「どうしたんですか、この段ボール」

マスターは珍しく平日にお休みの日にも関わらず忙しそうだ。着てない夏服の写真を撮ったかと思ったら、残りは全て箱に詰めていく。

「引っ越しに決まってるだろ」

こちらを見ずにせっせと作業を続けながらマスターが言う。

「仕事や生活で何かありましたか?」

KAITOは少しオロオロしながら尋ねる。

「違うからそんなに心配するな。仕事は相変わらず基本リモートだから特に出勤日にならなければそんなには変わらない。困らない」

不安げなKAITOを見かねてこちらを振り向いてマスターが意味ありげな笑みを浮かべる。

「仕事ばかりしててKAITOに構ってやれないことが多いから、この位はいいかと思ったんだ」

「どういうことです?」

「郊外なんだけど、楽器可の家に引っ越すことにした。これで思う存分歌っていいからな!」

「わぁ!いつの間にそんな計画を立ててたんですね」

「だから、今年の誕生日プレゼントは家です!すげーだろ」

「すごいです!」

「まぁ賃貸なんだけどな。あと前よりは出先が遠くなるかもしれん。ほぼ家しかいないからいいんだが」

「ほんとにいいんですか?」

「いいも何も、家賃下がるし、壁が厚くなるから俺としても家探ししてて、たまたま空いてるのを見つけて良かった。2月中に有給とっちまったんで急いで引越しだ」
「そういうわけで、荷造り手伝うように!そろそろ見積もりが来るからな。急げ。あっ、誕生日のやつにさせたらダメか」

「そんなことないですよ、僕も手伝いますよ」
「えー、何歌おう。何を演奏しよう。楽しみです」
「そっか、僕が楽器なんだ」

「ほら、手が止まってるぞ」

「他のVOCALOIDに自慢しますね!」

「恥ずかしいからやめろ」

「俺も休みの日寝てるだけじゃなくて、趣味、持ってもいいな。せっかくだし」

「web会議中に歌うのはやめろよ」

「もちろんです」

「でも、俺のために歌っていいんだからな!新居でもよろしくな」

「もちろんです!ありがとうございます!」

汗までかきながら荷造りする今日のマスターの声は元気で、普段より生き生きとしていた。これからの新生活もそうであってほしいな、と自分の誕生日という節目にKAITOは思った。

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新生活を君と

新生活シーズン
17周年おめでとうございます

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投稿日:2023/02/17 20:39:42

文字数:966文字

カテゴリ:小説

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