5~呼吸が止まりそうな閉塞感
僕は夜の街を走っていた。
それは少し前、携帯に掛かってきた電話が原因だ。
「もしもし?」
『あ、松田さんの携帯でしょうか?交番の者です・・・』
愛花が橋の上から飛び降りようとしたらしい・・・。
ただでさえ愛花との事がバレてしまって焦っているというのに・・・。
「はぁ・・・はぁ・・・愛花ちゃん・・・」
そこには警官に囲まれている愛花がいた。
「あ、ご苦労様です、保護者の方ですか?」
「はい、一応・・・」
身柄を引き取る書類にサインした。
警察の話によると、愛花の親類は身柄の引取りを拒否したらしい・・・。
どうしてそんなに頑なに愛花を拒否するのだろうか、それが最大の謎だ。
トボトボと歩く街路樹並木。
角を曲がると、河原が見えてくる・・・。
僕も愛花も言葉を発さない、あの頃に戻ったみたいだ。
一言目から「どうしてだ」なんて責め立てる事も出来ない、でもあの頃にも戻りたくない。
ジレンマ。
そして、マスコミにバレてしまったけれども、西生会病院のカウンセラーとしてどう言い訳をしようかという、保身を考えている自分が憎い。
ぐっと拳を握る・・・。
すると、愛花が立ち止まった。
「先生・・・」
「ん?」
振り返って見ると、その表情は決意をしたような目つきだった。
「ここに座って・・・」
河原の土手に座るように言われた。
「う、うん・・・」
土手に並んで座る。
「やっぱり先生には、全て話さなきゃ・・・長くなるけど聞いてくれる?」
「うん、いいよ・・・」
「じゃあ、話すね・・・
私はただの中学生だったんだ。
先生は一回見たと思うけど、私の家はお金持ちで、お堅いんだ。
でもね、それを鼻にかけて人と話したことなんてなかったんだ。
成績も人とあまり変わらなかったし、感覚も人と変わらないし。
・・・でもね、中3になってから変わったの。
私達は当然受験生だよね。
私は、大学の付属高校に行くことしか選択肢が許されてなかったんだ・・・。
当然、今の成績じゃ無理だし、勉強した。
毎日塾に通って、寝る間も惜しんで勉強した。
頑張れば成績って伸びるもので、ある学力テストでクラス1番を取ったの。
その日から誰も口をきいてくれなくなった。
私と周りの皆を乗せて、世界は回っているのに、何故か独りぼっち・・・。
変な噂も流された・・・山田先生と寝てるって・・・。
もちろん事実じゃないけどね。
そんな時にトリノコシティを知って、今の私そのものだと思った。
〈自分だけどこか取り残された~ 色のない世界~ 作られた世界~〉
そんな時、ある男子だけはずっと話してくれたり、一緒に帰ってくれたりした。
「俺だけは味方だから」と言ってくれた。
嬉しかった。
いつしかその優しさに、恋してたんだね・・・私・・・。
その男子も私の事好きって言ってくれたの。
いつもそばにいて欲しくて。
・・・だから、あんな事してって言われても、断れなかった。
朝に家へ帰ってくると、お母さんは鬼のように私を怒った。
当たり前だよね・・・。
何日かネットカフェから学校に通う日々。
でも、ある日学校で見てしまったの。
「詩峰の件、ありがとねぇ~!!」
「マジ最悪だったわぁ~、あんな汚ねぇ女となんて~www」
お金もらってた。
あれは、偽りだったんだ。
私は声がでなくなった。
家に帰ることが許されても、真相は何も語れなかった。
そんな私を見て「この子は異常だ・・・」と病院にお母さんが私を連れて行った。
でも、カウンセラーさんには全て話そうと思った。
ただ、驚きで言葉をまた失ったの。
だって、先生、あの男子に顔がそっくりだったから・・・」
涙目の愛花。
ポロポロと頬を大粒の涙が伝う僕。
夜の風が、僕と愛花を取り残すように吹き抜ける。
トリノコシティから始まるストーリー~その5~
その4を書いて、続きのその5を書こうとした時に大津市の事件が起こり、あの時期にこういう描写を含むその5を更新をするのは不謹慎だと思い、しばらくトリノコシティから始まるストーリーを自粛させていただいていました。
お楽しみにしていただいていた方には大変ご迷惑をおかけしました、すみません・・・。
いじめについて、僕はノーコメントとしか言えません・・・。
次回で最終回になると思います、近日中に書き上げるのでよろしくお願いします!!
トリノコシティから始まるストーリー
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