雅彦が大学の自分の研究室にいると、扉をノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
入って来たのはクリスティンだった。
「…クリス、どうしたんだい?」
クリスティンの深刻そうな表情を見て、心配そうに雅彦がいう。
「…プロフェッサー安田、今から私の話を聞いてくれないか?」
「クリスの話を?」
(クリスは何しに来たのかな?)
「ああ。…ただ、私の話を聞いて、プロフェッサー安田は間違い無く困惑すると思う。それは間違いない」
「…僕が困惑するかどうかは、クリスの話を聞いてみないと分からないよ」
「いや、そう思う自信がある」
あくまで断言するクリスティンに、とにかく話を聞いてみようと考える雅彦。
「分かった。とにかく聞くよ」
「…その前に、部屋にロックをかけてくれないか?」
(部屋にロックを?そんなに部屋の外に漏れると拙い内容なのかな?)
「?分かった」
いぶかしげに思いながら部屋のロックをかける雅彦。そうしてソファにクリスティンを案内する。
「…クリス、話して」
「実は…、私は…、プロフェッサー安田のことが好きだ」
単刀直入にいうクリスティン。
「もちろん、プロフェッサー安田には、ミク殿という恋人がいることは重々承知の上だ」
その言葉に、雅彦は少し驚いた表情を見せたが、すぐにその表情は消える。そしてうなずく雅彦。
「…そうと分かっていても、あえていいに来たのはクリスなりの理由があるんだろう?良いよ、その理由も話してくれないかな」
そういって、クリスティンの話をうながす雅彦。
「きっかけは、私がライの卒業研究の計画を立てたあと、プロフェッサー安田から呼ばれた時だ」
「ああ、新山君の卒業研究の計画を立て直す時の話だね」
そういって、その時のことを思い出す雅彦。
…
「プロフェッサー安田、話というのは?」
「ああ、昨日、新山君から僕に話があってね」
そういって、クリスティンに新山の卒業研究の計画を見せる雅彦。その計画は、クリスティンが立案した計画だった。
「新山君から聞いたけど、新山君自身はクリスティンの立てた計画では無理だと判断して、クリスにそういったけど、クリスは私ならできるの一点張りで、聞いてくれなかったと聞いているよ」
「…はい」
「クリス、確かに僕もこの計画を精査したけど、確かにクリスの頭脳を持ってすればできるかもしれないけど、新山君には無理だよ。もうちょっと新山君のことを考えた計画にしたほうが良いね」
「ですが…」
「…クリス、僕は、新山君を留年させるために、クリスをサポートにつけた訳じゃないんだよ。それは分かってくれるかい?」
あくまでクリスティンを諭すようにいう雅彦。そういわれ、自分の拙さを認識すると同時に、どうすれば良いか困惑するクリスティン。
「はい…、プロフェッサー安田、私はどうすれば…」
「僕と一緒に、新山君にできる計画に修正したほうが良いと思う」
代替案を提案する雅彦。しかし、その案は雅彦の負担が大きいことは、クリスティンも分かった。
「しかし、プロフェッサー安田の手を煩わせる訳には…」
「…それじゃ、クリス、計画の修正をクリスに全て任せて、新山君が卒業研究の提出期限までにできる、ちゃんとした計画を持って来れる?」
「…」
確かに、最初にクリスティンが立てた計画を見る限り、すぐに新山でも実現可能な計画をクリスティン一人で修正できるとは思えなかった。
「クリスはきっと他の人に合わせた計画を立てることはちょっと苦手だと思っている。クリスに任せて、新山君ができる計画を持ってくるには、ちょっと時間がかかりすぎると思うんだ。正直、計画立案だけにそこまで時間はかけると、その後の日程に悪い影響が出る。かといって、僕が全てやってしまうと、クリスを新山君のサポートに付た意味が無いんだ。クリスの経験にもならないし。だから、僕がいったパターンが折衷案としては悪くないと思ってる」
「…分かりました」
…
「その後、プロフェッサー安田と一緒に、ライの計画を立て直すことになった。その時、共同で作業をして、プロフェッサー安田が非常に人として素晴らしい方であると認識できたこと、そして、プロフェッサー安田の普段の人となりが分かった。世間では天才と名高いのに、その評判に決して驕り高ぶること無く、むしろ謙虚な性格だったこと、そして、明らかにライの卒業計画の立案については、明らかに私に非があるのに、そのことを全くせめない優しい性格に、私はプロフェッサー安田にはミク殿という恋人がいることを分かっていながら、プロフェッサー安田に惹かれて行くことを止めることができなかった。私はルカ殿のために日本に来たが、いつの間にか、プロフェッサー安田のことばかり考えるようになった。だから、プロフェッサー安田に告白に来た」
クリスティンの告白を、ただ黙って聞く雅彦。
「嬉しい…、といいたいけど、ミクのことを考えると、ちょっと大っぴらには喜べないな」
困ったような表情で返答をする雅彦。
「ただ、ミクより先にクリスに会っていれば、僕とクリスは付き合っていたかもしれないね。僕もクリスも合理的な所は共通しているから、ひょっとしたらその部分で馬が合ったかもしれないから、十分あり得る話だと思う。まあ、そんな仮定の話をしても、クリスは困るだろうけど」
苦笑しながらいう雅彦。すると、いきなり雅彦の胸に、クリスティンは飛び込んだ。
「プ、プロフェッサー安田ぁ…、うぁぁぁぁぁん!」
いつものクールな態度からは想像できない表情で雅彦の胸の中で大泣きするクリスティン。
(…クリス、辛かったんだね)
雅彦は少し驚いたが、その後は優しくクリスティンの頭を撫でていた。
「…落ち着いたかい?」
「…はい」
ようやく落ち着いたクリスティンに、コーヒーを出す雅彦。自分の分のコーヒーを持って向かいのソファに座る。
「…クリスの想いに答えてあげられなくてごめん」
「…プロフェッサー安田は何も悪くない」
謝る雅彦に、慌てて答えるクリスティン。
「…だけど、なぜ、結果が分かってるのに、僕に告白したんだい?クリスの性格を考えれば、告白しないと思うけど」
「…アンゲリカが私の背中を押してくれたんです」
「アンゲリカ?」
「私の妹で、我が家の末娘です。アンゲリカが、私がプロフェッサー安田を想っていることを見抜き、背中を押してくれたんです」
「ふーん」
何か考えている雅彦。
「プロフェッサー安田、どうしたのだ?」
「あのさ、僕がアンゲリカちゃんと話すことってできるかな?ちょっと興味を持ったんだ」
クリスティンに提案する雅彦。
「アンに…?分かった、アンに聞いてみる。あと、これは正確にはプロフェッサー安田へのお願いではないが、聞いて欲しいことがあるのだが…」
「何だい?」
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