-第三依頼人-
 パソコンの前で自問自答を繰り返す。
 画面がちゃんと表示されないわけでも、ペンタブが使えないわけでも、音楽が聴けないわけでもなかった。目の前に表示された画面は対して派手なわけではなく、枠の中に表示された文字は、記憶屋に向けて書かれたメッセージだった。送ろうか、送るまいか。どうせ送っても依頼を受けてくれる数はとても少ないということで、自分の依頼が絶対に受けてもらえるとは思っていないが…。
 メッセージは書き終え、後は送信とかかれたボタンをクリックすると、メッセージは記憶屋に届けられる。それだけなのだが…。
「記憶屋に依頼したいの?」
 不意にどこからか脳に直接響いてくるような声が聞こえた。
「誰?」
「私が誰かなんてことより、依頼、したいんでしょ?」
「したいけど…」
「迷ってるなら、そんなところで曖昧に依頼しないで、本人に言うといいわ」
「本人に?けど、記憶屋が誰かなんて…」
「教えてあげるよ」


 このところ、社会科の教科担任である神威は学校に来ていない。発狂して、病院に閉じ込められているらしい。まあ、いい気味といえばそうだが、すこし可哀想な気もする。
 入ってきた担任が、出席簿を教卓に半ば叩きつけるようにして、日直を促して挨拶を済ませてしまった。
「えー…。このごろ『記憶屋』なんていうわけの分からないものが流行っているようだが、そんなものに現(うつつ)を抜かしている暇があるなら、テスト勉強をしろ」
 生徒たちの中から笑いと共に「えぇー」と言う落胆の声が漏れた。
「間違ってもテストが終わってからテストのことを忘れようなんて思わないように!」
 今度はどっと笑いが起きた。数名笑っていない奴らの名札を見ると、そういえば、こいつら、記憶屋にメッセージ送ってきたな、と思い出す。まあ、実際にやったことを無神経に言われるのは、実に気分が悪いに違いないだろう。
「さて、今日の授業は三十八ページ――」

「鏡音君」
 休み時間、レンに話しかけてくるものがいた。
「あ?」
「あの…お話、いい…かな」
 校章が青いから、高等部の…三年の生徒だろう。
「話…?いいですけど…」
「よかった。もうすぐ休み時間も終わっちゃうし、放課後、体育館の裏に来てくれない?」
「わかりました」
「じゃあね」
 嬉しそうに手を振って自分のクラスに戻っていく少年は、どこか優しげで子供っぽいような印象を受けた。子犬のようだな、と思いながらも、レンは少年の言葉の中にあった体育館の裏、と言うことで、決闘でも申し込まれるんじゃないかと思っていた。

「レン、今日は行くから」
「おう。じゃ」
 言われたとおり、レンはリンとわかれて体育館の裏にいた。
 時折ひょっこり顔を現す猫は真っ黒で、その透き通った瞳にレンは見透かされているかのような気がした。昔のリンも、こんな目をしていたっけか…。
「あ、きてくれてたんだ。よかった」
 出てきた少年はやはり童顔で、レンを見つけると嬉しそうに駆け寄ってきて、荒くなった息を整える。落ち着いた青の髪と目は優しげである。
「あの、さっさと用事済ませてもらっていいですか?」
「うん、ごめんね。俺の名前は、カイト。ちょっと…確認したい事があって…」
「確認したいこと?」
「記憶屋って知ってる?」
「はい。知ってますけど」
「実は昨日ね…」
 そう言って、カイトは昨日のことを話し始めた…。


 呆然とした。
「だから…その」
「俺が、記憶屋だって言うんですか?」
「はなから信じたわけじゃないけど…」
「まさか!そんなわけ、ないじゃないですか。俺が記憶屋だなんて!」
 笑ってごまかしきれるものだろうか。どうも彼の目は純粋で、嘘は全部暴かれてしまいそうな、どこか透き通った心の持ち主なのだろうことは今日はじめてあったレンにでも分かった。
「そ、そうだよね。ごめん、こんなところに呼び出しちゃってさ。じゃあね」
「はい。じゃあ」
 すぐにその場を離れた。
 誰だ。誰がばらした。自分が記憶屋であることは知っているのは自分とリン以外にはいないはずだが、パソコンを調べれば誰にだってすぐ分かる。そうだとするならば、一体誰が?一番可能性があるのはルカだが、ルカならこんなことはせずに自分で問い詰めてくるに違いない。
 じゃあ、一体誰が――?

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

記憶屋・心屋 6

こんばんは、リオンです。
サラリーマン金●郎を見てぼうっとしていたので遅くなりました。
べ、別にいいわけなんかしてないんだからっ!
ちょっと急展開。そしてカイトの扱いのひどさ。
しかしながらいまだに登場しないめーちゃんは、出てくるのだろうか。
出てこなくてもいいかもしれないです。
それでは、また明日!

閲覧数:226

投稿日:2010/01/29 23:58:14

文字数:1,806文字

カテゴリ:小説

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