「んじゃナス、支払いよろしく~」
 捨て台詞のように言い残すと、メイコはさっさと店を出て行ってしまった。続いてさも当然のことのようにそれぞれ、
「ニャハハハハ、ナスちゃんセンセイ、ごち~♪」
「……さっさと払ってこい、准教授」
「あの……ごちそうさまです、先生……ぺこっ」
 俺と先生の二人だけが、部屋に残された。
 ったく、あいつらときたら……。
「うううううう、カイトくぅん、みんな何か……酷くない?」
 みっともない声で泣きついてくる先生。仕方ないといえば、仕方ないんだけどさ。
「あー、なんかすんません。えと、俺もいくらか出しますよ?」
 ここで始めに立ち返ろう。うちの研究室の飲み会は『かなりの頻度』で開かれている。一般的に考えれば、イチ大学生のバイト収入程度ではまかなえないほどの頻度だ。それでも開かれ続けているのは何故なのか……? 答えは明白だ。研究室の『財布』が先生だからだ。
「あうう、そんなこと言われたら余計に惨めじゃないかぁ……! もぅっ、わかったよ! 僕が出せばいいんでしょ!? 僕がっ!!」
 大人げない仕草で頬を膨らませ、そっぽを向く。うん。これが女の子だったら可愛いんだけどね!
「いやいや、だからね、先生。拗(す)ねるくらいだったら俺の金受け取ってくださいってば!」
「もういいんだもんっ! 僕お金払ってくるからカイトくんは忘れ物ないかチェックしてきて!!」
 ぷいっ、と口に出しながらレジに向かう。まったく、本当に面倒くさい人だ。



 室内を一通り確認して外に出て行くとみんなは、相も変わらず騒ぎながら俺の事を待っていた。ってか、これで置いて行かれてたら最悪だよな。
「うぃ、お待たせ」
「忘れ物、大丈夫だった?」
 とは、ミクちゃんだ。
「無かった、と言いたいところだけどさ……こらメイコ! 堂々と鞄忘れてく奴がいるか!?」
 赤いバッグを掲げ、向こう側でレンに絡んでいるメイコを怒鳴りつける。
「あれ、アタシ鞄持ってきてたっけ?」
「バカヤロウ」
 まったく、世話の焼ける奴だよコイツは。
 近づくと、ぽかっと軽くメイコの頭を小突いてやる。するといきなりミクちゃんが、
「ああああああっ――!!」
「今度は何っ!?」
 つい反射的に突っ込んでしまった。
「ヤバいヤバい!リン、レン、終電!!」
 時計は0時丁度を指していた。ミクちゃんと鏡音姉弟が家に帰るには確か、五分後の電車に乗らなければならないはずだ。っておい!
「えー? アハハハハ、ヤバいじゃんミク姉、ヒャハハハハ!」
 なぜか楽観的に笑っているリンちゃんと、
「え、えええええ、い、急がなきゃミク姉ちゃん」
 ミクちゃん同様に焦るレン。
「う、うん! ちょっとみんな、私達行くね!」
「んじゃまぁ、お開きにしましょうか。三人とも気をつけて帰るのよ~?」
 急がなければならないのに、一度は踏み出した足を止め、
「……メイちゃん、ちゃんと『自分ち』に帰るんだよ?」
 じゃあね、と手をあげるメイコに、ミクちゃんが『自分ち』を強調する。
「えー? 今日はカイトんちだよ~。ね、カ~イト♪」
「てめ、今日も来る気かよ!?」
「メイちゃん!!」
 指で突いたら今にも割れてしまいそうなほど頬を膨らませて抗議するミクちゃん。そうだ、もっと言ってやってくれ! コイツは帰ってからも飲む気なんだ!
 口からでかけたところで横槍が入る。
「ミク姉ミク姉、あーしは別にいいんだけどさー、終電、なくなっちゃうよ? にひひひひ――」
 リンちゃんは最後の最後まで笑顔だった。
 再度時計を確認したミクちゃんは余計に焦った様子で、
「と、に、か、く! メイちゃんはちゃんと自分のおうちに帰りなさい! カイトくんも、メイちゃんを甘やかしちゃダメ! じゃあ……もう私行くからね! 行くからね!? ほらリン、レン!」
 言い残して駅の方へと駆け出して行く。
「にゃははははっ、おやすみー!!」
「あ、皆さんお休みなさい!」
 ミクちゃんに手をとられた鏡音姉弟は、捨て台詞のように残して引きずられていった。
「先生、いつもいつもごちそうさまです。今日はもう帰るんですか?」
「あはは、いいよいいよ。僕は大学に戻るよー、ほら、仕事残ってるし!」
 親指を立てて胸を張る先生。いやいや、あんたそれだったら飲み会来てる暇無いっしょ!……いつものことだけど。
「ナスも大変ねー、どうでもいいけど」
「あうう、なんか酷い言われ様だなぁ。僕はメイコちゃんのことだって心の底から愛して――」
〝バコッ〟
「痛い! 何するのさカイトくん!?」
「先生こそ何言ってんすか、まったく」
 何となくイラッとしたので、一発殴ってやった。俺、疲れてるのかな。
「ったく、こんなところでぐだぐだしてたって仕方ないんで、俺らも行きましょう」
「いてててて。うん、二人とも気をつけて帰るんだよ? ――イテテテテ、本気で殴ることないじゃないか……」
 半泣きで大学の方へと歩いていってしまった。なんか心配されたあとに文句言われたんだけど。殴られたのは自業自得じゃねーか。
「ナスに心配されたくはないわよね」
 先生の背中にそう吐き捨てるメイコは、何故か仁王立ちしている。よくもまぁこれほど仁王立ちが似合うものだ。畏敬の念すら覚えてしまうよ。
「まぁまぁ。あれでも俺たちの先生なんだからさ、あんまり言い過ぎるなよ?」
 苦笑いでいさめると、
「ん、カイトがそう言うなら。……そんなことよりもほら、アタシ達も帰るわよ!」
 やたらと偉そうに言う。
「はいはい、承知致しました、お嬢様」
 さて、チャリとってくるか。



「ぷはああああああ、つ~か~れ~た~……」
 俺の部屋に着いた途端、勝手に冷蔵庫を漁り、取り出した缶ビールをあおっている。
「ったく、俺の方が疲れたっての」
「ご苦労ご苦労。くるしゅうない……ぐびぐび」
「左様で御座いますか……」
 ついぞため息が漏れてしまう。お大層な御仁だこと。
 あまりの疲れでシャワーを浴びる気すらおきないので、メイコがいることなんか無視してスウェットに着替える。というよりも、メイコの方が俺のことを無視しているというのが正解な気もするが。
「おら、どけぃ――」
「いてっ。ちょっと何す――」
 ぱほっ。
「寝る」
 ベッドに腰を下ろして携帯を弄っていたメイコを床になぎ倒し、問答無用で倒れ込む。
「えー!? ちょっとぉ、付き合ってくれないの~?」
「知るかー」
 構ってくれない俺に少し拗ねた様子メイコ。淡々と拒否してやる。俺はね、疲れきってるんですよ。
「むぅ……」
 まだ文句があるようだが、それを遮るように、タオルケットを頭までかぶって壁側に向く。すると――
「……いいもん」
 ごくごくごくん。一気に流し込む音がしたかと思うと、続いてカコンと空き缶をテーブルに置いた音が。。
「ぷはっ。付き合ってくれないんだったら……ふふふ」
 ちょ、まてまてまてえええええええ――
 様々な音が耳に入る。いや、俺はもう寝るんだ! 絶対に構ったりなんか……
 ギィィ。ぱすっ。ぱたん。ごそごそ。
 こいつ……勝手にタンス開けやがって。
 ぱほっ。ごそごそ。
「………………」
 衣擦れの音など何のその、無視を決め込んでや――
「ふぅぅぅぅぅ~。にゃはっ♪」
 ぎゅっ。
「ひゃうっ!」
「えへへへへ……ぎゅうううううう――」

 ぐああああああああああ、静かに寝かせろおおおおおおおおおおおおおおおおおこの酔っぱらいがあああああああっ!!



<了>


提供・ヒロユキコウボウ

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

私立防歌炉大学 海洋学部 海洋生物学科 神威研究室① <いつも通りのある日の飲み会> Part.5

はい、ひとまず終わりです。
このような拙作に目を通してくださった方、いかがだったでしょうか?
不肖私の脳内妄想全開作品となっておりますが、楽しんでいただけたでしょうか?


近々、続編もアップしてみようかと思っておりますので、またご縁が御座いましたら目を通してやって下さい。
ではでは、ありがとうございました。

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閲覧数:151

投稿日:2010/09/21 00:36:14

文字数:3,126文字

カテゴリ:小説

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  • lunamark

    lunamark

    ご意見・ご感想

    はじめまして!
    lunamarkと申します。

    Part1から通し読みさせてもらいました! ……いやあ、面白いですっ!
    カイトを中心にみんないいキャラしてますねー
    ……くそう、こんな飲み会、俺も行きたいっ!><
    女性陣のかわいさも半端なかったですが、
    レンのかわいさも半端なかった! でも、出番がなかった! がんばれ!!
    ナス? お前はそのままでいいよ!(酷い)
    続編も楽しみにしてますー♪

    それでは長文失礼しました。

    2010/09/22 18:58:16

    • ヒロユキコウボウ

      ヒロユキコウボウ

      こちらこそはじめまして、lunamarkさん。いらっしゃいませ?

      通し読みとか……ありがとうございます!
      ええ、そうなんですよ。みんなかわいいでしょ?(自分で言うかw)
      ナスは……今後加速度的に扱いが酷く(ry

      近々またUPする予定ですので、拙作でよろしければおつきあい下さいませ!
      メッセージありがとう御座いました!!^^

      2010/09/22 23:26:52

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