。自分を囲むのは狭い空間。まるで棺桶のような冷凍睡眠装置。ああ。とまだほんのすこし現在と過去とが入り混じった意識のまま、私は手元にあるスイッチをいくつか押した。ロック解除。かちかち、と自分を収納していた棺桶のようなこの装置のロックが外れる音を耳に届く。本来ならば自動で蓋も開くはずなのだが、長い年月を経たせいで蝶番が壊れてしまったのかもしれない、蓋はほんの少しだけ開いただけで止まった。
ほんの少しの隙間から入り込んできた、記憶していた空気よりも酸素濃度の濃い、大気。
重い蓋をゆっくりと持ち上げて外す。湿度も高いのだろう、ねっとりとした質量を有する空気が肌にまとわりつく。私は蓋を無理やりこじ開けて棺桶のような冷凍睡眠装置から起き上がり、外へと出た。
風が、私の二つに結い上げた長い緑の髪を揺らして、通り抜けた。
あなたと私だけの歌【終末ボカロ企画・pixvより】
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未来飛行・前編
こちらは“BUMP OF CHICKEN feat. HATSUNE MIKU「ray」” を原曲として書いた二次創作です。
ミクもミクのマスターもバンドのメンバーも、原曲を奏でる彼らをモチーフにはしていますが、すべて私の妄想です。正しくは、ミクさんもバンプも好きすぎてこの楽曲にかなり興奮して勝手に私、妄想しちゃったよ、的な話です。好きすぎて「こんな感じだったらいいなぁ~」とこじらせた結果です。作中の彼らの言動はすべてフィクションなのでご了承ください。
すべて私が勝手に妄想した話を、それでもいいよ、という方は前のバージョンで読み進めてください。
未来飛行・前編
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十一月五日。
十一月五日。
それは、当たり前の日常が、ちょっとだけ特別で、とてもいとおしく思える日。
十一月五日。
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カウンターの距離
グラスに入った氷が音を鳴らして割れる。琥珀色の液体を飲みきった彼女はカウンター越しに腕を伸ばした。
「もう一杯」
そう告げるメイコの顔は微かに赤く火照っている。もう二時間以上飲み続けている彼女は口調ははっきりとしている。が、いつもと言動が違って見えた。どうやら酔っているらしい。
カイトは磨いていたグラスを置いてそのグラスを受け取る。
「もうその辺で止めておいたほうが懸命ですよ?」
カウンターの距離
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Cafe・ただのいたずら
この作品は、以前書いた、カフェの話の番外編的な話です。
一連のカフェを舞台にした話を読んでいないと、ちょっと分かりにくいかもしれません。
それでも良いよ。または、読んだことあるよ。という方は前のバージョンからどうぞ。
Cafe・ただのいたずら
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千年を繋ぐ、彼らの話 -名刺裏千年祭
灰色の丘で、ひとり -名刺裏千年祭①
丘の上には、墓標があった。風雨に晒され、朽ちかけた、ぼろぼろのかたまり。遠目には苔生した
塚のような墓石のようなそれは、しかしそれだけではなかった。
キィ。……キィ。…………。
風鳴りのような、錆の擦れるような、軋んだ音がする。何だろうと耳をそばだてても聞き取れず、
千年を繋ぐ、彼らの話 -名刺裏千年祭
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おばあちゃんの唄
お元気ですか
そちらの世界はどうですか
僕は天国を信じないけどいつかまっさきに会いにゆきます
納涼祭で一緒に盆踊りを踊りました
おばあちゃんの唄
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おやつに詰めた妄想たち・4
H25年の6月の某所でおやつという名の賄賂と一緒に、一部妄想も詰めました。そして、もろっと渡しました。その内容と加筆したものです。
もう今年の某イベントも終っちゃったよ。あはは……。
前のバージョンで読んで下さい~。
H26.7/1 よにんめ投稿。
『どうしました?また甘えんぼモードですか?まったく俺のマスターはホントに仕方のない人ですね。…あれ、拗ねちゃいましたか。そんな風に睨み付けても可愛いだけですよ。ほらこっち向いて。素直になったらぎゅってしてあげますから。
おやつに詰めた妄想たち・4
鏡音が好きです。双子でも鏡でも他人でも。
というか声が好きなのが原因なのか…それとも設定が原因か…
ちなみに最近ピクシブも同HNでやってます。
タグがいじられているとテンション上がります。何ですか皆さんセンス良すぎです
そういえば、何だかブクマとかコメとか頂いてるようでどうしよう。まさかの100ユーザーブクマ突破かなり嬉しいです。精進します。
文:正直暗いかハイテンションな犯罪臭しか書けません!
ぽっぷできゅーとな作風って何?私の辞書は欠陥辞書らしく、検索してもヒットしませんでした。
絵:素人も良いところですが練習も兼ねて妄想を垂れ流していく所存であります。
まあ見てのとおり、種族を細かく言えばリン廃です。日々レベルアップしています。
ボカロウイルスは周辺で増殖中。いいぞもっとやれ