「おじや、美味しかったです。ねえ、本当にここにいていいの?」
「ごはんまで食べて、今更帰れなんて言わないわ。外だって大雨だし、もう9時になるわ。もうこんな遅くに女の子を外歩かせるわけにいかないじゃないの」
「でも、わたしはここにいていいのか分からないの!」
わたしの叫びがきいんと部屋に木霊する。そして、食べた後のわたしのお皿を持って、「皿洗い手伝って、そうしたらここに居て良い理由が出来るわ」そう言ってウィンクをした。
ルカは何で見ず知らずのわたしを置いてくれるのかしら。
ルカとわたしが二人。キッチンの流しに立った。ルカが今まで使っていた黄色いスポンジ、わたしが新しく出した緑のカエルのスポンジで洗い物をする。
「ふふ、妹が出来たみたい。あ、流さなくて良いから、泡着いたまま重ねて置いて、まとめてゆすぐから」
「分かりました」
「ん~、タメ口禁止。いいね?」
にこにこと嬉しそうに手早く小皿やレンゲを洗っていくルカの横顔をしばらく見つめた後、分かったとわたしは頷いて視線を元のナベに戻した。ナベの米粒は大分ふやけて簡単に落ちていく。米粒はまとめて三角コーナーへポイ。
「この後どうしよっか。こんなに凄い雨だとね、テレビの写りが悪くなるのよ」
「何がいいかなあ」
しばらくの沈黙。わたしたちの間には壁や屋根を打ち付ける雨音と、二人の呼吸音だけが響いて。その沈黙の居心地は悪くなかった。
ルカはナベをわたしから取り上げてゆすいで拭いた後、頭上の棚にしまった後、ボトルの石けんを手に「ミク、手」と言ってわたしの手に石けんを出した。わたしは手を洗いなさいという事だと思い、手をこすって泡立てた。ルカも石けんを泡立てて、流水で流した。
「ちゃんと手は綺麗にしておかないとね。じゃ、お風呂10時くらいでいい? 今からお湯湧かして、その間何かしていましょう」
ルカは短い廊下の途中を曲がったところのバスルームに入っていった。わたしは石けんを流して、小さく借りますと言ってタオルで拭いた。
ジャーという水の流れる音がバスルームから聞こえてきた。
「じゃ、おしゃべりでもしていましょう。なんだか修学旅行みたい! ミクはソファに座って」
わくわくとしたようにルカは言い、リビングのカーペットの上に寝転がった。わたしがソファに座ると、ソファの近くまで四つん這いで歩いてきてソファの隣りに仰向けに寝た。
「じゃあ言い出しっぺのあたしからでいいかしら。あたしは、歌手を目指して、すっごい田舎からここまで来たの。まあ親がうるさくってそれが嫌で逃げてきたのもあるけどね。でもやっぱり、歌うの好きだったけど、それ程度って言うのかなあ。こう歌への熱意が周りより無かったというか。それでオーディションも落ちまくって、それで歌手向いてないなあと思ってさ。それで他の事目指そうと思って、あたし英語が出来るのよ。で、どうせやるなら格好いい仕事がいいなあと思って、翻訳とか目指したけど、まあダメだったなあ。今はレコード会社の会社員って所かなあ」
クッションを胸にそう言うルカは、わたしと似ているなあと思った。だからルカもわたしを拾ってくれたのかもしれないと思った。
見ず知らずの、境遇が似ている人。そんな人ならなにもかもぶちまけられる気がした。
「わたしはね、ちょっと前から親が喧嘩ばかりで、それでも結婚しているからって一緒にいるわけだけど、喧嘩するときに、結婚して後悔したとか聞こえてきて、悲しいの。二人とも顔を見ないように時間をずらして起きたり寝たりご飯を食べたり。わたしが、一番はじめに喧嘩した理由を聞いても、分からないわ。知らないなんて言って。じゃあなんで喧嘩しているのって聞いたら、あなたは知らなくても良いのって笑うの。だからわたしも笑い返したけど、家族なのに悲しかった。家族なんて名前だけなのかと思って。喧嘩ばかりの毎日じゃつまらないから、今日はパパは夜勤でママは夜のパートだから、書き置きして家出をしてきたの」
ルカは頷きながら聞いてくれた。そして最後、目が潤みながら話しているわたしをそっと抱きしめてくれた。出来るかぎりやさしく、そっと扱うみたいに。
「大丈夫よ。ミクが家出したのは良いことよ。あたし、そんな気がするわ」
抱きしめてくれた頭上で優しい声がする。でも家出は悪い事だよ。なんで?
「どうして? だってわたし家を飛び出したんだよ?」
「ミクはなんて書き置きをしてきたの?」
「えっと、”パパへ ママへ ちょっとわたしは散歩へ行きます。心配しないでね。きっと二人は一緒に見ていないとは思うけれど。 ミク”って書いた」
「やっぱりちょっと最後は皮肉ね。でもそれでいいのよ。きっとあなたたち家族は上手く行くわ」
ルカはそういうけれど、わたしは不安でいっぱいだった。ルカは大丈夫よ。世の中案外うまくいくものだからと言って、そっとわたしから離れて水を飲みに行った。
「ミクは心配かも知れないけど、あたしの勘って、結構当たるのよ。信じてない?」
コップをゆすぎながらそう言ったルカ。それでもわたしは不安でいっぱいだった。
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欠陥品
ご意見・ご感想
ルカ姉さん、なんて良い女性だ…。
ミクの気持ちは少し理解できました。
時々、家族ってなんだろうと思うときはありますね。
2010/07/06 20:41:45