エピローグ

 「リーン、リーンってば。起きて?」
 優しい声がリーンの脳裏に響いた。誰の声だろう。ううん。あたし、この声ずっと聞きたかった。だってもう二ヶ月も離れ離れだったもの。
 そう考えた瞬間に、リーンは思いっきりその透き通るサファイアのような瞳を見開いた。視界に移るのは月夜のように輝く銀髪と、優しげな笑顔を持つ少女の姿。
 「ハクリ!」
 次の瞬間にそう叫んでいた。頭の裏に感じる柔らかさはハクリの太ももだろうか。どうやらハクリに膝枕をさせているらしい、と思いついたリーンは起き上がろうとしてその動作をとめた。二ヶ月ぶりに感じるハクリの身体をもっと感じていたいと思ったのである。
 「大丈夫?」
 心配するようにハクリはそう尋ねた。何を話そうかと考えてリーンは慌てた様子でこう答える。
 「ごめん、ハクリ、二ヶ月もいなくなって・・。」
 リーンがそう告げると、ハクリはきょとんとした表情でその瞳を瞬かせた。そしてこう答える。
 「リーン、もう、寝ぼけているの?リーンが皆からはぐれて、まだ二時間くらいしか経過してないわ。」
 「え・・二時間?」
 その言葉にリーンはきょとんとした様子で瞳を瞬かせた。あの経験はなんだったのだろう。まさか、夢だったのだろうか。
 「ハクリ、リーンの様子はどう?」
 続けて、凛とした女性の声がリーンの耳に届いた。その声の方向に視線を送ると、身軽そうな私服に身を包んだ赤髪の女性の姿が視界に映った。メイだった。
 「大丈夫みたいです。今眼が覚めました。少し混乱しているみたいですけど。」
 「水でも飲むか?」
 続けてそう言ったのはカイル。手にしているのは持ち合わせていたペットボトルだろう。
 「あたし、何していたの?」
 混乱する頭脳を落ち着かせようと考えながら、リーンはハクリに向かってそう尋ねた。そのリーンに向かって、ハクリは普段どおりに優しい口調でこう言った。
 「迷いの森を散策していたら、突然姿が見えなくなったのよ。それで皆で手分けして探したの。」
 「森の奥に行ったのかも知れないって心配したのよ。」
 ハクリに続けて、メイがそう言った。そのまま言葉を続ける。
 「そうしたら頂上の展望台で倒れているのだから、驚いたわ。一体何があったの?」
 「よく・・覚えていないです。」
 どうやらあたしは一時的に行方不明になっていただけらしい。一体何が起こったのか。あの経験はなんだったのか。リーンがそう考えたとき、右手に握り締めている紙切れの存在に気がついた。そのまま、その紙切れを持ち上げて視界に映す。
 「それ、どこで手に入れたの?」
 不思議そうな声でハクリがそう言った。それは栞。レンから貰った、ハルジオンの栞。やっぱり、あの経験は夢じゃなかった。リーンは栞をなんとなく眺めながらそのようなことを考えた。
 「ん・・貰った。」
 ぼんやりとした表情のままで、リーンはそう答えた。あたし、戻ってきたんだ。その実感がふつふつと沸いてくる。そう考えた瞬間に何かが抑えきれなくなって、リーンは思わずハクリの太ももに置いた頭を上げて半身を起こすと、そのままハクリに抱きついた。
 「ハクリ、もう、色々あったんだよ、色々。」
 今にも泣き出しそうな口調でそう告げたリーンの髪を、ハクリはその白磁のような美しい手のひらで撫でた。そして、リーンを宥めるように囁く。
 「もう、一体どうしたの?」
 「・・後で話す。沢山話したいことがあるの。」
 子供みたい、とはリーンでも考えたが、とにかく今はハクリの優しさに溺れていたい。リーンはそれだけを考えてハクリを抱き締め続けた。
 「一体どうしたんだ。」
 呆れた様子でカイルがそう言った。そのカイルを嗜めるようにメイが小脇を小突く。
 「とにかくさ。」
 メイがその場を締めるようにそう前置きをすると、こう言った。
 「リーンの行方不明って不思議現象もあったし、それなりに楽しめたわ。」
 「無事ですんでよかったよ。」
 呆れた様子でカイルはそう言った。カイルの特徴である銀髪が僅かに風に揺れる。そのカイルの言葉に満足そうに頷いたメイは、続けてこう言った。
 「そうそう、皆に言っていなかったけど、あたし暫く部活に出られないから。」
 「どうしてですか?」
 ようやくハクリの身体から離れたリーンがそう尋ねる。
 「来週から撮影なの。映画のね。」
 「映画ですか?一体なんの?」
 リーンが続けてそう尋ねると、メイは不適に笑い、そしてこう言った。
 「『紅い騎士メイコ』って映画よ。」
 メイコ。その言葉を耳にしてリーンは何度か瞳を瞬かせた。そのリーンの反応を楽しむようにメイは笑顔を見せると、続けてこう言った。
 「何しろ子孫自ら主演だからね!きっと話題性もばっちりよ!皆楽しみにしていてね!」
 子孫か。リーンは楽しげなメイの表情を眺めながら、もう一度リンの姿を思い描いていた。あたしと良く似た、もう一人のあたし。でも、それだけじゃないよね。あの拳銃。そしてレンの反乱。なんとなく、分かった気がする。ね、リン。あたし、もっと貴女のことが知りたくなったわ。あたしきっといつか歴史学者になって、貴女の真実を皆に伝えてみせる。別にあたしが王族の血筋を引いているとか、そんなことには興味はないけれど、でもリン。貴女には興味があるの。だって、貴女は。
 「頑張ってね。あたしの大切なご先祖様・・。」
 リーンは小さく、近くにいたハクリでも気付かない程度に小さく、そう呟いた。


次回作 『ハーツストーリー』に続く。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

小説版 South North Story 56

ということで深夜にすみません。
レイジです。

今回は二人のリンが活躍する名曲『South North Story』のかなり創作度合いの強い小説をお読みいただき、本当にありがとうございました!

いや、長引いた・・。
マジで長引いた・・。

本当はですね、5万字くらいで終わるかな、と思っていたんですよ。
それが20万字越えですよ!

本当信じられないですよね!
ってかなんでこんな深夜に書き上げてるんですかね。
まともに小説書く時間をください。。

それはともかく。
次回作もあります。
本当にどこまでやる気だ。
と言いたいところですが、一応次回作『ハーツストーリー』で『小説版コンビニ』から続いた一連の作品は終結を迎える予定です。

といっても『ハーツストーリー』、相当長くなることは間違いないですが^^;

飽きずにお付き合いいただければ幸いです。
連載再開は・・そうですね、年末書けたらいいですよね・・(遠い目)

多分年始になるのではないかな。
ということで今後もよろしくお願いします!

ではでは~

閲覧数:423

投稿日:2010/12/26 02:19:16

文字数:2,299文字

カテゴリ:小説

  • コメント5

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  • sunny_m

    sunny_m

    ご意見・ご感想

    こんばんは。
    SNS完結おめでとうございます!遅ればせながら読ませていただきました。
    そしていつものことながら、終わってしまったんだなぁ。という気持ちです(笑)

    リンがレンと再び出会ったときや、リーンが戻ってきてハクリに甘えた時など、彼女たちが普通の女の子に戻った感じがして、微笑ましくも切なかったです。
    リン・リーンに限らず、皆、本当に一生懸命でまっすぐで、頑張っているから、幸せを沢山感じてほしいな、と思うのです。
    というか若いんだからリンもリーンも他のみんなも存分にいちゃいちゃ甘えるといいよ!
    見てる方はとても美味しいから☆
    なんて、変態発言失礼しました。

    いまさらですが、異なる世界が交り合う。というのは面白いですね~。
    レイジさんの一連の物語を読んで、こういうのもやってみたいなぁ。とか思ったりもしました。
    けど、私自身あまり大きな話を書けないので(収拾がつかなくなりそう)面白そうだなぁ、で終わるべきかもしれない(苦笑)

    長い物語、お疲れさまでした。次回作を楽しみにしています。
    それでは。

    2010/12/28 21:50:56

    • レイジ

      レイジ

      あけましておめでとうございます!
      そしてコメントありがとうございます!

      女の子同士って可愛いですよね・・(遠い目)
      俺も大好きなので次回作でも展開していく予定ですよ!
      楽しみにしてください!

      sunny_m様の異なる世界が交わる小説、面白そうですね^^
      気が向かれましたらぜひ書いてみてください!
      というかsunny_m様の作品は面白いので楽しみです!

      ではでは、次回作もよろしくお願いします!

      2011/01/02 14:57:07

  • ソウハ

    ソウハ

    ご意見・ご感想

    こんばんは。そして更新お疲れ様です。
    それとSNS完結おめでとうございます。

    次の話はどんな話になるのか、今から楽しみです(>▽<)

    あともう少しで、年明けますが、お互い頑張りましょうね。
    あ、あと、体調管理はしっかりとですよ。自分のペースを保つのが大事ですからね。
    お仕事頑張ってください。それでは。

    2010/12/26 21:39:33

    • レイジ

      レイジ

      あけましておめでとうございます!
      コメント遅れてすみません^^;

      というか年明けてしまいましたね。
      良い一年にしてください♪

      では、次回作もよろしくお願いします!

      2011/01/02 14:38:10

  • tio

    tio

    ご意見・ご感想

    お久しぶりです
    ハルジオン最終話で自分の勝手な解釈をコメントしたことで、出すぎた真似をしてしまったな…と思い、今作も読ませていただいてはいたのですが、感想コメは自重しておりました。


    ですが、最終話を迎えられたことにお疲れさまと、今回もまた、素敵な一時を与えてくれたことにありがとうを、どうしても伝えたかったので…(*^_^*)


    相変わらず、丁寧に描かれる世界、キャラに魅了されています。まだ明かされない謎も、次作で解るのかと思うと楽しみです。


    これからも頑張ってください(*^_^*)素敵な作品ありがとうございました!

    2010/12/26 21:20:18

    • レイジ

      レイジ

      あけましておめでとうございます。
      そしてお久しぶりです!

      自分の好きなように解釈していただいてぜんぜん問題ないですよ!
      むしろ色々な解釈をしていただいたほうがこちらとしても嬉しいです。
      色々付箋を貼りながら展開している作品なので・・。

      次回もtio様にお楽しみいただけるようにがんばりますね!
      本当にコメントありがとうございます!

      ではでは、次回作もよろしくお願いします!

      2011/01/02 14:35:36

  • 零奈@受験生につき更新低下・・・

    こんにちは!
    SNS完結おめでとうございます!
    私もmatatab1さんと一緒で『レンの反乱』までやると思っていただけにちょっと残念です。
    『ハーツストーリー』で全部が明らかになるんですよね?
    メイコが何故悲劇のヒロインなのかとか気になりますw

    レンがミルドガルドに帰ってリンとひっそり幸せになるのかな?とか思ってましたが、死者は蘇らないとはいえ会えたのはいいことだ思います。

    『ハーツストーリー』、楽しみにしてます!

    2010/12/26 17:02:15

    • レイジ

      レイジ

      あけましておめでとうございます。

      コメントありがとうございます&返事おくれてすみません><
      おっしゃるとおり、『ハーツストーリー』が一連の作品の完結編となります。
      レンの反乱も、メイコの悲劇もすべて掲載していきますね♪
      ぜひお楽しみくださいませ!

      ちなみに、レンが戻らなかったのは、死者は蘇らないという観念に基づいてあのように記載しました。

      ではでは、次回もよろしくお願いします!

      2011/01/02 14:33:02

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