!!!Attention!!!
この話は主にカイトとマスターの話になると思います。
マスターやその他ちょこちょこ出てくる人物はオリジナルになると思いますので、
オリジナル苦手な方、また、実体化カイト嫌いな方はブラウザバック推奨。
バッチ来ーい!の方はスクロールプリーズ。
今、目の前のこの人は何と言ったのか。
犯人の男を・・・殺した、と言わなかったか。
もしそれが本当なら、それが意味しているのは、彼が確かな殺意をもって犯人の命を奪ったということだ。つまり、目の前にいるこの人は・・・『上条竜一』という男性は・・・。
「殺人、犯・・・?」
決して軽い気持ちで彼の言葉を待っていたわけではない。それだというのに、想像を遥かに超えたその言葉は、俺が次の言葉を発するタイミングをも奪っていた。
呆然とした俺の視界に映る竜一さんが、静かに頷く。その隣には、自分の体が震えるのをどうにか止めようとしているマスターの姿。それが嘘偽りではないのだと認識してしまうと、もう迂闊には口を開けなかった。
「どちらの事件も、元は事故として片付けられていたんだ。彼が律を助けてくれるまでは」
苦笑と視線を向けられた隆司さんも、苦々しい表情をしていた。過去のことを思い出していたからなのだろうか。
その日、隆司さんは渡米した先で、その事故の記事を目にし・・・嫌な予感に追われるように戻ってきたそうだ。そしてあの家で、竜一さん――いや、竜二さんがマスターを傷つけていたところを目撃し、そこで竜二さんの口から真相を知った。マスターを助け出して警察を呼んだのは隆司さんで、その時には・・・それまでごく普通の明るい女の子だったマスターの状態は、俺と最初に出会った頃のようになってしまっていたのだそうだ。そして警察に連れて行かれた竜二さんは、特殊なケースであったとしても、明確な殺意があったと断定され、懲役に服すことなった。精神的な部分や愛する人を奪われたことも考慮された上での判決だったという。
「彼が・・・僕が律に対しておこなっていたのは『虐待』・・・一言で言えばそうなるだろうね」
机の上でつなぎ合せた手を震えるほどに握り締めている竜一さんの言葉に、まだマスターと出会って間もない頃のことを思い出した。
あの時は、俺が触れようとしたり、距離を詰めようとしたり、喋りかけたりするだけでも酷く怯えていた。自分がそうと思わずとも体が勝手に拒絶反応を示し、時には吐き気さえ引き起こすこともあったのだ。それは、これが原因だったのか。
誰もを好きでいたいと願ってそうしてきたマスターにとって、それは耐えられない苦痛だったに違いない。そして彼女は、耐え切れずに全てが自分のせいなのだと思い込んだ。
「僕は竜二の強い意識に負けて暗闇に沈められていた。
そこから見える律は、いつも震えていたよ・・・」
その言葉に、きゅっと筐体の中で何かが締め付けられるような音がした。
今はっきりとわかった。出会った頃のマスターは、俺の姿を見ながら竜二さんのことを見ていたのだ。そうとわかっていたら、俺はあんなことをしなかっただろうに。
竜一さんは小さく息をついた後で長めの瞬きをした。
「沈められていた僕がすぐに代わっていれば、律に危害を加えるなんてことはなかった」
ゆっくり隣へと移動した視線は、マスターで止まる。互いに深い後悔や悲しみを感じさせる表情。
「で、でも・・・私、そんなに痛い思いは・・・っ」
「させたはずだよ。小さかった律には辛かったはずだ・・・精神的にも肉体的にも傷つけてしまった」
竜一さんの辛そうな表情をどうにかしたいという思いがマスターの口から出てきたようだったが、それは更に竜一さんの表情を歪めさせるだけだった。
悲しそうなマスターを見ていられず、この話を終わらせようと頭の中で言葉を探すが、マスターを傷つけない言葉なんてものは見当たらない。
マスターがこの人を大事にしている限り、俺が今から何を言ったとしても、少なからずマスターを傷つけることになる。
それでも何か言った方が楽になるかもしれない、と覚悟を決めて口を開いた。
「・・・竜一さんにも、その時の記憶があるんですね?」
目の前にいる竜一さんが全て悪いわけではないとわかっていながらも、口から滑り出した言葉には明らかな憤りがあった。
やったのが竜二さんでも竜一さんでも同じことだ。犯人を殺してもマスターを傷つけても、自分が満たされないことぐらいは聡明なこの人にならわかっていたはず。俺が彼と同じ立場であったらやはり同じようにしたのかもしれない。でも、だからといってこれは許されることではない。
竜一さんは俺のそんな気持ちを悟ったように口を閉じ、そっと開きなおす。
「そうだ。君が思っている通り、僕がやったことで間違いないよ」
静けさがその言葉を攫う。その言葉には、もう既に償うための準備は整えてある、という思いが込められていたようだった。
何故だろう、この人の気持ちが今ならよくわかる気がするのは。
彼の隣にいるマスターは、小さく震える唇で息を吸い込み、慌てた様子で俺を真っ直ぐに見据えた。
「ちがっ・・・違うの、カイトさん! お父さんも竜二さんも悪くないのっ! 悪いのはっ」
悪いのは私だ、とでも言いそうな彼女に「わかってるよ、マスター」と声を返す。
一瞬にして、マスターの表情が驚きに彩られた。
確かに、さっきの怒りに満ちた声を聞けば、竜一さんのことを悪く言うのではないかと思うのも仕方ない。
苦笑する竜一さんに視線を向けて、またその視線をマスターへ。
「ただ、俺たちが許しても自分が許さなければ意味がない。
あなたは・・・自分を許してないんでしょう?」
言葉を放ちながらまた視線を移動させると、竜一さんが小さく息をつきながら表情を緩めた。
「・・・安心したよ。君みたいな人が隆司くんの他にいるなら大丈夫だね」
竜一さんの穏やかな声を聞きながら、どうしたらこの人や隆司さんのような人を安心させる声が出せるのだろうと考えさせられた。人生経験云々ではなく、元から持ち合わせていた雰囲気などがものをいうのだろうか。
全く関係のないそんなことを思った時、不意に黙っていた男性がため息をついた。はっとして視線を移動させると、隆司さんやルカさんがそれぞれ辛そうな顔をしている。
(ああ、そうか)
そこで、竜一さんの台詞を反芻する。『君みたいな人が隆司くんの他にいるなら大丈夫だね』ということは、つまり自分がいなくても大丈夫だと口に出して確認したということだ。
ぐっと下唇を噛む。彼は罪を償いたいと思っているだろうから、それも仕方のないことだとわかっている・・・のに、何故だろうか。このまま行かせてしまうのは悔しいと思うのは。
「律を変えてしまったのは僕だから、もう一度やり直したいんだ」
優しい笑みを湛えてそう言う竜一さんは何て強いのだろうか。
何か言いかけたマスターを気にかけることもなく、彼女の頭を撫でる手。見ているだけで優しさが伝わってくるようなワンシーン。どこから見ても理想の家族だというのに・・・・・・悪い人ではないのに、心無い犯人の行動一つが変えてしまった。
「すみません、お待たせして。もう大丈夫ですから」
立ち上がってそう言った彼の顔には、笑顔が浮かんでいた。今までの悲しみや辛さなんて見当たらない。
竜一さんが男性の元へ歩むと、「いいのかい? 俺のことを気遣ってんなら」と今まで黙っていた彼が声をかけた。だが、声をかけられた竜一さんは小さく首を振る。
「いえ、構いません。律は強い子ですから」
それはまるで、マスターに宛てた言葉のように聞こえた。竜一さんは俺たち全員に別れを告げるように微笑む。
何て絵になる人だろう。別れ際だというのに・・・しかも決して良い別れではないのに、この人はこんなに綺麗に笑う。どこかマスターに似た、とても綺麗な笑顔を浮かべる。
「カイトがいるから大丈夫ですよ」
隆司さんのそんな声に「隆司さんもルカさんもいますしね」と笑みを浮かべながら付け加える。ルカさんが上品に笑いながら「あらあら」と言っているのを見ると、竜一さんが眩しいものでも見たかのように目を細めた。
玄関へと続く廊下を歩く。その足音だけが静かに重く響いているのが、空気にも重さを与えるような気がする。
マスターは何も言わない。重い空気のせいで何も言えないのか。
パトカーに乗る前に小さく頭を下げる竜一さんに、俺も礼を返す。同じようにルカさんと隆司さんも頭を下げたのが空気の動きでわかった。
これからどれだけ離れるかわからないのに、マスターは何も言わなくて後悔しないのだろうか。
そんなことを思いながら頭を上げたその時、「お父さんっ!」と大きな声が響く。
驚き見たマスターの目からは、透明な涙が伝っていた。だが、浮かぶ表情は笑顔。涙を流しているのに、とても綺麗な笑顔だった。
「行ってらっしゃい・・・!」
他にも伝えたかった言葉があったのだろうが・・・その全てをも詰め込んだようなその言葉は、竜一さんの顔を綻ばせただろう。振り返ることなく手を挙げるだけでパトカーに乗り込んでしまった彼の表情を見ることはできなかったが、そんなことを思った。
おそらく俺は、この日のマスターの涙を忘れないだろう。
→ep.44 or 44,5
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