図書館の騎士 2話 前編
うずく足の甲を堪えつつ、来賓客で賑わうホールを
カイトはリンの腕を組んでエスコートしていた。
今回の舞踏会の主役であるルカ・ループ・ブラストに
挨拶をしにいくため、広いホールを二人で静々と歩いていた。
ミス・ルカは、ループ家の一人娘で
リンのミラー家と親戚関係である。
ループ家は現在、王国の政治のかなり深い所まで
食い込んでいる為、来賓客も大物ばかりで
歩いてる最中、度々来賓客が話しかけてくるのを
リンはいちいち愛想よく対応した。
小太りで人のよさそうな紳士がこちらに向かって来ると
小さな声だったがリン「やれやれ」と呟きを溢すも
次の瞬間には見た目14歳頃の少女にふさわしい
はにかむような笑顔になっていた。
「はじめまして、ミラー家のミス……」
「はじめまして、伯爵様。リン・トオン・ミラーです。
ミラー家当主レンの親類にあたる者です」
「ほう、あの高名な魔法使いであるリン様と同じお名前とは」
「大おばあ様の名前を頂きました」
「ルカ様も大変美しいが、ミス・リン様も可憐で麗しいですな。
これは将来が楽しみです」
リンの姿をみて人のよさそうな紳士はニコニコと笑う。
「まあ、伯爵さまったら!」
リンは小さな手を口にかざし、顔を赤らめた。
隣で見ているカイトも演技だと分かっていても
騙されそうな程である。
「ははは、もしよければ、私の息子と一緒にワインでも……」
「伯爵様の息子様なら、さぞかしハンサムなんでしょう。
ルカ姉さまに挨拶が終わったら、是非、お会いしたいですわ!」
「おお、それはそれは。では後ほど」
小太りで人のよさそうな紳士は少しだけ頭を下げ
お辞儀をして、他の来賓客の方へ向かった。
「あー、めんどくせー。だから社交界はイヤなんだ。
なんであんなガキ供の相手をせにゃならんのだ」
「……あはは」
こんな本音を聞いたら先程の紳士は目を丸めて
驚くだろうなとカイトは思った。
ここでいう”ガキ供”とは伯爵の事である。
中年の紳士を捕まえてガキ扱いするのは
彼女の本当の年齢が100歳を超えているからで
高名な魔法使い”リン”は彼女当人なのだ。
いろいろ面倒があるのでリンはレンの親戚の娘という
事で一般的に通しており、本当の彼女の正体を知る者は
数少ない。
そして、その数少ないゲストがリンを見つけた。
「げっ……、リ、リン様……。何故こんなトコに?」
髭を貯えた屈強な体の紳士が顔色を変えて怯えている。
そんな様子をお構いなしに、リンは愛想良く挨拶をした。
「あら、アル卿。お久しゅうございます。
アル様こそ……、このような場所、珍しいのでは?」
すこしばかり皮肉を込めたニュアンスでリンが言うと
咳払いをして紳士アルは困惑の顔をまだ覗かせたまま
リンとヒソヒソ声で会話を始めた。
「あ、いえ、実は……、この会場の警備を兼ねて
ループ家から招待を。リン様がここに
来てるという事は……なにかのっぴきならない
怪物の来襲に備えている……という事でしょうか?」
手に持っていた扇子を広げリンが口元に持ってゆくと
アルは身を屈め耳を傾けた。
「ばか者、私がいつも血生臭い所にいると思うなよ。
今日はルカの顔を見に来ただけさ。
……ところで、最近、教会の動きが随分と小うるさくてね。
お前、何か知ってるんだろう?」
「……私は一介の兵に過ぎ無い故、国政については
何も言える事はありません」
ちらりとアルはカイトを見た。
カイトは背筋を伸ばしアルに挨拶をした。
「は、はじめましてアル卿。私は―――」
「カイト君だね、”王立司書騎士”の期待の新人」
「期待だなんて、そんな……。こちらこそ王国の”十剣士”と
挨拶が出来て光栄です」
「いや~、そんな大層なものじゃないんだがね。
こないだの模擬戦で、新人騎士にコテンパンにされちゃって
国境警備団に左遷させられちゃったんだよ」
アルは照れ笑いをしてるのを見て
リンはつまらなさそうな口調で会話に割って入った。
「ふん、競技化された剣技の試合の勝ち負けなぞ
実践に置いてはクソほど役に立たん。馬糞の方が
乾かせば燃料になるだけまだ良いわ!」
「あはは、馬糞以下ですか。……そう言って
励ましてくださるのは、リン様だけですね……」
「間違えるな!お前の事をウンコだと言っておる」
「相変わらず、”ツン”ですね、リン様は」
笑うアルの顔をふてくされ顔で睨むリン。
カイトはすっかり会話からはぐれてしまった。
礼服を着こなせていない若者がアルの元に
来て、耳打ちをした。
「隊長、ただ今、伝令が届きました」
「うん?分かった、行こう」
アルと若者はリンにお辞儀をしてそそくさに
会場を出るのを見届けて
リンとカイトは再び歩き出す。
「アル様は”十剣士”と呼ばれているのに
国境警備隊に左遷とは、何か間違っています」
「そうだな。だが仕方ないことだったんだ。
そもそも、あの試合自体、八百長だしな」
リンはカイトに説明した。
アルと試合をした新人騎士は教会本部に多大な寄付を
したさる貴族の息子。将来の為には何か実績を作らなければ
王国騎士団の中枢には入れない。現在、戦争も終結して
平和な現王国に置いて手っ取り早く分かりやすい”実績”を
作るのは数々の武勇を持つ”十剣士”と試合をして勝つ事。
その役目に白羽の矢が立ったのがアルなのであった。
「その小僧も、そこそこ腕が良いのが救いなのだが
実戦に置いては、アルには及びもつかない。
元老院と教会に泣かれて、アルは上手に熾烈な戦いを演じ
誰にもばれない様に、負けてやったのさ」
「何てことだ……。その上、左遷とは許せないです!」
「お主も若いのう。左遷とは名ばかりでな、実際の国境警備隊は
猛者、強兵ぞろいの吹き溜まり。戦争が終わった現在も
小競り合いや、盗賊団との戦いは日常茶飯事。そんな
ところで隊を仕切れるのは、アルのような者だけなのさ」
「そんな、しかし騎士たるもの、名誉こそ……」
「だーかーら~……、お前もいい加減察してくれ。
それに応じた”報酬”をちゃんとアイツは懐に入れているのだ。
名誉の相場―――けっこう高いんだぞ。それに……」
「……」
「戦士達の晩年は酷いもんだ。戦いでボロボロの体、四肢のどこかを
失っていれば、野良仕事だって出来やしないし家族にも
迷惑かけるだろう?妻や子供の為、老後の為に
自分の名誉が金になるのなら、そんなに悪い事じゃないはずだ」
「いや、しかし……」
カイトは続ける言葉が思いつかなかった。
自分の思い描いていた騎士の名誉がまさか
金銭になるとは考えもしなかったのだ。
「ふむ、夢を壊して申し訳ないが……
お前さんが夢中になって読んでいた騎士の冒険譚は
本当に大冒険をしたキャラバン隊の旅行記の権利を
大金を積んで買い、名前だけ挿げ替えたり
騎士の決闘も、さっきの話のように
金銭のやり取りを―――おい、聞いておるか?」
カイトは頭をもたげていた。
自分の憧れた騎士の世界がこんなにも
汚れているかと。
少年頃、夢中で読んだ勇敢な騎士たちの冒険が
金のやり取りで作られていたなんて。
「しかしだ」
リンはカイトの礼服の襟に触れて言葉を続けた。
「中には、本当の話もある」
「本当ですか?」
「ああ、機会があれば……教えてやるよ」
カイトは胸がときめいた。
まだその正体を見てないとはいえ
”伝説の魔法使いリン”が自分に本当の冒険譚を教えてくれる
というのだ。リンの武勇は表立って公表はされていないが
その戦歴は、歴戦の剣士も裸足で逃げ出すほどだという。
その一部でも話がきけたら幸運な事なのだ。
しかし彼はその事について幾度も後悔する事になる。
まさか、その冒険に自分が巻き込まれるとは
この時は露ほども、思いもしなかったのだから。
コメント0
関連動画0
オススメ作品
*3/27 名古屋ボカストにて頒布する小説合同誌のサンプルです
*前のバージョン(ver.) クリックで続きます
1. 陽葵ちず 幸せだけが在る夜に
2.ゆるりー 君に捧ぐワンシーンを
3.茶猫 秘密のおやつは蜜の味
4.すぅ スイ...【カイメイ中心合同誌】36枚目の楽譜に階名を【サンプル】

ayumin
気が狂ってしまいそうな程に、僕らは君を愛し、君は僕らを愛した。
その全てはIMITATION,偽りだ。
そしてこれは禁断。
僕らは、彼女を愛してはいけなかった。
また、彼女も僕らを愛してはいけなかった。
この心も日々も、全て偽りだ。
そんな偽りはいらない。
だったら、壊してしまえばいい。
『すっとキ...【VanaN'Ice】背徳の記憶~The Lost Memory~ 1【自己解釈】

ゆるりー
Hello there!! ^-^
I am new to piapro and I would gladly appreciate if you hit the subscribe button on my YouTube channel!
Thank you for supporting me...Introduction

ファントムP
それは、月の綺麗な夜。
深い森の奥。
それは、暗闇に包まれている。
その森は、道が入り組んでいる。
道に迷いやすいのだ。
その森に入った者は、どういうことか帰ってくることはない。
その理由は、さだかではない。
その森の奥に、ある村の娘が迷い込んだ。
「どうすれば、いいんだろう」
その娘の手には、色あ...Bad ∞ End ∞ Night 1【自己解釈】

ゆるりー
君色ワンダーランド 【歌詞】
A 真っ白な世界を何色で彩る?
何も無い空疎な世界を
真っ白な世界を何色で彩る?
誰も居ない孤独な世界を
B 自信なんて無くて構わない
まわり道してもいい
創るんだ 君だけの色で出来た世界を
S 塗り続けて出来た世界こそ君の描く未来だろう?
外(...君色ワンダーランド 【歌詞】

衣泉
「信号ノ羅列ニ感情ハ無イ」
「感情ノ無イ歌ニ意味ナド無イ」
そして侮蔑するように僕を見るその目、目、目が怖い
陋劣な声帯なんて値打ちは無い
誰も人間の模倣品なんて見向きもしない
だのに恍惚な表情で僕を見る君の目、目、目が怖い
01101100 01101111 01110110
(That went...メリー・アンバースデー

Official_39ch
クリップボードにコピーしました
ご意見・ご感想