深い深い森の奥、月をバックに聳え立つは「不思議の館」。
わたくしはその館の主人と奥方の愛する娘である。










《お嬢様と狂ってる住人達》










「……はぁ」


今日何度目かわからない溜息を小さく吐く。
一体自分はどうしちゃったんだろう。最近は溜息ばかり吐いている。

確か、自分が変になり始めたのは一週間ぐらい前だったと思う。
女好きという変態なことに定評のある執事を見ると、胸がギュッと締め付けられて……。
まるで自分が自分じゃないみたい。


再び小さく溜息を吐くと、突拍子もなく自分の部屋のドアが開いた。
ノックもなしにレディーの部屋に入ってくる人物はただ一人。わたくしのその者の名を呼んだ。


「いいですわよ、リン姉様。それに、どうせ入ってくるのでしょう?」


横目でチラッとドアのほうを見ると、その者は妙に上目遣いで私を見てきた。

絹のように一本一本が細い太陽色の髪の毛。
その色とよく似合う空色のつぶらな眸。
煌びやかで丈の長いドレスを身に着ける彼女は、わたくしの「姉」でもある。





何故彼女がわたくしの姉なのかは、彼女が「生身の人間」ではなく「人形」だから。
お父様は昔人形作りの職人だったらしく(真相は定かではない)、お母様と結婚して約1年後、「リン」、「レン」を生み出したのだ。

ちなみに、わたくしが生まれたのはそれから約2年後である。





リン姉様はドアを閉めると、恐る恐るといった感じで私に近づいてきた。


「ルカ……」
「どうしたのですか、リン姉様。レン兄様は?」
「ア、ウン。レンハネ……」


いつもは太陽のような眩しい笑顔で私に迫ってくる彼女。
しかし今日は正に「曇り」といった顔で私を見上げてきた。


──レン兄様に何かあったのでしょうか……?
彼女の態度から、そんなことが頭によぎる。

なんだろう。グミが転んでジュースをぶっかけらて壊れた?
グミはドジの範疇をたまに軽く超えているので、可能性としては大だ。


しかし、リン姉様から出た言葉はそんなものではなかった。


「──ママガ、レンヲ棄テチャッタノ」
「……はい?」


あまりの予想外の言葉に、レディーとしてあんまり上品じゃない言葉が口から漏れた。
いや、今はそんなこと気にしている場合じゃない。


「リン姉様、何故レン兄様が棄てられたのですか?!」
「ウン。レンガ、ママノ服ヲ汚シチャッタノ」
「ま、まぁ……」


なんということを。

あの心広きお母様の服を汚してしまったとあれば、生きて帰ってこられないというのに……。
レン兄様、わたくし、レン兄様のことは一生忘れませんわ……


「ルカ! オ願イ! レンヲ助ケテ!」


リン姉様が涙を目に溜め、今にも泣き出さんばかりにわたくしに縋ってきた。
いけないいけない。まだレン兄様が死んだと決まったわけではありませんわ!


「……わ、わかりましたわ! リン姉様も一緒に!」


リン姉はドレスの袖で涙を拭うと、「ウン!」と頷いた。
レン兄様、どうかご無事で……!



*****



木製の階段に、二人分の足音が響く。
きっとお母様は、あの時計が備え付けられている大広間にくつろいでるだろう。
しかしわたくしの部屋が一番大広間から離れていて、わたくしは足をもっと速めた。


「お、お母様! レン兄様を棄てたって……本当ですか!?」


大広間について開口一番、ソファでくつろいでいたお母様に切り出した。
切羽詰るわたくしに対して、対照的にお母様は呑気な声でこう言った。


「お前……何を抜かしたことを言っておるのだ?」
「わたくし、リン姉様から聞いたんです。レン兄様がお母様の服を汚して棄てられたって」
「ふむ……リン、お前、どういうつもりだ」
「エット……ソノ……」
「お母様……レン兄様を、本当にお棄てになったのですか「いいえ、わらわは棄てておらんぞ」
「はい?」


レディーとしてはあまり上品じゃない言葉、本日二度目。
しかしお母様はそこに突っ込まず、話を続けた。


「ルカよ。
 わらわは自分の息子をそんな勝手に棄てるような者ではないことを、お前も知っておるだろう?」
「は、はい」
「確かに服も大事じゃが、せめてワインボトルで殴るぐらいじゃ。
 わらわはそれぐらい、服よりも我が家族のほうが大事じゃ」
「お母様……。それでは、レン兄様が棄てられたというのは?」
「……ルカ」


お母様の言葉にジーンとくるも、湧き上がる謎にわたくしは首をかしげた。
そのとき、リン姉様が再び上目遣いで、再び予想外な言葉を言ったのだった。


「……何週間カ遅レタエイプリルフールヲ、ヤリタカッタンダ」





わたくしの周りがやけに静かになったと思う。
お母様はワインを持ってきて素手でコルクをとって、自分でグラスに注いで呑み始めたかと思うと、この沈黙を破った。


「リン、ルカはお前と違って純粋だから、あまりからかってはいけぬぞ?」
「エー! ワタシモ、純粋ダヨ!」
「全く。今更エイプリルフールというネタを使う者に、純粋という言葉を使えるわけがない」
「酷イ、ママ。ダッテレンガグミニ呼バレタカラ、ワタシ暇ダッタンダモン」
「それで人を騙していいというわけじゃないだろう? さぁ、お前はもう部屋にでも戻っていろ」
「ハーイ」


リン姉様は素直にお母様の言うことに従い、大広間を出た。
ちなみにわたくしは今だ動揺を隠し切れずにいた。


「ルカ、あまりリンを責めるでないぞ? リンはお前の姉とはいえ、まだまだ子供。
 子供の冗談は、笑ってスルーしてくれぬか?」
「いえ、別にそんなことはよろしいのですが……」
「?」
「……わたくしって、そんなにいじり甲斐がありますか……?」


わたくしの問いに、お母様は微笑んでいった。


「お前はわらわの子だからの。滅多に見せない驚いた表情を、人々は見たがるものなのだ」
「ええ、そうですね。俺も賛同です。奥方殿」


完全に緩みきっていたわたくしの心臓が突如、その者の声を聞いたとたん鼓動が速くなった。
わたくしはどきまぎしながら声の主を見つめた。


「が、がくぽ……貴方いつの間に?!」
「いえ、最初からいましたよ?
 お嬢がレン殿のことで頭がいっぱいになってて俺に気づかなかっただけで」


本当に気づきませんでした。


「それよりがくぽ。お前、結局何が言いたい」
「俺もお嬢はとてもかわいく、確かに驚いた表情は一品級だといいたいのです。奥方殿」


いや、そんなので一品級といわれても困る。
そして自分の心臓の鼓動の速さにも困る!


「ところで奥方殿……お胸を揉ませ──ぐはあっ」
「この変態が。お前なんざこの扇子一個で充分じゃ」


お母様が扇子でがくぽの脇腹を刺すと、がくぽは哀れ蹲った。
そして何事も無かったような笑顔で、


「さぁルカ。そろそろ寝る時間だ」
「わかりました。それではおやすみなさい、お母様。……とがくぽ」
「俺はついでですか!?」


わたくしはがくぽの訴えを無視して、再び階段を上り始めた。
がくぽを見るたび、声を聞くたび、心臓の鼓動が速くなる。





「はぁ……」


はぁ、この溜息は一体何なのでしょうか。





*****





次の日の朝……っていうか、言い忘れてたけどこの館には「朝」なんてこない。
かろうじて時間としての「朝」はくるけど。





「ふぅ、昨日はよく眠れましたわ~」
「ルカ様、朝のお紅茶はいりますか~?♪」
「あ、はい。せっかくだから頂きましょう──って、どうしてここにグミがいるんですの?!」


鮮やかな緑の髪を短めに切っている彼女は、この館のメイドのグミである。
彼女は一瞬「?」ととぼけた顔をしたが、すぐに意味に気づき、口を開いた。


「別にいいじゃないですかそんなこと~。それより紅茶、おいしいの淹れときましたよ~♪」


しかし質問は呆気なく無視され、しぶしぶ紅茶を口にする。
グミはドジの究極系の代わりに紅茶がとても美味い。
それにお母様とも何故か波長が合い、お陰で彼女はここを追い出されずにすんでいる。





「──そういえばルカ様……♪」
「? なんですか、グミ」
「ルカ様って……





 兄貴のこと、好きですよね?♪」


直後、わたくしが持っていたティーカップが──パリィン──割れて粉々になった。
あら、丁度飲み干しといてよかった。指にも怪我はないっぽいし……うふふ。


「あ、えっと、ルカ、様……お、けけけ怪我はございませんか?」
「いえ、特にありませんね」
「じゃ、あああああ私、後片付けしますんで、ルルルカ様は少し下がっていてください♪……」


顔を青くしたグミが、小箒でせっせとカップの破片を片付ける。
そして3分後、破片をポリ袋に入れてチャックをした。


「えっとルカ様……。もう一回お訊きしますが、ルカ様は兄貴のこと好きですよね?♪」
「……す、好きなのですか? わたくしが、がくぽのこと?」
「えぇ、もうルカ様わかりやすかったですよ~♪」


グミは嘘を吐いたことがない。だから今回もまた嘘じゃないと思うだけど……。





──わたくしが、がくぽのことが、好き、ですと!?





「わ……わたくし、そんなにわかりやすかったですか……!?」
「はい。とはいっても私、恋愛に関しては凄い鋭いので♪」
「例えば?」
「……メスの小鳥がオスの小鳥にほんの少し違った態度とっただけで、恋したと気づけます♪」
「…………」


逆にどうすればそこまで鋭くなれるのですか。


「あ、ちゃんとその小鳥、オスの小鳥に告白してましたからね?♪」
「…………」
「だから、気づいたのは私だけかも知れません♪」


なんかもう気力がなくなってきた。
つくづく、この館はキャラが濃いと思うですけど。

わたくしが何を思っているのか知ってか知らずか、グミは拳を作り何故か熱演した。


「いやぁ、でも私はルカ様と出会った頃から思ってましたよ。
 「絶対兄貴のこと好きになるな」って──」





グミが何かを熱演している間に、色々と説明しておこう。


執事のがくぽとメイドのグミは兄妹である。

がくぽはわたくしより二つ年上、グミは三つ年下だ。


せっかくだから、他の者との年の差もいおう。


わたくしは20歳。

リン姉様は「年齢」では六つ年下。──レン兄様も同様だ。

お父様は──確か、差は25はなかった気がする。


──ちなみに、お母様はシークレットだ。





「──ルカ様? 聞いてますかー?♪」


丁度きりがいいところで、グミに現実に引き戻された。
わたくしは微笑み、適当に答えておく。


「──えぇ、もちろん」
「あ、そうですか。それではルカ様……





 告白プロジェクト、始動しますか!♪」





──ティーカップは……ない。

わたくしは仕方なく諦めて、グミの言葉を聞き返した。


「告白プロジェクト……? 何ですか、それ」
「いや、そのままの意味ですよ。日本語にするなら『告白作戦』です♪」
「いえ、内容を聞いてるんです」
「あ、そっちですかー。そのままの意味ですよ。告白の作戦♪」
「…………」


あぁ、気力がなくなっていく……


「それじゃあ、早速作戦内容をお伝えします! ルカ様が兄貴のところにいって告白!
 以上です!♪」
「以上ですか!?」


あまりにシンプルすぎる。あまりに不安すぎる!


「ち……ちなみにそれ、成功した人とか、いるんですか……?」
「え? ルカ様が初めてですけど?♪」


──あぁもう嫌な予感しかしなくなってしまった!
外の景色のように暗いわたくしとは対照的に、グミはニコニコ顔で話を続けた。



「姉妹プロジェクトで、『プロポーズプロジェクト』なら私やりましたよ?♪」
「えぇ!? 誰にですか?!」
「レン様♪」
「え」


グミが……レン兄様に……?!


「だってレン様とってもかわいいじゃないですか!!
 だから私「結婚してください」って言ったんです!
 でも「イキナリ結婚ハチョット……」って言われたんです!♪」


いや、普通はいきなり「結婚してください」ですんなり「いいですよ」って言う人いないから。
せめて「結婚を前提にお付きあいください」って言いましょうよ。


「ちなみに、そのプロジェクトを99回やりました♪」
「それで全部同じプロポーズで、全部同じフラれ方をしたんですね……」 
「はい♪」


どうして結婚にそんなにこだわる?!


「──まぁ、そんなことはひとまず置いておいて、告白プロジェクト頑張ってくださいね!♪」
「えぇ!?」
「さぁさぁ、兄貴の部屋に行くのです!♪」


ちょっと待ってください。
どうしてお嬢様のわたくしがメイドのグミに命令されているの?!

わたくしは──自分の部屋なのに──そのまま部屋を追い出され、廊下で一人立つことになってしまった。
……とりあえず、がくぽの部屋に行きますか。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【Bad ∞ End ∞ Night】お嬢様と狂ってる住人達【二次創作】

・決して「原曲者に謝れ」ではありませんよ?
・ミクちゃん? でませんね、はい(((殴
・[続ける▼][続けない▼]か迷い中

 ・前のバージョンで続きます

閲覧数:1,459

投稿日:2012/11/01 17:43:48

文字数:5,409文字

カテゴリ:小説

  • コメント2

  • 関連動画0

  • TigerLance(タイガーランス)

    こんばんは!
    はじめましてです

    原曲が大好きなので気になって読みました!
    凄く面白かったです


    グミが面白いキャラクターすぎて楽しかったです!
    続き楽しみにしてます!

    2012/09/04 21:14:00

    • 雪りんご*イン率低下

      雪りんご*イン率低下

      こんばんは!
      ゜+。:.゜はじめまして(ノ)'∀`(ヾ)゜.:。+゜

      原曲素敵ですよね、ありがとうございます!←
      あ、ああああありがとうございますッ!!(お辞儀×100

      ホントですか? 私も変態兄妹──じゃなかった、がっくんとグミちゃんのキャラが何気好きです。
      ブクマもありがとうございます!
      実は、次のメインはグミちゃんだったりしますw

      2012/09/04 21:31:15

  • ゆるりー

    ゆるりー

    ご意見・ご感想

    ちょ、お、ま、ね、ね、ちょ、お!?!?(((何ごと!?

    ひゃふうううううううがくルカああああああ!!!!!(((((落ち着け
    ルカさんかわいい!ルカさんかわいい!
    リンちゃん、エイプリルフール遅ッwwww
    めーちゃんの喋り方がアンネっぽい←
    ちょwwwワインボトルで殴っちゃ駄目wwww
    変態がっくんwww
    グミちゃん鋭すぎるwww
    どうしてそんなにプロポーズするwww女好きの兄貴といいレン好きの妹といいこの兄妹はどうなってるwww
    最終的に二人はいいムードだったのにwwwぶん投げたwwww

    「Bad ∞ End ∞ Night」で二次創作はやってみようかなーとか思ってたりしてます←
    りんごのがくルカが見れて幸せです…2828が止まりません←

    ブクマいただきます!
    ご馳走様でした←

    2012/09/03 12:44:03

    • 雪りんご*イン率低下

      雪りんご*イン率低下

      ちょ、お、ま、ね、ね、ちょ、お!?!?(うつった(((おい
      ゆる、とりあえず落ち着こう、落ち着こう、落ち着こう!!(((やかましい

      恐らく唯一の常識人ルカさんです! きっと彼女はそのうちグr(殴
      リンちゃんは嘘ついたら必ずその言い訳をしますwwww
      いやいや、私はリリアンヌみたいだと思ったy(((((←
      彼女は暴力主義ですからwwww
      変態がっくんも正義です!wwww
      グミちゃんも変態。それがこの兄妹なのだ!wwwww←
      やはりルカさんにもめーちゃんの血が流れているのです

      おぉ、ゆるの二次創作みたいよー!
      これががくルカかどうかは愚問ですが……2828しちゃいましたか? ありがとうございます←

      ブクマありがとうございます!!

      2012/09/03 13:31:24

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