朝練習に励む運動部、銀杏の並木道、眠そうな警備員、特にいつもと変わらない朝の風景だった。
まあ、何故だか駐車場の隅にロードローラーが置いてあることがいつもと違っていたけど、何処か工事でもあるのだろうとたいして気にもとめず、僕は職員室の自分のデスクに腰掛けた。
少なからず、今日の僕はいつもより緊張していたし、しかし今日という日を楽しみに待っていた。
今日は転校生が来る日だ。
まだ僕は会ったことがないのだけど、とても良く似た双子の男女らしい。
新しく僕のクラスに入る子達が、どんな子達なのか楽しみで楽しみで仕方ない。
職員会議の内容もあまり頭に入らずに、メイコ先生に横から小突かれたけど、そんなことも気にならない。
ああ、早く来ないかな‥‥



──ガラッ



「「おはようございます」」



少しだけ質の違う、二つの高い声が職員室に入ってきた。
金の髪と青が混じった緑色の瞳、良く似たデザインの服。
男女の差のせいか身長や声質なんかは少し違うけれど、一つ一つのパーツはとても良く似ている。
誰が見ても、二人は双子だと一目で分かる外見。
僕が立ち上がって手招きすると、二人は同じ動作で僕の元まで歩いて来た。



「おはよう。今日からこの学校に転校してきた子達だよね?」

「「はい」」

「僕が君達の担任の始音カイトだよ。よろしくね」

「よろしくお願いします。鏡音リンです」



そう言って女の子、リンちゃんは僕に手を差し出してきた。
小さなその手を握り返せば、彼女は嬉しそうににこりと笑う。
とても良い子そうだし、可愛いなぁ‥‥



「リンに気安く触んじゃねーよアイス野郎」



‥‥‥ん?



「初めまして、カイト先生!オレ、鏡音レンです!よろしくお願いしまーす!」



リンちゃんに負けないくらいの笑顔で男の子、レン君はオレの手を彼女からもぎ取るように握ってきた。
そんなに僕と握手したかったのかな、可愛いなぁ。
その前に聞こえてきたアイス野郎とか言うのは空耳だよね、幻聴だよね、うん。
こんなに可愛いレン君が、あんなに汚い言葉を吐くはずないしね。



「あ。それじゃあ、教室に移動しようか。ちゃんと自己紹介考えてきた?」

「そりゃもう、バッチリ!」



ニッ、とレン君は笑いながらそう言って、リンちゃんの手を引きながら僕のあとをついてきた。
双子だからよけいそうなのか、仲が良いなと思った。
僕も可愛い妹が欲しかったなぁ‥‥いや、妹はいるのだけど兄をこき使うし葱好きだし、まぁ可愛いのは可愛いけど‥‥
そんなことを考えていると、早くも教室に着いてしまった。
ガラリ、と戸を引くと中からざわめきが聞こえてくる。
転校生が来るという情報が何処からか流れ出して、生徒達まで届いたんだろう。
僕に続いてレン君とリンちゃんが教室に入ると、ざわめきはひときわ大きくなった。



「はい、みんな静かにねー。みんな知っての通り、今日からこのクラスに転校生がきました。じゃあ、自己紹介よろしくね」



僕が脇に退くと、レン君とリンちゃんが教卓の前に立った。
生徒達のざわめきはピークに達している。
「え!?双子!?」「どうしよ、男の子カッコいい!」「あの子マジタイプなんだけど!」などなど、主に二人の容姿に対するコメントが聞こえてきて思わず苦笑する。
さあ、二人はどんな自己紹介をするのかな‥‥ぁ?
レン君が浮かべている笑みが何故か黒いものに変わり、こめかみに軽く青筋が浮いているような気がした。



「鏡音レンです、こっちはリン。好きなものはバナナとミカンです」



うん、ここまではまぁふつうの自己紹介‥‥だった、けど。
レン君がリンちゃんの腕を引き、彼の腕の中におさめたところで、教室内はまた違う意味でざわつきだした。



「リンはオレのなので、変な虫がついた場合はすぐにオレまで教えてください。愛車で粛清するんで。以上!よろしくお願いします」



レン君に続きリンちゃんも、「よろしくお願いします」と笑った。
誰もなんとコメントを返して良いか分からずに、とりあえずパチパチと手を叩く。
仲が良いとは思っていたけど‥‥どうやら、二人は相当なシスコン&ブラコンのようだ。
それにしても、愛車って‥‥?



「あ、先生も例外ではありませんので、よろしくお願いします!」



これでもかと言うほど極上の笑みを浮かべるレン君を見て、全身の鳥肌が一気に立ったような気がした。
嗚呼、きっと職員室で聞こえた声も幻聴じゃなかったのだろう、と遠い目をして思い返す。
どうやら、この学校はとんでもない転校生を迎えてしまったようだ。



「え、っと、じゃあ何か二人に質問がある人ー?」

「はーい。愛車って何ですか?自転車?原付?」

「ロードローラーです」



今朝見たあのロードローラーはこの子達のか!‥‥と言うツッコミは心の中だけにしておいた。
ぺたんこに粛正されてはたまらない。
この日以来、僕はリンちゃんと接するときは半径1メートル外に距離を置くように努め、レン君の黒い笑みに怯えながら毎日を送ることになるのだった。



ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

転校生(連鈴+海)

http://piapro.jp/content/b21rg1v46ap8kdzd
咲優さんの素敵イラストに悶えて、完成させた小説です。
双子を書くのは楽しかったけど兄さんのキャラがいまいちよく掴めません。
山なし谷なし落ちなしで終わってしまった感が‥‥精進します(><)
そしていつものごとく題名が思い浮かばなかったので、イラストの題をそのまま使用させていただきました。
いつも素敵なイラストを届けてくださる咲優さんへ、拙いながら贈らせていただきます(^^)

閲覧数:986

投稿日:2009/10/15 08:41:48

文字数:2,134文字

カテゴリ:小説

ブクマつながり

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