ぽかぽかの晴れ空の下を二人で歩きながら、
良い天気だなと、ミクさんは幸せな気持ちになりました。
「お外に出て、どうするの?」
リンちゃんは、不安そうに、目の前を流れていく車を見送っています。
「え?」
聞かれて、目が点になりました。
なんとなく、外で遊んだりした方が良さそうと判断したのですが、いざ問われるとどう、と具体的にあるわけではなかったのです。
「どう、って……そうだ、カラオケでも……リンちゃんの、元気になれることって」
とりあえず、行きたい場所を聞いてみるミクさん。
しかし話しているうちにリンちゃんの表情はみるみる曇ります。
「やっぱ、帰る」
そして、踵を返すと家の方に歩き出しました。
「どうしたの、リンちゃん! さっき出てきたばかりなのに」
先ほどと打って変わって
リンちゃんは怒っているように見えました。
「いいよね。そうやってさ、元気に『してあげたい』なんて言ってりゃ、商売になるんだからさ」
リンちゃんは苛立ちながら、ミクさんを見上げます。
「そうやって、悲しみに付け込んで、歌とか教材とか押し付けて!! 歌えないあたしが可哀想で、元気にしてあげたいとか、何様なのよ!」
確かに、それはもっともな気持ちでした。
ミクさん自身、この仕事に疑問を感じていないわけではありません。
悲しみに付け込んで、年の近い子に元気を強要しているんじゃないか。そう思われる振る舞いをしているのではないか。
自分なら惨めで辛くて、とても不愉快でしょう。
ミクさんは、そう思われていると感じるのが本当は嫌だったのですが、歌姫とまで言ってしまい、余計に圧をかけていると気付きます。
「違うよ」
車の過ぎた道路を歩きながら、ミクさんは言いました。
遠くのビルを指差します。
「見て。あれは、初音ミク」
ビルのモニターには、DIVAである初音ミクが大写しになっています。
リンちゃんは、首を傾げます。
「知ってるよ。あたし、もう帰る」
「……此処にいる私は、初音ミクだと思う?」
ミクさんの少し悲しそうな表情に、リンちゃんは少し疑問を覚えますが、聞き出せないまま、首を横に振りました。
「は?意味わかんない。どういう意味」
「歌えないのに、歌いながら、元気にしてあげたいなんて言われたら……私も、辛いよ」
歌えない?歌ってるじゃない、とリンちゃんは思いました。
「落ち込んでいるだろう、なんて一方的に可哀想にされるのも、嫌」
「ミク、さ……」
モニターの前で、ミクさんは歌い出しました。
その姿はまさしく、DIVAだった初音ミクそのものです。
幸せそうで、楽しそうな。それでいて目を離すとどこか消え入りそうな儚さに胸を締め付けられます。
こんなに嬉しそうなのに、何故悲しく感じるのだろう?
幸せそうなのに。
何か、気付いていないことがあるのでしょうか。
「歌ってるじゃん……」
歌っている。紛れもなく初音ミクが居る。
――――歌えないのに、歌いながら、元気にしてあげたいなんて言われたら……私も、辛いよ
『……此処にいる私は、初音ミクだと思う?』
どうして、そんなことを聞いたの?
誰がどう見ても、初音ミクじゃないの?
「あれって、ミクちゃんだよね」
「えー。そうかな」
「ミクじゃん」
「どうして、此処に?」
いつの間にか、周囲からひそひそと噂をする声が集まってきます。
(ほら、皆だって初音ミクが歌っている事に何の疑問も持っていないじゃない)
「まずい!」
そのとき、群衆の中から声がしました。
キリンの着ぐるみ……のような二足歩行静物が人ごみの奥からシュバッと飛び出てきます。
(スーツ姿のキリンさん……!?)
リンちゃんが動揺しているうちに、キリンさんはミクさんに近づきました。
「君、年齢は?」
「えぇっ!? あの、キリンさん」
キリンさんは一人でぶつぶつ呟いてミクさんの腕を掴みます。
「設定年齢が16歳……あれからの年月を考えると、現時点で31歳未満だとまずい!」
「な、なななにが、ですかぁ!?」
あわあわし始めるミクさん。パニックでよく聞こえて居なかったのかもしれませんが、リンちゃんはあれ?と思います。
「キリンだ」「何このキリン」
ミクさんが歌うのを辞めたので、周囲から不満の声が上がり始めますが、キリンさんは無視してマイクを奪い、ミクさんに言います。
「全く、どうして仕事を勝手に抜けて来たんですか? ほら、戻りますよ」
「えぇっ、今、仕事中で。貴方誰!?」
意味が分からず混乱するミクさん。背後で追いかけるリンちゃんは慌てます。
途中、ミクさんと揉み合っていたキリンさんのスーツの裾から名刺が落ちました。
「あのっ、ミクさんは、初音ミクなんですか?」
リンちゃんはそれを見て、思わず問いかけます。
あんまり漢字が読めなかったけど、レコード会社?のマネージャー?と書いてあったような。
キリンさんは何も答えてくれません。ミクさんだけを見ています。
モニターに映って歌っているミクさんではなく、今此処に居るミクさんを……
「ただでさえプライバシーや個人情報を保護しなくてはなりません。勝手に動かないでください」
キリンさんが何か言っている横で、ミクさんは目が点になっています。
何が何だかと言う感じです。
無視されてむっとしたリンちゃんは思わず強引に耳元まで近づいて聞きました。
「ねぇ、キリンさん。現時点で31歳未満だとまずい、ってなんのこと?」
キリンさんは慌てました。
独り言が聞かれていたとは思わなかったのです。
「我等に敵対するトゥエンティーズという20代中心のグループがあるんですよ! いわばミクさんの敵。最近近辺で引き抜きをしているとかってねハッハッハ」
「絶対嘘だ」
そんなグループ聞いたこともない。
なにより挙動不審なキリンさんが怪しすぎる。
20代を敵視する初音ミクなんて炎上不可避だ。
「貴方、本当に初音ミクの……」
「とにかく、いきますよ!」
リンちゃんが何か言いかけたときです。
キリンさんが走り出し、ミクさんも引っ張られていきました。
【小説】壊れた世界。6
社畜ミクさん(㍶ミクさん的な)とレン君の小説https://piapro.jp/t/i8C6の続き。
同じシリーズはタイトルとかで検索するとあるよ。
前回 https://piapro.jp/t/e0mk
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