1.~ミク
私達の街を風が吹き抜ける・・・。
交通機関も程よく揃い、利便性もそこそこいいこの街。
ただ、この街には二つの人種が混在している。
私は東方系人、優遇され、全ての交通機関やお店を利用できる。
そして、東方系人の学校に通い、歌を歌う事が許されている人種だ。
そして、もう一つの人種、西方系人。
バッジを着けられ、区別され、スラムのような場所に住み、西方系人の学校に通う。
もちろん東方系人の使う施設を利用することは許されない。
・・・そして歌を歌う事が許されていない人種である。
そのような教育を当たり前のように受け、西方系人は迫害されていく。
子供の頃から当たり前だったから、もう今では疑問さえ感じない。
「・・・い、お~い、ミク、大丈夫?」
友人が私の前で手を振る。
「あ、うん、ちょっと考え事してただけだから・・・」
私達は東方系人優遇のカフェで放課後を過ごしていた。
周りはサラリーマンや買い物帰りの主婦たちが、思い思いの時間を過ごしている。
「本当にミクは考え事好きだよね・・・歌を聴いただけでその歌をすぐ覚えて歌える音楽の才能もそこから来てんの?」
「違うよ・・・他のこと考えてた・・・私に音楽の才能なんてないない!!」
ふるふると首を振って答えると、ニヤッと友人が追求してくる。
「じゃあ、何の事考えてたの?」
「・・・西方系人の事、また“西方系人狩り”があったって」
友人は一瞬固まり、小声で私に言った。
「それはマジでやばいヤツだから・・・大きい声で言っちゃダメ・・・」
私は静かに首を縦に振った。
・・・穏やかな時間。
コーヒーが入ったストローをちゅーっと吸いながら、友人と過ごす。
「・・・あのさ」
友人が唐突に言葉を発する。
「何!?」
私は驚いて聞いてみる。
なぜなら、友人の顔が真っ青に変わったからだった。
「うちの高校に“西方系人狩り”の犯人がいるって噂があってさ、嘘だと思ってたら、今日、朝、下駄箱にこんなのが・・・」
友人は私に、封筒に入った手紙のような物を手渡した。
「中を見てよ」と小声で言われ恐る恐る内容を確認してみる。
中のメモ帳の様な紙にこう書かれてある。
[今夜、忌まわしき西の人を一人消す。今日の担当はお前だ。消さなければお前が消されるだろう。]
これって・・・西の人ってまさか・・・。
「う、嘘だよ、こんなの、不幸の手紙の類だって!!」
「で、でもさ、待ち合わせ場所と時間まで書かれてるっておかしくない?」
下に地図とPM20:00という時間が記してある。
ここ、知ってる。街の記念公園だ。
「こんなのデマだから!!絶対行っちゃダメだよ!!!」
「分かってるけどさぁ~」
ペタンと頭をテーブルに付ける友人。
その後も友人を励まし、夕方別れた。
その間もずっと「絶対行っちゃダメだよ?」と友人に声を掛けていた。
夕食を食べ、お風呂に入り、勉強をする。
いつも通りに過ごしていたのだけど、考えるのは友人の事ばかり。
課題の写譜も手が進まない。
「もうすぐ時間だよ・・・行ってないよね・・・?」
そう呟いて、ペンを進めた。
その時。
携帯の着信が鳴った。
友人からだ・・・。
「もしもし・・・」
『助けて・・・ミク・・・』
今にも生命を吸い取られそうな声だ。
「どうしたの!?まさか!!!」
『・・・まさかうちの高校の女番長に迎えに来られるとは思わなかった・・・もう・・・ダメ・・・』
電話が切れる。
私は無心で支度をして、家を飛び出し、記念公園の方向に走った。
友人の顔が浮かぶ、無事だといいんだけど・・・。
夜の記念公園は、異様な空気を放っている。
「!?」
私は、公園の入口に倒れている友人を見つけた。
「ねぇ、どうしたの!?大丈夫!?ねぇ!!!!」
どんなに揺すっても答えは帰ってこない。
なぜなら、友人の命がもう失われていたからだった。
「どうして・・・」
目から涙が溢れる。
どうしてこうなってしまったのか、確かめなくちゃ・・・。
そんな思いで公園の奥に進んでいく。
噴水の横で何人か人の輪が見え、笑い声が聞こえる。
「ほら!!!“死の歌”なんて歌っても無駄なんだよ!!!!」
もう少し、近づかなければ。
その時、人の輪の中から苦痛に歪む一つ歌声が聴こえた。
目の前の世界が歪む。
何これ・・・呼吸が・・・そして心臓が掴まれて・・・。
私は叫びを上げる。
全身に痛みが走る。今までに感じたことないような苦痛。
「やめて・・・お願いだから・・・」
私は助けを求めるように、人の輪の前に出る。
そこには私の高校の女番長とその下っ端が何人かいた。
「あれ、聴いちゃったの?忌まわしき西の人の“死の歌”を・・・」
番長は手下と顔を合わせて、ケラケラ笑っている。
もうすぐ命が無くなる感じがする。
何としても助からなくては・・・。
「どうすれば・・・助かりますか・・・!?」
最後の命乞いだ。
「確かアンタ、ウチの高校の生徒だよね・・・じゃあ特別に教えてあげる・・・自分の命が尽きる前にこいつを殺すんだよ!!」
指差された先には、苦しみながら歌を歌う、西方系人がいた。
そしてナイフが手渡され「早く」と指示される・・・。
それから自分の命を守ることに一生懸命だったから、記憶が所々飛んでいる。
ケラケラと耳栓を外しながら笑う女番長達・・・。
私は、歯を食いしばって泣いていた。
全身の苦痛は全て消えていた。
悔しい、悔しい、どうにかしてやりたい・・・!!
私は息を吸い込み、さっき聴いたばかりの“死の歌”のメロディを歌いだす・・・。
苦しみもがく女番長達。
「やめ・・・ろ・・・やめろぉぉぉぉぉぉ!!!!」
その断末魔は耳の中でループし、今でも再生されている。
私は発見された当時「西方系人に襲われた」ということになり、罪に問われなかった。
「おはよう、ミク」
「うん・・・おはよう・・・」
あの事件から初めて登校した日も、クラスメイトはいつものように私に接した。
でも日常は、もう日常でないような感覚になっていた。
・・・しかしこの街にはいつも通りの風が吹き抜けている。
街に吹く風~ミク~
外出してて何となくアイデアが湧いてきて書いたら、かなり危ない感じの作品になってしまった・・・orz
・・・これをボーカロイド全員のシリーズにしたいんですけど、これは書く側の僕もキツいんじゃないか?
シリーズ化したら4作位にまとめたいので、とにかく応援よろしくお願いします!!
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