「ふぅ…なんか緊張しちゃうよ…。
…母さんが、あんなこと言うしさ。」

王宮の広い廊下をつかつか歩きながら、僕は思わずぼやいた。
“あんなこと”とは、王女付きの召使になることに決まった日の夜。
母が突然告げた、あまりにも衝撃的な事だった。

『レン…貴方には、双子の姉が居るの。
それが、リン王女なの…。』

僕は当然驚いた。
幼い頃から王宮に出入りし、リン王女と何度も遊んだ。
その時に、『私たち双子みたいだね』と冗談を言ったことはあっても、まさか本当に双子だなんて思いもしなかった。
しかも、母は深刻さを増した顔つきで、さらにこう続けた。

『レン、くれぐれも大臣には気をつけなさい。
あの人は、貴方達を引き裂いた張本人。
…絶対に、何か企んでいるわ。
どうか、リン王女を…貴方が最後まで護ってあげて…。』

「最後まで…か。
僕にいつまで護れるか分からないけど、絶対にリンを護ってみせるよ、母さん。」

僕は一人決意を固めると、リンが待つ部屋に急いで向かった。

「失礼します、リン王女。
…初めまして、今日から王女付きの召使になりました、レンと申しま」

「レンっ!もう…遅いじゃない!
私、朝からずっと来るの楽しみにしてたのよ!」

僕の自己紹介は、リンの熱烈な歓迎の抱擁で遮られた。
リンは満面の笑顔を見せると、僕をベットの方にグイグイ引っ張っていく。

「ねぇ、レン。
私たち双子なのよね?」

「はい、そうですね。
でも…それが何か?」

リンにも僕らの関係は伝わっていたから、僕は普通に頷いた。
でも、リンはそれを聞いて何故か顔を輝かせた。

「双子なら、王女とか召使とか関係ないわ!
だからね、レンは私に敬語を使わないで?
王女様、もダメよ。」

…それは、さすがに無理というものがある。
そう、僕は思ったけれど、リンのあまりに嬉しそうな顔を見ていたら断れなくて…僕は『…では、二人っきりの時だけなら。』って言ってしまったんだ。
そしたらリンは、満足げに頷いて笑った。

それからのリンとの生活は、それは楽しいものだった。
二人でこっそり王宮を抜け出して、街外れの小さな港に行ったり、冒険したり。
美味しいおやつに、王宮の美しい花畑。
僕の隣に居たリンは、いつでも笑顔だった。
とっても可愛くて、無邪気で…僕は、そんなリンが大好きだった。

でも、リンの笑顔が曇る時、僕はそこにいつものリンとは違うものを感じ取っていた。

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『鎮魂歌はいらないよ、姫(レクイエム)』3

閲覧数:361

投稿日:2009/04/14 18:07:33

文字数:1,021文字

カテゴリ:小説

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