『さて―――――』





ロシアンが斜に構えて、私の事を見上げた。


『避難は終わったか?』

「ええ、全員シェルターに避難完了」

『よし。ではルカ……まずは心透視で町全体のヤクザを洗い出せ』

『O……K!!』


全身の発音器官を揺るがし、町一杯に調査音波『心透視』を広げた。因みにうちのボカロ達は喉だけじゃなく、全身に発音器官があり腕でも足でも頭でもお尻でも音波術を放てる。うーん……お尻までつける必要あったんだろうか?

それはともかく、町全体を心透視で浚ってみると……既に町のあちこちに、ヤクザと思しき人間どもが。


『……100……200……うん、500はいるわね』

「500人っ!!? そんな大人数で……!?」

「この町の何が目的なんだ……?」

「大方狙いは……私たちVOCALOIDの体よ」

『体ぁ!?』


身体と言ってもR-18な意味じゃない。私たちの体に使われている金属『バイオメタル』は金塊もびっくりの値段で取引されるのだ。

大方それを使って政治家でも強請る気だろう。


『まぁ、数で押し寄せればどうにかなると思うのが間違いだがな。……今から敵の数を絞る。それが終わったら、神威はルカ×2を連れて残党潰しに走れ』

「絞る? どういうことだ」

『少々数が多すぎる上に、敵の中に100人ほど幹部級がいる。奴らは少し厄介だからな……先に吾輩の手でつぶしてやろう』

「いくら幹部と言っても人間だろう? 正直今の俺ならただの人間に負ける気は……」

「幹部級は少し人間離れしてるからね。先生並よ」

「ええっ!? 神威さん並!?」


この世界のヤクザは実力がものをいう。ヒラなら戦闘力はその辺の警察と同レベルだが、幹部級だとショットガンで二丁拳銃する変態とか150㎞の剛速球(手榴弾)をぶん投げてくるピッチャー上がりとかがいる。私とてその辺と対峙するときには体勢を整えなければいけない。


『まぁ見てろ……5分の1ぐらいにゃ減らしてやるさ。齢300年の猫又の本気……見せてやんぜ!?』


一瞬にして口調が変わると同時に、碧命焔が地面を突き破って噴出した。

よく見れば町のあちこちで碧命焔が立ち上っている。ロシアンが足元から地中に流し込んでいたんだ―――――


「これは……刑事さん、ロシアンは何を……!?」

「……わからない!! これは私も見たことがない技よ……」

『当然さぁ……ついこないだ思いついた技だからな!! ……よしっ、行くぜぇ……!!』


すぅ……と息を吸って……目を見開いたその顔は、まぎれもない戦闘狂の顔――――――――――



『――――――――――焔』





『九頭龍……………………………………………!!!!!!』





《ギュィィォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!!》





―――――嘶き。いやそれは実際には碧命焔の轟音だったが―――――町の各地から飛び上がり、舞うように天駆ける龍の形をした碧命焔の、まさしく嘶く声だった。

舞い踊る九頭の焔の龍―――――ロシアンの小さな足踏みで、一斉に下を睨んだ。


『……喰らいつくせ』


その一言とともに―――――九頭の龍が舞い踊りながら降下。町中を駆け回り始めた。

時々野太い悲鳴が聞こえる―――――大方、ロシアンが命じた敵を胃の腑に飲み込んでいるのだろう。

ロシアンは私達と関わった後から積極的に人を殺すことはなくなったが、ヤクザどもは竜の腹の中で、碧命焔による恐怖の幻覚を見せられるという生き地獄でも味わっているはずだ。


『よし、行くぞ3人とも』

「え? あの龍はあのままでいいのか?」

『ああ、ターゲットを見失えば上空に飛び去り、その状態が3分続けば形を解いて吾輩の元に戻ってくるようになっている。出来はまずまずの技だが、視力が弱くてな……必ずいくらかは打ち漏らす。貴様らにはそ奴等を葬ってもらう』

「わかった。ルカ、離れるなよ」

「は、はい……!」

『お前もだルカ、狂うなよ』

「あんたにだきゃー言われたかないわ……」


この戦闘狂が。

だがこの技はいい……9頭の焔龍が独立して動く分だけ、敵を一気に殲滅できる。

問題なのは敵の数だ―――――異常に多い。最初は500人程度だったのが、焔龍に食われているにもかかわらず未だに増え続けている。どんどん外からやってきているのだ。

いくらこの『焔九頭竜』という技が優秀でも、いったいどこまで持つか……。


そうこう言っているうちに第一残党発見。ざっと50人くらいか。体つきを見る限りは全員ヒラだ。

すると続いて肩で大きく息をしながら、別の残党の集団が右手から。こちらには一人幹部級がいる。背中に突き出たショットガン二丁拳銃式……あの龍の視力が弱いというのは本当のようだ。

「ロシアンはルカちゃんを守ってて。ルカちゃん、ロシアンの傍、離れちゃだめよ」

「はい!」

『ま、いいだろう』

「先生、左のヒラオンリーの残党潰してくれる? 私はあっちの幹部入りを吹き飛ばす」

「応」


小さく答えたのを確認して、同時に駆け出した。


と言っても、こちらは数十秒もかからないだろう。

この町に土足で上がりこむような屑どもだ。遠慮はいらない―――――一撃だ!


『蛸』

『足』



『滅・砕・陣っ!!!!!!』



八本の鞭を荒れ狂わせながら敵の群れに突っ込む。衝突の寸前幹部級が二丁のショットガンを構えようとした気がしたけど、正直見えなかった。

荒れ狂う鞭が敵の集団を真ん中から跳ね飛ばし、空中で全身の骨が砕けるまで乱舞する。いつも思うんだけど、我ながらこの技封印した方がいい気もしてきたわ……。

軽く服の埃を叩いて、先生の方を見やると―――――


「……うわぉ」


思わず声が漏れた。何だありゃ。


ひゅん、と空気が唸ると同時に、白、赤、黄のチョークが3人の男の喉に直撃。

その勢いで軽く飛んだ敵を受け止めた他の男の動きが止まると同時に、懐に飛び込んでいく先生。

軽くて首のスナップを利かせながら、両袖の中から棒状のスタンガンを取り出し的確に相手の喉に押し込んでいく。

彼を包囲していた輪は解かれた―――そこに今度は拳銃を持った敵が。ざっと10人。

しかし怯まずに体勢を低く持って、相手の膝に向かってチョーク連発。色とりどりの一条の光線が、敵の膝の皿を砕く。バランスを崩したところに、至近距離からの投げナイフ連撃。

首筋に食い込み、次々と敵が倒れる。……銀製だから重いのは確かだろうけど、刃ァついてないのかしら、アレ。

しかし遠距離から拳銃を構える集団、そして低い体勢からナイフを構えて襲い掛かる集団が。流石に緊急時の統制はとれている……!

―――――が。


『っ!!?』


突然脳内に凄まじいノイズ音。見ると先生が、ナイフ隊の耳元で凄まじい早口で喋っている。怯んだ敵を、拳銃の柄やゼロ距離チョークで叩き伏せた。

続いて拳銃隊に向かって、逆に拳銃を構え連射。片手撃ちなのに全くブレがない! しかも狙いは正確に敵の両肩の関節―――――殺さず殺されずを貫くには絶妙な位置だ。

肩を撃ち抜かれた敵がよろめくと同時に、近づいてすれ違いざま何かを語りかけた。再び脳内に響くノイズ。たじろいだ敵を膝で蹴り上げたり高角度のハイキックで地面に叩き込んでいく。

さっきのが噂のマシンガントークか……心透視全開のままだったからうっかり受信しちゃったんだ。

しかしあんなものを至近距離で耳に叩き込まれたらどんな豪傑でも動きが止まってしまう。しかもあの調子なら純粋な精神攻撃としても優秀だ。


何という並はずれた戦闘センス。何という技術。



世が世なら―――――仮にこの世界に生まれていたならば、彼は歴史に名を遺す様な超絶戦士になっていただろう。

惜しい気もするし、見たくない気もする。あんな恐怖を演出できる天才戦闘員がいたら敵味方関係なくたまったもんじゃない。役者でよかった、というところだろうか。



最後に軽く跳んで上空から矢を連射。足を撃ち抜かれた残党の脳天にチョークを落として、勝負が決まった。


「ふぅ……悪い、手間取った」

「いや……充分早いわ」


あの人数なら普通の人間では十分はかかるだろう。かかった時間はわずか3分―――パワーアップ補正を考えても充分早い。


「ロシアン! 他はどう?」

『大勢は決したな……龍もだいぶ満腹のようだ。残りは十数人もおるまいよ』

「ふぅ……そこまで慌てるほどでもなかったかしらね」


4人とも緊張を解いて、腕を降ろした――――――――――



その瞬間が命とりだった。強烈な殺気を感じた瞬間にはもう―――――遅かった。



「先生逃げてっ!!!」

「なっ!!?」


思わず後ろを振り向いた先生の眼前には―――――巨大な金棒を構え、突っ込んでくる幹部級の男が飛び込んできていた。


「うらぁ!!」

「くっ……!!」


咄嗟に後ろへ飛んだ先生。しかし躱しきれず、横なぎの金棒が先生の右脇腹を打ち据えた。


「がぁっ!!!」


軽く跳ばされて苦悶の表情を浮かべる先生。よく見れば右脇腹に血がにじんでいる。

パワーアップ補正は単なるパワーアップじゃない。全身の筋肉強度だったりエネルギーの伝達だったりが全てパワーアップするのだ。

それらを考えればあの程度の攻撃で血が滲むなどあり得ない。裏を返せば―――先生はあそこに古傷か何か―――弱点を抱えているのか。


だが大事なのはそこじゃない。


お客人に―――――怪我をさせてしまった。私としたことが……! これじゃあゆるりーさんに顔向けができない……!



……いや、まだだ! 



今ココで敵をすべて倒して彼を病院に連れていけばいい。

傷ついたなら治せばいい。治れば元から傷ついてなかったのと同じだ。

まずは敵を倒す――――――――――――!!


『ギアアアアァアア!!!』


鞭を打ち振って男を狙う。

だが心が乱れていたせいか―――――狙いが定まらず鞭は横へとそれた。男の後ろで地面を砕く。

その男が拳銃を向けたのは―――――ルカちゃん!!


「ひっ!?」

『ぬ……!!』


いきなりのことにルカちゃんは腰を抜かし、焔を大量に分離していて動きの鈍っているロシアンは咄嗟に焔の生成ができない。


駄目だ。彼女までやられたら。


私はどうすれば――――――――――





《ドガァッ!!!》





――――――――――白い一条の光線が目の前を走り、拳銃を粉砕した。



……え。粉砕……粉砕!?


光線の来た方向を見ると、右脇腹を抱えながらも、腕を前に投げ出した先生が立ち上がっていた。

つまり今のは―――――チョーク!? だがこれまでとは訳が違う威力だった。

茫然としている男に向かって再びチョークを構える。その眼は―――――血走っていた。


『……ルカに……手ぇ出すなっ!!!!』


再び彼の手から放たれたチョークは、砲弾ですら鳴らさないような轟音を響かせて男の胸に直撃。“弾”がチョークだけに貫通はしなかったが、吹っ飛ばされた男が後ろのビルにめり込んでいく。

何て威力だ。だけどそれ以上に―――いくらルカちゃんが狙われたからと言って、あの眼は……?


『……!! ちぃ!! あ奴め、この短期間でもう吾輩の気に中てられたか!!』

「なっ!!?」


だとすれば今の先生はリミッターが外れ、ロシアン並の狂暴性を持っている可能性がある。敵や味方はおろか自分すらも傷つけかねないとんでもない状況だ。

今すぐ止めないとどうなるかわからない。だけどどうやって止める? ミクもリンもいないこの状況でどうやって彼を傷つけずに止める!?


もう―――――どうすればいいかわからないよ――――――――――










『――――――――――ネルネル・ネルネ・ネットワーク』










突如足元が―――――金色に輝いた。

小さな円が次々に現れ、円と円を金色の線が繋いでいく。

これは……『あの子』のネットワーク?


ネットワークの一部が途切れ、一瞬にして先生を包み込んだ。

金色の光が先生を包み込んでいくと同時に、彼の眼から狂気が消えていく。





「全くもう……ルカさんともあろう人が何慌ててんのよ!?」





不意に響いた声の方向を見ると、金色のサイドテールを揺らしながら、『ネットワークの作者』が歩いてきた。


「ロシアンもさぁ、カッコつけて大技使っちゃって。だから咄嗟に反応できないのよ」

『……悔しいが、言い返せんな』

「これで二人が死んでたら、ゆるりーさん二人にスターシルルスコープ付きでしか会えなくなっちゃうんだからね!? ……お二人さん、大丈夫かしら?」

「う……あ……あんたは……」





そこにいたのは―――――亞北ネル。





かなりあ荘にとってもヴォカロ町にとってもなくてはならない、天才改造師だった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

ヴォカロ町に遊びに行こう 10【コラボ・d】

大変な大乱闘になりました。
こんにちはTurndogです。

とりあえず本気になればロシアンとルカさんだけで何とかなると思うんだけど、調子乗ったルカさんが先生を戦線に乗っけてしまいました。
その結果がこれだよ! 何やってんだこの!(だが書いたのはお前だ
でもこんだけすさまじい戦士ならついうっかり戦線に乗っけちゃってもおかしくないよね。
戦闘スキルが超トップクラスでございます先生永住できるよね!←
そしてルカちゃんがだいぶ空気。仕方ないね。
加えてルカさんの発想がだいぶヤクザ。治してしまえば傷なんてなかった理論は人間じゃどうにもこうにも……。

第9話:http://piapro.jp/t/2U60
第11話:(」>Д<)」<ロッケンロォォル

閲覧数:239

投稿日:2014/04/30 20:19:08

文字数:5,414文字

カテゴリ:小説

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  • ゆるりー

    ゆるりー

    ご意見・ご感想

    ちょ!発声器官!wwwww
    なぜそんなにあるんですか!?wwwwww
    ウワー幹部級キモチワルーイ((

    やったあ!ロシアンの新技!すごっ!?
    先生、「残党つぶして」「おう」ってあっさりだな!ww(注文したの自分
    ルカさん、確かに「なんだありゃ」ってなりますねえ…
    今更なんですが、投げナイフの元ネタとなるテキストどれか忘れました。大罪シリーズだったような気も。
    ルカさん違うよ、「並外れた戦闘センス。何という技術。」の後に、「何という変態。」を付け加えるべきだよ、怪物でもいいよ!((
    チョーク便利デスネー
    多分このとき、うっすら笑ってたんだろうなあ先生。

    弱点は設定しとかないといろんな意味でやばいと思った私でした。
    あと「お客人~顔向けできない」の部分、「あっ全然大丈夫、なんとかなるから☆」と親指をグッと立てた私←
    先生の弱点については、多分今後一生治rおっと口が勝手に。
    いざとなれば我が家のルカさんを覚醒させますが、そうしたら比較的まともだったルカさんが駄目な方向に行くのでやめときますね。

    そしてチョークで拳銃を粉砕しちゃう先生。もうチョークがおかしいね。
    緋色の目に、拳銃レベルから砲弾もぶっちぎっちゃうレベルのチョーク。変だなあ、チョークって白亜とか炭酸カルシウムとかじゃなかったっけ(((
    ちなみに我が家のルカちゃんがなんとかすれば解除できると思うよ(適当)
    最後のネルちゃんかっこいいです!

    ロッケンロォォル

    2014/05/02 19:37:11

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      そりゃーまぁどんな状況でも戦えるように……かなぁw
      いつも口から発してたらかっこ悪い時もあるだろうし←
      へんたーい!((

      ロシアンがパワーインフレしててどうしたら先生を活躍できる状況におけるか小一時間悩んだ←
      あっさりですねww
      むしろならんかったらルカさんは常識が足らない((
      多分大罪シリーズじゃないですかね。一期の最後だったかな?
      では天才で←
      書いても良し撃っても良しとは何て素晴らしい道具なんだ(棒)

      そりゃあれで弱点ナシとか言っちゃったらどうしたらいいのだよねぇ……。
      おうそれでいいんかマスター((
      貴重な常識人がいなくなるじゃないですかやだー!

      きっと炭酸カルシウムコーティングした純金の棒だったんだよ←
      全力で投げればきっと大砲の弾にも勝るさ!(え?
      ネルがかっこいいのが久々な気がするねw

      2014/05/02 23:32:32

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