巡音ルカの旋回 第二話 ~avoid the sky~
季節は夏。時間は土曜午前七時。天気は晴れ。心も晴れ。
私は、とあるファミレス店“たこはん”の臨時従業員試験(…とは言っても自己紹介程度だったが)をパスし、今日から働くことになった。
このごろ気分が乗ることが無かったので、心機一転、このバイトを機に元の調子を取り戻そうと思った。
ちなみに、この店“たこはん”では、ハンバーグなどのメニューの中に“たこ入り”なるものが存在し、それで売っているらしい。本当に売れているかは疑わしいのだが。
まだ慣れない道のりを歩くと、やがて巨大なたこの看板に大きく
“たこはん”
と書かれた店が見えた。間違えようの無い形態である。ここが“たこはん”だ。
一見して巨大なたこ焼き屋か回転寿司かと思うような店である。ある意味で威圧的とも言えるこの建造物に圧倒されそうになる。
そういえば、私は自分の社交性に自信がなかった。初対面の人とかと喋るのって緊張する…。
どうすればいいんだろう、こういうとき。考えろ考えろ。
とりあえずテンション上げていけば良いのか?うん、そうだそうに違いない。『最初の印象が大事』って言うじゃない。新たな道への第一歩を堂々と踏み出す私は、つい最近のネガティブなルカじゃない。新生の、ニュージェネレーション・ルカ・メグリネなのだ。
そうだ。自己PRから始めよう。オーケー。レッツビギン。
自分でも訳の解らぬノリノリハイテンションでドアノブを回した。そして大きく叫ぶ。
先に言っておこう。コレは私の生涯中ベスト5には軽く入る大失敗だったと。
「おはようございます!朝から夜までフル回転、が売りの新入アルバイト、巡音ルカです!字は、華々しく巡る宇宙の星の『巡』に爆発音の『音』ルカはカタカナで『ルカ』です!!よろしくお願いします!!!」
空気が、しんだ。ぽかーんって感じに。
冷え切った空気で冷え切った頭が、十秒前の自分の行動に対し冷ややかに問う。「今の何?」
中にいた店員の人々(狂った脳では、人数のカウントや顔の識別すらも出来なかった)も、何とリアクションして良いか解らない、というようすだった。
蒼白になった私が、脳内で時間のリセットボタンもしくは飛び込み専用の核融合炉を欲していると、一番近くにいた私と同じくらいの年の男の子が声をかけてきた。
「あの…ルカ、だよな?」
「はひっ!」
この状況で声をかけられた、という事態にビビりまくり、顔を背けて裏返った返事を返す。
今度は頭に血が上り赤面しているのがわかった。これはひどい。新生ルカ、生誕後一時間足らずで社会的な死去確定。これから肉体的な終焉を迎えるため原発へ…って、あれ?
今、『ルカだよな』って言った様な?言ったよな。誰?
「やっぱりルカだ!」
顔を上げると、そこには懐かしい顔の少年がいた。
「ジュン…!?!」
私の中学時代のクラスメート、桜井ジュンだった。
説明しよう。彼は桜井ジュン。一言で言うなら普遍的な少年である!!
「ええ、ハイ。こいつオレの知り合いなんですよ。ええ、よろしくしてやってください」
その後ジュンは、周りの店員に私のことを軽く紹介し、ルカと話がしたいといって奥の席に連れて行った。
「ひゃー久しぶりだなルカ」
ジュンは、長らく会っていなかったという壁も気にせず明るく笑いかけてきた。
「ホントだよ。中学以来じゃん。ジュンもバイト?」
「そ。二ヶ月前くらいから入ったんだ」
「そーなんだ。私が来るって知ってたの?」
新しいバイト員の名前くらい聞いているんだろうな。
「まあね。でも今日来るとは思ってなかったから驚いたよ」
…あれ、どういうこと?
今日って土曜日だよね?
「ルカ来る日は来週の土曜日だよ」
ずごぉ!!
「…勘違いしてた?」
「…うん」
「相当驚いたよ。新入社員があのテンションで一週間フライングだもん」
ひゃわ!
「第一声から凄かったし。あの長くて壮大なキャッチコピー。アレ何?
にゃわ!!
「すげー魂抜けた顔してるぞ、ルカ」
私の自尊心は、木っ端微塵に砕け散った。
「どれ、何故ああいうノリになったか説明してみよ」
ジュンがいたずらな笑みを浮かべて聞いてくる。
「緊張をほぐそうと積極的な意志を持った結果ああなりました」
「ネタじゃなくて?」
「うん」
「すげぇなそれ。修造よりテンパってんな」
それ、すげぇって言うより酷い。そこまでだったか。私のテンション。
「ルカって天然だったんだな」
「天然というと人工的な養殖でない海産物のこと?」
もう自分でも何言ってるのかわからない。
「そうそう。天然の海産物はこの店の売りの一つで…って違う!天然ボケの意味」
ノリツッコミおつ。それより、私って天然?そう見られてるのか。ちょっとショック…。
すると、女の人二人が話しかけてきた。
「ふふ、面白いのね、ルカさん」
「きっとここでもうまくやっていけるよね」
私たちより少し年上っぽい店員の人だった。
「え、えーと、そうですか?」
話を聞いてたのかな。かなり恥ずかしい。いや、最初からか。
「ハイ。この店のイメージに合ってます。良い感じです」
「そうなの!?さっきのテンションで合ってるの!?」
それってどんな店なんだ…。
「桜井君の友だちなんでしょ?」
「ええ、中学の時のクラスメートで」
「桜井くーん?それってフラグ~?」
「ちょっ何の話ッスか!?」
「わかってるクセにぃー」
何だろう、よくわからない話になってきたよ。フラグって何だ。
「なんでもないからなルカ!!」
なんでもないといわれてもな…。
「こほん、じゃあ、ルカからも自己紹介したら良いよ」
そういわれたので、私は二人に自己紹介した。まともに。
やがて店長のおじさんも来て、私に笑顔で色々教えてくれた。人の良さそうな人だ。
「じゃあ、巡音さんは今日は見学ってことで良いかな?桜井君、先輩として頼むぞ」
「はい」「あ、ハイ」
そうして、私とジュンは一緒に店を見ることになった。
小一時間後。
「ルカ、退屈だろ」
「見てるのも面白いよ?」
「そっか、でも、ちょっと待ってろ」
「うん」
ジュンが店の奥に入っていった。店長室だろうか。
さっきまで、ジュンは私に色んな話をしてくれた。
おもに、仕事の事。客の事。たまにマナーの悪い客が来る事。自分はハンバーグのデミグラスソースを頼んだのに和風ドレッシングが出てきたとクレームを付けだす客が居た事。その客がその程度のことで店を裁判にかけると言い微妙に困った事。でも実際その時オーダーを聞いた店員に聞くと間違いなく注文は和風でしかもセットメニューが味噌汁だったのでデミグラスだとむしろ逆におかしいんじゃないかと思えたこと。などである。
と、そんな話を思い出しているとジュンが戻ってきた。
「ルカ、仕事やってみる?」
「え?仕事?」
「うん。体験した方がいいんじゃないかと思ってさ。なんでもやってみるもんだぜ」
そっか。元々やる気で来たのだ。断る理由は無い。
「うん、やるよ」
「ん。じゃあこっち来て」
台所。ジュンはそこへ私を連れて行った。
積み重ねられた使用済みの皿が視界を埋め尽くす。
「まさか、この量の皿を…?」
「うん、洗おう」
マジか…。
「イヤとは言わせねぇ!!」
「言うもんか!がんばるもん!!」
「ん。じゃあ頑張れ。オレもやるからな」
ようし、頑張るぞ。皿洗い。
私は気合を入れて仕事に取り掛かった。
夕暮れ。
初仕事を終え、公園のブランコに揺られる私に、隣のジュンがおどけて言う。
「ひょえー。イキナリ皿三枚割るってすげーな」
「ひょえーじゃない!!」
いちいちうるさいな!ジュンは!!
まったく、久しぶりに会ってここまで馴染むかフツー。
「で、どうだった?この店」
うーん、どうだったろう。
活気溢れる店で、楽しくて落ち着ける場所だった。いろんな人と出会い、いろんな人を見て、仕事して疲れたけど、こうして久しい中の友だちとも話が出来る。
こんな楽しみも悪くない。そう思えた。
「うん。良かったと思う」
「ん。そりゃ良かった」
ジュンがうんうんと頷いて言う。
「ルカ、昔と変わんないな」
「えっ…そうかな?」
私としては今日の自分は自分にあるまじき姿だと思うのだが。
最近の私は、息がつまっていたのだろう。昔はもっと私も明るかったし、こうして懐かしい奴と一緒に居るから、その時に戻れているのかもしれない。
何でこんな気持ちになるのかな。バイトはじめたから?いや、それよりもっと…。
「ん、どした?」
「ふぇ?い、いや、なんでも!」
気付くと、私はジュンをずっと見ていたようだ。なんで?おかしいな。
「変な奴。前からか」
「うるさいなー。ジュンだって充分変人じゃんか」
「そうか?メイドが好きってくらいだと思うが」
「充分おかしいわ!!」
そうだった。こいつは油断ならない変人だ!忘れてた…。
「あ、そーだ。メイドで思い出した」
メイドで何を思い出す。
「これだよ」
何?それは一枚のプリントだった。“たこはん”のだ。
「行事日程。店長が渡せって。あと、ここ、一番近いイベントだから、ちゃんと見とけ」
「え?どこ?」
ジュンが指差したところは…。
「メイドフェスティバル…」
「そ。ウエイトレスがメイド着るイベント。毎年やってるらしいよ」
…え、てことは?
「ルカもやらされるから、覚悟しとけよ」
私がメイド!?!
「なんだって――――!!!」
絶叫が、空を貫いた。
小説 巡音ルカの旋回:第二話~avoid the sky~
うp主です。
今回は深刻なキャラ崩壊&地味なオリキャラ登場でグダグダな状態です。小説とは言いませんねコレは。
そんなこんなで、ハジケすぎな内容です。自重できませんでした。orzミ
言い訳します。人権には表現の自由があるはずです。
この物語は、主人公の心情が大きく変化します。それにしたがってシーンも明るくなったり暗くなったりします。ですが、うp主の文章力が風の前の塵の如しなので、覚悟して読むようにしましょう。
次回も続きます。よろしくお願いしますm(_ _)m
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