あと一限で午前中の授業は終わる。
ちなみに四時限目は担当の教師が休みのため自習だ。
クラスの連中も実質今からの長い休み時間に浮かれている。
既にぐっすりと昼寝をしている奴もちらほら見受けられた。
かくいう俺も、教師にうまく見つからない程度に校舎を徘徊しようと考えてたりする。
携帯を片手にさてどこふらつくかと考えて席を立つ。
「岳斗~、どっかいくの?私もいきたい!」
「私もついてくー!」
「どこいくんだよ岳斗、俺らも連れてけよ。」
教室のドアの前に立つなりクラスメイトに肩を組まれたり腕にひっつかれたりなんだりされてもみくちゃにされかける。
「おいおい、この人数じゃ校舎ふらついてっと教師に捕まるだろ。俺このまま昼休み終わるまでフラつくつもりだし。」
とりあえず俺にまとわりついてるクラスメイトを引き離す。
周りの女子があからさまに残念そうな表情を浮かべた。
「え、そんじゃ一人で行くつもりか?」
俺は普段から一人で行動することは少ない。
若干おどろいたようにそう聞かれる。
「一応そうしようかと思ってる。」
「なんだぁ、さ…淋しいやつだなおまえ……自らぼっちを望むのか。」
「その憐れむような目をやめろボケ。」
一発蹴りをくれてやる。
「いてっ!暴力変態!!」
蹴られた箇所をさすりながらそんなことを叫ばれた。
周りから笑い声が上がる。
上等だ。男は皆変態なんだからな。
「なんだやたら楽しそうだなこのクラスは。」
後ろから聞きなれた声がした。
「おう佳絃。なんかようか?」
クラス中の女子から黄色い歓声が上がった。
佳絃はそれを見るとどこか居心地が悪いようで困ったように眉根を寄せた。
「回りなんか気にすんな。佳絃。」
「ああ、そのつもりだよ。」
佳絃が俺に向き直る。
そのとき、教室のドアの後ろからふと見覚えのある姿が見えた気がした。
「世良ちゃんが話があるって。俺たちのクラスまだ教えてなかったから俺たちの事探して教室の前で怯えてるとこ見つけて連れてきた。」
世良ちゃんから話?
一体どんな話なのか見当もつかなかった。
とりあえず教室の前で明らかに周りに怯えた目を向けている小動物のような世良ちゃんを見てはやくそちらへ行った方がいいだろうと思い、佳絃を連れて足早に教室を出た。
『誰?ドアの前にいる子?一年生だよね』
『すっげかわいくね!?』
『見たことないよねぇ…何組の子だろ。今までずっと風邪で休んでたのかな?』
後ろからそんな話し声が聞こえた。
「世良ちゃん。どうしたの何かあった?」
佳絃も心配そうな顔で世良ちゃんを見ている。
世良ちゃんは一瞬口を開こうとしてすぐに口をつぐんだ。
微かに身体が震えているのが見て取れた。
今は休み時間で廊下に人が多い。よっぽど怖いのだろう。
なにより世良ちゃんは俺と佳絃二人がいるからというのとは関係なく、目立つ。
以前は悪い意味で目立っていたが、今も今で世良ちゃんにとって悪い意味で目立っている。
多分佳絃に見つけてもらうまでに相当男子に声をかけられたんじゃないだろうか。
「岳斗さん、移動しても…いいでしょうか?」
震えた声で世良ちゃんは涙目がならにそういった。
佳絃と俺はすぐさま頷くとなるべく人の少ない所へと移動した。
移動している間、世良ちゃんはずっと下を向いて体を震わせていた。
俺たちは階段の踊り場で世良ちゃんの話を聞くことになった。
「休み時間が残り少ないです。手短に話します。佳絃さんは自分で判断して聞いてはいけないと思ったら忘れてください。だけどお願いです。ここに、いてください。」
世良ちゃんは佳絃にそう釘を刺した。
佳絃は素直にわかったと頷いた。
「私の話は、主に奈々のことです。」
そういって世良ちゃんは真っ直ぐに俺を見た。
___________瞬間、本気で彼女の瞳に吸い込まれるかと思った。
蒼く、深く。
静かに神秘的な光を帯びた瞳に、思わず息をのんだ。
階段の踊り場に射す太陽の光がより一層、彼女を神秘的な存在に見せる。
明るい陽射しをうけた綺麗な髪が、銀色に輝いて過去にとある場所で見た星を連想させた。
彼女の可憐な唇がゆっくりと開く。
「岳斗さん、奈々を助けてください」
昼休み。
俺は佳絃に連れられて裏庭に来ていた。
正直、ここにいるのは怖い。
俺が無意識のうちにどれだけ奈々を苦しめていたのか。
それをこれから、俺は知ることになる。
世良ちゃんは俺に奈々を助けてくれと言い、佳絃の目の前で俺に奈々との過去や俺の奈々に対しての気持ちを聞いた。
話す必要がないと思うことは言わなくていい。
ただ、奈々が俺といたときに見せた目の真意を知りたいと彼女はいった。
世良ちゃんの目はどこまでも真っ直ぐで、真剣だった。
それを見て、俺は奈々が尋常でなく苦しんでいると直感的に察した。
俺と話をしている間、世良ちゃんはさっきまでの小動物のような世良ちゃんとは別人のように神々しく、慈しみをたたえた瞳でずっと俺の目を見続けながら静かに話しを続けていった。
彼女は俺の目を通して俺の本質と、言葉の中にある真意を見続けているようだった。
話をしたのはとても短い時間のはずだった。
そのはずなのに。
世良ちゃんには、俺の全てを知られたような。
そんな気持ちだった。
俺にとっても、苦しく思う話は少なくなかった。
世良ちゃんはそれを見越していたようで、無理はしないでくださいと必死に呼びかけていた。
けれど、プライベートに思いきり踏み込んだような話でも不思議と世良ちゃんに話すのは全く抵抗が無く、むしろ話すべきだと思い休み時間の終わりが迫りくる中、夢中になって奈々とのことを話し続けた。
幸い世良ちゃんの質問は短く、俺は出来る限り詳しく質問に対しての回答を話すことができた。
佳絃は俺たちがそういったやりとりをしている間ずっと世良ちゃんの事を気がかりそうに見ていた。
『奈々。こっちよ』
校舎から裏庭に続く通路の方から世良ちゃんの声と足音が聞こえてきた。
通路から世良ちゃんと奈々が現れる。
奈々は昨日とは違い、元気がないように見えた。
ケヤキの下で世良ちゃんと話しをしていてもやっぱり空元気っぽく見えるところがある。
「岳斗。」
佳絃が俺に気を使うように声をかけた。
「大丈夫だよ。俺はな」
……奈々。
苦しいか。俺のせいで、苦しいか。
俺が、今おまえにしてやれることはなんだ。
奈々はどうしてほしい。
俺にどうしてほしいんだ。
俺は、どうしたいんだ。
奈々に、何をしてやりたいんだ。
俺と、奈々は…これからも、一生こんな感情に囚われたままなのか?
「奈々…今までずっと、ずっと、独りで苦しかったわよね…。」
ずっと、独りで。
それは、俺が独りにさせたんだ。
奈々との関係があんまりに苦しくてもどかしくて、俺があのとき……
目を瞑り、あのときの情景を思い出す。
奈々の家を出て行くと、奈々に告げたあのときを。
『……そんなにも自分を傷つけなくていいのよ』
今にも消えてしまいそうな儚さで、包み込むような優しさに溢れた声が、真っ暗な場所へ赴こうとしていた俺の心をすくい上げた。
その声は俺の耳を通して体中に浸透していく。
『自分の中にある感情が、どういったものなのか自分で分からないのは、誰でも恐ろしいものよ。でもね、奈々。その恐怖に、独りで立ち向かう必要なんてないと思うの。それがたとえどれだけ醜いかもしれないものであっても…』
彼女の声は、言葉は。
スッと俺の心に入り込み、俺の心の中にある重く、苦しい感情を風のようにふわりと持ち上げ羽のようにやさしく撫でる。
視線が、奈々にではなく自然と白銀の髪の少女へと惹きつけられた。
奈々が少女に自分の中にある苦しみを叩き付ける。
涙で顔中を濡らし、慟哭する。
『岳斗は僕から逃げたんだ!世良!』
彼女の言葉でほぐされつつあった心が、奈々のその叫びで瞬時に氷のように凍てついた。
そうだ。俺はあのとき、確かに。
「岳斗…!」
おもむろに右肩を後ろから引っ張られた。
驚いてそちらへ目を向けると佳絃が険しい表情で俺を見ていた。
「……なんだ、佳絃。また俺を怒るのか。女たらしが過ぎるからこうなるってか…?」
思った以上に低い声が出た。
「違う。だっておまえ…本当は、違うんだろ。」
違う?
「なにが違うって?」
奈々が言った通り、俺は逃げたんだ。
あいつとの関係があまりに苦しくて、耐えられなくて。
俺は最終的に奈々のことなんてそっちのけで自分を守りたいが為だけに逃げたんだ。
だから俺に、俺に…奈々に近づく資格なんてきっともう…ない。
俺たちはやっぱり一生このままなんだ。
「岳斗。おまえは確かに女癖が悪い時もあるとは思ってる。だけど、本当は違うだろ。おまえが女たらしになり始めたのって、奈々ちゃんの家に居候し始めたときからだっただろう。」
佳絃が真剣に、俺に語りかける。
「奈々ちゃんに、構ってほしかったからじゃないのか?その癖が今でも残ってるんじゃないのか?奈々ちゃんが今言っていた逃げたっていうのだって、奈々ちゃんの事を考えていて、お前の中で逃げたという名目でそういう行動をせざる得なかったんじゃないのか」
「……意味わかんねえよ。」
「ただ単に奈々ちゃんの為に、行動したんじゃないのか。おまえは奈々ちゃんに少しでも負担をかけないようにって、全部自分が悪いことにしているんじゃないのか。」
佳絃の目が真っ直ぐに見れない。
身動きが取れない。
『本当に大切なものほど、自分が恐怖を感じるものからは遠ざけるものなのよ。』
少女の声が、言葉が、静かに俺の中で反響した。
大切だったもの。
今も、ずっと大切なもの。
恐怖を感じるもの。
奈々への想いが自分の中で溢れだす。
甘く苦しい感情。
絶対に恋心にはなり得ない、家族愛でもない、けれど狂おしいほど相手を求めたくなるような感情。
『お互いにお互いが分からなくなるのは、自分の相手への気持ちを信じきれないからよね。でも、その感情がわからないんだもの。仕方のないことだわ。でもだからって大切な人を想って、自分をそんなに傷つけないで!自分を陥れては駄目よ!』
少女の言葉が、俺を糾弾する。
少女の声は力強く、どこまでも響いていく。
俺の本当の心を洗い出す。
喉が塞がるように苦しい。
今まで抱え込んでいたことへの罪悪感や安堵が混ざり合い、一気にせり上がってくる。
「岳斗。自分で自分を追い詰めることで、おまえは奈々ちゃんへとの関係の苦しさから逃げようとしてたんじゃないのか。おまえは、大事なことが絡むと行動力がいつも以上にある。だけど行動した後、その行動の責任の重さに耐えきれるほど、強くはないんじゃないのか。」
「にげ…てた?俺が、奈々のことから……?あんなに、大切だったのに。俺は」
「無意識なら仕方ないことかもしれない。誰だって、無意識に自己防衛くらいするだろ。」
「……佳絃、俺は…」
俺はあんまりにも、弱すぎる。
大切な人一人支えきれなかった。
「自分を陥れるなよ岳斗!ちゃんと自分自身に向き合え。世良ちゃんはきっと、おまえに時間をくれたんだ。おまえと奈々ちゃんが、お互いに向き合えるようになるまでの。二人がどうすべきかは、最後はおまえたち二人が決めるしかないから。」
俺たちが、どうすべきなのか。
俺が、奈々が…どうすべきなのか。
いや、どうしたいのか!
「そうか……。そう、か……」
「そうだよ、岳斗。奈々ちゃんを支えたいなら、まずお前がお前自身を支えられなきゃ元も子もない。話はそれからなんだ。きっと。だから、自分で自分を陥れてるだけじゃダメなんだよ。進まなきゃ、駄目なんだ。自分の力で強くならなきゃ。」
奈々たちの方へ視線を向ける。
二人とも、泣きじゃくりながらお互いに抱きついていた。
けれどその涙は苦しみからくる涙には、もう見えなかった。
「なぁ、佳絃。」
少しだけ強い風が、裏庭を吹き抜けた。
「世良ちゃんがどうして、あの時わざわざおまえの前で俺に奈々のことを質問していたのか、分かった気がするよ。」
「…うん、俺もなんとなくわかった気がする。」
恐らく世良ちゃんは、俺がこういう考えに至るまで佳絃が俺の傍にいて俺に助言をしてくれるのが一番だと考えたんだろう。
どうやら世良ちゃんは佳絃のことを余程信用しているらしい。
「すげえな。世良ちゃんは…」
まさか奈々だけじゃなく、俺にまで手を差し伸べてくれるとは思ってもみなかった。
「本当にね。…あ、岳斗。もしかして世良ちゃんのこと…」
「馬鹿、まだ会って間が短すぎてわかんねえよ。でもおまえは、そうでもないみたいだよな」
「なんだよそれ」
「お前とどんだけ長い付き合いだと思ってんだよ。今まで女が苦手で近づこうともしなかったくせに世良ちゃんのことはやたら肩入れしたがってるように見えるけど?俺は。」
そう言った途端、佳絃が焦ったように反論する。
「それはただ彼女、人と関わるのすごい怖がってたし…心配なだけだよ…!」
目が完全に泳いでいる。
うっわぁ…わかりやす過ぎてみてらんね!
「どうだか」
わざと佳絃が嫌いな嘲笑染みた薄笑いを浮かべて俺がそういうと、佳絃は憮然とした顔で俺を睨んだ。
「でもさ、佳絃。本当にお前が世良ちゃんの事が好きだっつーなら、俺は上手くいくと思うぞ。なんとなく世良ちゃんとおまえって似たようなとこあるし。お似合いだ」
そういった途端、後頭部を思いきり殴られた。
「いっってぇ…」
佳絃の顔は真っ赤に染まっていた。
こういう話しは全く体制がないらしい。
当然といったら当然だけどな。
まあでも、本当にこいつには幸せになってほしい。
奈々と出会う前からの親友であるこいつは昔から女から人気があり過ぎて、女の薄汚いところを散々見てきたせいか表には出さないが大の女嫌いだ。
そんな佳絃が、やっと自分から気にかけて率先して接しようとしている相手が出来たんだ。
「がんばれよ。」
さっきとは違う、心からの笑みでそういってやる。
やっぱりもう一発殴られた。
今度は、鳩尾を。
鳩尾に来る鈍い痛みに耐えながら、俺はこいつが近い将来世良ちゃんとどういう関係になっていくのか考えていた。
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ねじ式
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[1番Aパート]
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みそ
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