私にとって音楽は。

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朝目が覚める。
視界には低い天井。

割と粗末な暮らしだと思う。
狭いパーソナルスペースのこの現代には珍しい屋根裏に居住して2.3年は経つけど、当分グレードアップの予定は無いと言い切れるくらいには生活は常に切羽詰まっている。

そんなことはまあいいとして。

今の時間は果たして朝と言い切れるのだろうか
少しドキドキしながら携帯を開く───

［11:58］

無情だ。今日こそ早く起きてみようと思ったのに。
朝活だっけ、あれをやってみたかった。
早く起きて浮いた時間でお茶とか飲みながら本読んだりすらやつ。
低所得の唯一出来る贅沢じゃないか？と思って意気揚々と図書館で何冊か借りてみたり使い所のあまり無かった茶葉を出してみたりしたのが約二週間前。
ちなみに決意してもう10日以上は経ってる。こういうところがこの暮らしから抜け出せない理由なのだろう。

まあ関係無いんだけどね本当は。

私の職業は夜だから早起きは全く関係ない。
だからこう朝とは呼べない真っ昼間に起きても別に何の支障も無い。

「夜の仕事」と聞いて良い印象を持つ人はいないだろう。
といっても大抵の人が最初に思い浮かべるであろうああいうのではない。むしろ比較的こじんまりしていて、給与もこんな暮らしを続けることになるくらいには乏しいものだ。

バーの歌手。

ただそれだけだ。

なんでこんな仕事続けてるんだろうなんて言われても、それくらいしか私に出来ることがないからだ。要は社会不適合。
どこにいっても歌いたくて仕方なくて。本能が歌うこと以外を許してくれなかった。どうしようもない気持ちは歌にした。歌わないと生きていけないと気付いた。我慢が限界に達してどうしようもなくなったとき、もうこれで生きていくしかないと諦めた。

給与は少ない。
勤務時間も多いわけじゃない。

でも生きていけていて、ギリギリのところで食っていけているならこの仕事を辞める理由も無い。

歌が歌えて最低限だが生活も一応は成り立つ。他のことを我慢するか悟りでも開くかすれば不足も別段あるわけではない。

音楽以外の欲望ならいくらだって殺せる。
音楽的欲求だけ満たされていればそれでいいのだ。訳もなくそういう体に生まれてしまったから。

歌は魔法ではない。
私にとって呪いみたいなものだ。

生まれたときからすでに息をするように歌っていた、と父母は言う。
最初から歌をしないと生きていけない体だった。

vocal-syndoromeだかなんだか。

まるで歌い続けるために生まれてきたアンドロイドみたい、って誰かが言ってvocaloidとも呼ばれてるらしい。
vocal-syndoromeの人には有名な初音ミクとかそういう著名人もいるから素敵だとか御伽噺みたいだとか言う人が多いが、実態はこれだ。
御伽噺なんかではない。そんな可愛くてキラキラした響きのものじゃない。

天井にぶつからないようゆっくりと起き上がる。今日のご飯も朝昼兼だ。
コスパはいいけど一抹の虚しさみたいなのはある。
コスパが良い、に越したことはない生活だけれど。
今日も今日とて歌う。生きていくために、息をするために。

歌いたくて仕方がなくて、歌わないと息が出来なくて、本能に支配されかけて正気に戻ってを繰り返す。

私にとって音楽は、生まれたときからの残酷な運命であり、呼吸であり、生きる意味であり、私そのものだ。