――――――――――#4

 盗聴器はもちろん配置している。プライベートな空間の物音はネルが聞きたくないのでパスだが、むしろ一人でいる時よりも他の人間とどういう会話をするのかが重要だった。

 「やっぱり"忘れやがった"な……」

 弱音ハクの正式な要請で、亞北ネルはグミの監視をしている。「攻響兵としての性能を調査する」という内容だが、答えはもう出ていた。ネルの麾下で最強の警備班をグミの監視につけたが、すでに影響が生じているようだ。

 「でしょうね。まあ、移動許可証を渡さなければならないという所まで覚えていたのは、精神力の強さでしょうか」
 「他人事みたいに言うなよ。このペースだとかなり厄介だ」

 リムジンの中、亞北ネルと弱音ハクが淡々と感想を言い合う。

 「なんやねんお前ら、これから飲みに行くいうのに仕事の話かい。明日でええやろ」
 「私は聞いてないからな、猫村中将閣下。巡音市長が料亭奢ってくれるって言うから都合合わせたんだよ」
 「ハクには確かに伝えましたが、言ってなかったのですか?」
 「はい。言ったら来ませんので」
 「お前な!」

 ネルとハクの向かいには、猫村中将と巡音市長が座っていた。リムジンは巡音ルカの私物で、攻響兵時代の給料で買った物だ。本人曰く、ちょっと位は見栄張らないと示しつかないからだそうだが、酒の席でディーラーを呼びつけた事件を本人は忘れている。

 「しかし、そのグミという捕虜は危険なのですか?」
 「わかりません。危険かどうか調査中です」

 巡音市長の問いにハクが応じる。ネルは呆れた顔を繕いながら、盗聴器の向こうで初音ミクとグミが会話しているのを聞いていた。初音ミクの方にも盗聴器を仕掛けているのだ。警備隊の連中が亞北ネルの為にチャンネルを切り替えているから、途切れなく聞こえる。

 『ネギは連作に強いんだけど、ネギに強い病原菌がいるからあんまり連作すると不味いよねー』
 『はあ』

 この精神攻撃。サツマイモでも育ててろ。

 「"忘れる"、とはどういう意味や」

 猫村中将が聞いてきた。視線を感じたが、ハクに肘打ちして盗聴を続ける。

 「グミという捕虜は鏡音レンから『憎悪の風』と呼ばれる心理現象を主体とすると思われる、精神攻撃を受けました。その心理機制が攻響兵としての能力に波及した結果、今回の暴走と思われる恒常的な発現を引き起こしたと思われます」
 「『憎悪の風』、か。鏡音レンはエルグラスの生き残りだったな?」
 「しかも、LEONから能力を引き継いだ重要人物です」
 「最悪だな」

 LEON。あいつはいい奴だった。初音ミクを引き止めながら、亞北ネルに助言をし続けてギリギリまで時間を稼いだ。結果的には犠牲を最小限に留めたが、あいつは犠牲者の数を全て自分に引き受けて、罪を背負って帰っていった。

 「ま、LEONの後継だとは、本人は知らんだろうがな」
 「せやな。ある程度は影響を受けざるを得ん。というか、正義感が強いという辺りで、相性は良さそうやしな」
 「レオンは本当に戦死したんですか」
 「間違いありません。今でも検証は行われていますが、最初の所見通りです」 

 なんだろう。この違和感。確かに私は非番だった筈だ。巡音市長さんが高級懐石を奢ってくれるというから楽しみにしていたが、リムジンに高級将官付きとまでは聞いていなかった。

 「折角だから、市長の奢りで芸者さん呼んでくださいよ。お金あるんでしょ?」
 「芸者ええなー!神威のツケにしといたらええんちゃうか!なあ!?」
 「神威?え?」
 「それも聞いていなかったのですか?本日は神威中将も同席なさいますが」
 「なんで?」
 「あの、弱音准将閣下、亞北准将閣下は何も聞いていないのですか?」
 「ちょっと連絡を忘れただけですし、今言えばいいでしょう」
 「はあ」

 こいつ、私が逃げるの分かってて言わなかったな!?

 「まあええやろ。あいつこないだの飲み会逃げたからツケ払わしたるええ機会や。市長、ええ女の子よべや」
 「お断りします。私も職務上の差支えがありますので」
 「かーっ、運が良かったな神威がくぽ!あいつ、次はケツの毛までむしったんで!」

 あかん奴や。リムジン内はイジメの打ち合わせで、盗聴器の向こう側もネギの講義が始まってる。そして非番でなく出勤していれば良かったかと言うと、今日が13日目の連勤である。折角の非番だけれども、寝落ちできるだけマシといわざるを得ない。

 やはり長い夜になりそうだった。

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  • 非営利目的に限ります

機動攻響兵「VOCALOID」 第4章#4

長い夜になりそうdeath♪

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投稿日:2013/02/12 00:53:25

文字数:1,888文字

カテゴリ:小説

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