ジェシカ

投稿日:2012/12/23 18:07:12 | 文字数:3,064文字 | 閲覧数:6,278 | カテゴリ:小説 | 全2バージョン

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今回はくるりんご様の「ジェシカ」の自己解釈になります。
いつもより長めです。
前のページで続きます。

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手に持っている缶珈琲がいつの間にか空になっていた。
そんなに勢い良く飲んだつもりなかったのに。
首を傾げながら点滴を連れて棟を徘徊していると、子供達と目があった。
目があった子供は手をたたき、僕を指差して笑った。
「あのひとジュースこぼしてる!」
「ほんとだ。ふくがぬれてる。きったなーい。」
「うわっ!こっち見た!」
「「逃げろ!」」
子供達は笑いながら走り去っていった。
ああ、溢してたのか。
だからいつの間にか空になってたんだ。
そう気づいて手元を見た。
缶珈琲が僕の青白い服を濡らし、茶色に汚していた。
なんとなくそれを手で拭っていると、子供連れの女の人が横目で僕を見た。
子供はじっと僕を見ていた。
その女の人は子供が僕を見ていたことに気付き、
「見ちゃだめよ。」
と言って足早に去っていった。
僕はその後ろ姿を眺めながら手に持っている缶珈琲を壁に投げつけた。
腕についた点滴が揺れた。
何故か苛立ってしょうがなかった。
周りはちょっとしたパニックになった。
近くにいた看護師は慌てて僕の手を引き、病室に連れて行った。
その横顔は嫌悪感を露にしていた。
握られた手は痛みを訴えて、少し震えた。
「これ以上面倒を起こさないでちょうだい。」
吐き捨てるように言って僕を病室に押し込めた。
僕はそう言われた意味がわからず、尋ねようとしたが、もう看護師の姿はなかった。
時間が空いてしまったのは予想外だった。
廊下とは違い、静かな病室。
目に映る景色は白い壁だけ。
孤立無援だ、とか思い、辺りを見渡す。
光りが射し込んでいる窓が目に映る。
景色を変えようと思い、窓を開けると、風が勢いよく入り込んできた。
ぎゅっと目を瞑り、風が収まるのを待った。
ゆっくり目を開けると、よく晴れた青空が広がっていた。
草木は紅、黄、茶、緑など、鮮やかに色づいて綺麗だと思った。
こういうの何て言ったっけ?
あぁ、そうだ。錦秋の候だ。
答えが出てきた事に満足していると、戸を開ける音がした。
さっきの看護師かなと思い振り向くと、見たことがない少女がいた。
「こんにちは。」
いきなり声をかけられ、驚いてしまった。
肩が跳ねたのが自分でもわかる。
今まで僕の所に来た人達は、僕の存在を無視しているかのような態度をとるような奴しかいなかったのに、少女は僕を真正面から見て笑顔で声をかけた。
「ごめんね。驚かせたみたい。」
苦笑しながら、少女が僕に近づいて来た。
僕は思わず、後退ったが、後ろは窓でそれ以上下がる事は出来なかった。
「大丈夫。これを見せたかっただけだから。」
『これ』と言って抱えているものを僕が見えるように、前に突き出した。
「………花?」
『これ』とは色とりどりの『花』だった。
「!そう、ガーベラって言うの。」
僕が独り言のように呟いた言葉に嬉しそうに少女は答えた。
その笑顔に見覚えがあるような気がして、じっと少女を見つめた。
「わ、私の事覚えてるの?」
少し狼狽えながら少女は僕に聞いた。
「…………」
会ったことがあっただろうか。
何かを期待するように少女が僕を見つめる。
「……………誰?」
僕は正直に答えた。
僕の答えを聞いた少女は唇を噛みしめ、震える声で言った。
「そっか……。そうだよね。」
さっきとは違う、泣きそうな、無理矢理作った笑顔。
沈黙が周りを支配した。
気まずい、な。
どうやってこの雰囲気を壊そうか考える。
そういえばと、花瓶を用意してなかった事を思い出し、窓際から離れた。
少女は心配そうに僕を眺めていた。
「…これ、花瓶……、っ!」
少女に花瓶を渡そうとした瞬間、頭痛が僕を襲った。
花瓶が逆さまに床に落ちた。
少女は悲鳴を上げて、持っていたガーベラを床に落とした。
あぁ…花弁が散っちゃうよ。
僕はその声と音を聞きながら意識を飛ばした。



















「君はもう少し人前で大人しくしないとな。あと、自分の身分をわきまえないといけない。それから―――」
診断書を見ながら淡々とした口調で僕に医師は言った。
僕は適当に相槌を打ちながら、話を聞き流していた。
「この前の事だが、君は病室に見舞いに来た女の子に花瓶を投げつけたらしいな。」
それを聞いて僕は顔上げた。
そんなことした覚えがない。
あの時は花瓶を渡そうと思っただけで……。
「……僕はそんなことしてません…。」
「何だって?」
医師は大袈裟に驚き、診断書を指さした。
「診断書にはそう書いてある。」
僕はその言葉にカッとなった。
この医師はどうしても僕を『気違い』にしたいらしい。
立ち上がり、診断書を破り捨てる。
どうやっても歯が立たない診断書。
それならこうするしかないじゃないか。
医師は慌てて僕を指さし、
「アイツを早く病室に戻せ!!」
と隣で怯えている看護師に言った。
僕は2人を一瞥すると、部屋を後にした。





診断室を後にした僕は、どこに行こうか考えた。
このまま病室に戻るのは、正直言ってつまらない。
物分かりのいい患者にもなりたくないし。
ふらふらと宛もなく、院内を歩き回る。
何か歩きづらいな。
前もあったような感じ。
足元に目を向けると、片足だけスリッパを履いていないことに気がついた。
靴下も左右で違っている。
………どうしよう。
周りからくすくすという笑い声が聞こえた。
ハッと目線を上げると、皆僕を見て笑っている。
僕はとても恥ずかしくなり、慌てて来た道を引き返した。
早く病室に戻らなくちゃ…。
さっき考えていた事なんて頭になかった。
頼むから僕を見ないで。
震える手で自分の病室の扉を開ける。
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い
わかってる。
悪いのは僕だよ。
だから、見下したような目で見ないで。



















目を覚ますと、何時の間にか朝になっていた。
どれくらい寝たのかもわからない。
昨日は何もしていない筈なのに、体中に筋肉痛のような痛みが走った。
特に右肩辺りが痛い。
不思議に思いながら体を起こすと、昨日まであった筈の棚がなくなっていた。
目線を扉の方に向けると、いつもの看護師が入ってきた。
僕と目を合わせようとせず、黙々と検診を行った。
「………あの、棚は…」
そう言うと看護師は眉をひそめ、
「覚えてないの?」
と聞いた。
僕は何の話かわからず、はいと答えた。
看護師はため息を吐き、
「あなたがやったの。消火器引き摺って。廊下も滅茶苦茶になってたんだから。」
とだけ言って、病室を出ていった。
僕はその言葉の意味を理解するまで、時間がかかった。
僕は病室に帰って来た後、すぐに寝た筈だ。
………あれ?本当にそうだったっけ?
僕は昨日何時頃に寝た?
……駄目だ、思い出せない。
まさか僕が本当にそんな事をしたのか?
それではまるで、僕が狂ってるみたいじゃないか。
僕は狂ってなんかいない。
そうだよね____
……あれ、今僕は誰の名前を呼んだんだろう。
っ、また頭痛だ。
景色が歪む。
震える体を自分の腕で抱えこむ。
ねえ、もうお家に帰ろうよ。
いつまで続くんだろうか、この世界恐慌は―――。









はじめまして檸檬飴といいます。
主に小説を投稿しています。
ジャンルはバラバラです。
曲の自己解釈もしています。
よろしくお願いします。

駄文ですが、リクエスト受け付けてます。



素敵なアイコンは毒うさぎ様に描いてもらいました。

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