朝だ。
あたしは、とうとうピアプロに行くことを昨日の夜、決意した。
やっと自分を見つめなおすことができたんだ。
あたしにも、何かできることがある。じっといてはいられない。
何かを、始めないと。
そして、確かめないと。
大丈夫。あたしには・・・・・・。
「ネル。」
雑音がいる。
「行こう。」
「うん。」
あたしは信じてる。
雑音とならできる。雑音がいてくれるなら、あたしは、歌える。
「いってきまーす!」
「行ってきます。」
ファーストシリーズの初音ミクなんかには負けてられない。
あたしだって、ボーカロイドなんだ。
そうだ、やればできる!
だから、雑音。
傍にいて。
ハク達より一時間早く出勤した俺は、ピアプロに到着早々、とある多目的室に待機させられている。
いや、待機というより監視のほうが表現に正しいかもしれない。
俺の隣には、オフィスチェアーに深く腰を下ろし、雑誌をめくっている一人の青年型アンドロイドと、彼を俺と挟むようにして同じく椅子に腰を下ろしている同僚、明介がいる。
「ふぁ~あ。」
アンドロイドは大きく背伸びをし、読みかけていた雑誌、週刊ブレイクを会議用のテーブルの上に投げ捨てた。
「あのー。もう一時間経ちますよ。僕もう腰が痛くなっちゃいました。ちょっと外に出て行ってもいいですかね?ほら、僕新人だから皆に挨拶して・・・・・・。」
「勝手な行動は許さん。」
彼の発言を、明介は一言で一蹴した。
「ちぇっ。」
恐らく俺でも同じ事を言っただろう・・・・・・。
彼の担当の監視者である明介は恐ろしいプレッシャーが圧し掛かっている筈だ。この、彼の担当であるのだから。
最も、彼が何らかの事件を起こせば、同じ監視者である俺にも責任を圧し掛けられる。
重大な結果ともなれば、俺達は本社に首を刎ねられる程度では済まされないだろう。
俺は、緊張でワイシャツの背中を冷たく湿らせていた。
そのとき、扉の外から、こちらに向かって走りよる足音が聞こえた。
その足音からは、焦りが感じられた。
次の瞬間、勢いよく扉が開け放たれた。
そこには赤髪の青年が立っていた。
「どうした。アカイト。」
「あ・・・・・・。」
アカイトは俺の隣に座っている彼の姿を見て、驚きの余り俺に言いたかった言葉を忘れているようだ。
「何かあったのか。」
構うことなく続けて問いかけると、彼はやっと言葉を取り戻した。
「マスター・・・・・・ネルが、ネルが来てる!」
「何?!」
今度は俺が驚愕の余り椅子から立ち上がった。
そのとき、無意識に彼の方向を向いていてた。
ここで明介と彼を二人だけには・・・・・・・。
「敏弘。行ってやれ。」
俺の心境を察したのか、明介は何気ない様に俺に言った。
「・・・・・・アカイト。ネルは今どこにいる?!」
「事務所の玄関だ。」
その会話を交わしながら、俺はアカイトと共に多目的室を走り去っていた。
ネル・・・・・・戻ってきてくれたか・・・・・・!
「ネル!」
正面の階段から、敏弘さんとアカイトさんの二人が降りてきた。
二人ともすぐにわたしとネルの所に近づいた。
だけど、ネルはすぐに顔をそらしてしまった。
「ネ、ネル・・・・・・!」
ネルは、きっと顔を合わせづらいんだ。きっとそうに違いない。
「ネル・・・・・・戻ってきてくれたのか。」
「・・・・・・。」
ネルは何も言わない。
「敏弘さん・・・・・・ネルが、活動再開してみたいって言ったんだ。だから、一応、来て見たんだが、どうしたら・・・・・・。」
「大丈夫です。私に任せてください。」
そう言って、敏弘さんは笑顔になった。
「いや・・・・・・。」
ネルが、小さく呟いた。
「ネル・・・・・・。」
「ダメ・・・・・・雑音とじゃないと。」
わたしを・・・・・・頼りにしてる?
敏弘さんは、ふぅ、とため息をついた。
「じゃあ、どうだ?雑音さんとユニットを組もう。それならいいだろう?」
「え・・・・・・?」
ネルが顔を上げて敏弘さんを見た。
「そうだ。ユニットを組めば人気が上がるかも知れないぞ!」
わたしもネルに言ってみた。
すると、ネルの顔がすぐに明るくなっていった。
「うん・・・・・・分かった。」
「ネル・・・・・・。」
「あたしも、そのつもりだったから。」
「ネル!ありがとう!」
わたしはネルの手を握った。
「ちょっと、雑音ぇ・・・・・・!」
ネルは恥ずかしそうに顔を赤くした。
「良かったわ・・・・・・ネル。」
「良かったです。ネルさん!」
「え?」
突然声がしたので振り向くと、ハクさんとカイコさんが笑っていた。
「決まりだな!」
と敏弘さんが言った。
わたしと、ネルで、ユニット。
ネルと歌える・・・・・・!
なんだか、わたしも嬉しくなってきた!
「そうだ。今日はみんなに新しく来た新人ボーカロイドに挨拶をさせよう。」
「あら、今日来たの?」
「うわぁ~楽しみです!」
新人・・・・・・?
新しい、ボーカロイド?
「さぁ、早く行こう。第一多目的室にいるよ。」
わたし達は敏弘さんの後を付いて行った。
「ネル!」
そのとき、アカイトさんがネルに呼びかけた。
「・・・・・・?」
「この前は、ごめんな。俺、お前の気持ちちゃんとわかってやんなくって・・・・・・。」
「・・・・・・いいよ。もう・・・・・・。」
「・・・・・・。」
・・・・・・。
第一多目的室には明かりがついている。
新人ってどんな人だろう?
男か?女か?
とにかくすごい楽しみだ。
「入るぞー。」
敏弘さんがドアを開けて、わたし達は順番に中に入っ・・・・・・・。
「おはようございます皆さん。」
「おはようございます。」
「おはようございますです!」
「まぁ、よろしく。」
「こちらこそ。」
「言うまでもないが、彼が新しく入ってくる・・・。」
「自分の名前ぐらい自分で名乗らせてくださいよ。」
「おお、それもそうだな。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!
「皆さん。改めて始めまして。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!
「以後、セカンドシリーズとして共に活動させていただく・・・・・・。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!
「初音ミクオです。どうかよろしくお願いします。」
「ねぇ、どうかしたの。どうして、そんなに・・・・・・驚いた顔して。知ってる人? あ、もしかしたら昔の何か?ねぇ雑音・・・・・・雑音?」
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