「うぃーす!お前らなんか静かだなぁ、今日。どした?」
いきなり扉を開けて入ってきたのは、がくぽ。
すでに中にいたミク、リン、レン、メイコ、カイト、ルカ、グミの7人は固まった。
「がっくん……がっくんの方こそ今日どうした……?」
不審そうにカイトががくぽを見る。
それもそのはず。がくぽは本来朝が弱く、9時にミクの家という集まりに反対していたのもがくぽだ。
で、がくぽの為にうるさくしないように7人は努めていたのに、本人がこの大騒ぎだ。
「おぉ?別に俺は普通だぞ。お前らいつも騒々しいぐらいうるさいのに、なんで今日だけやたらに静かなんだ?」
「……がく兄が、朝に弱いからでしょ?」
昔からずっとがくぽの近所に住んでいたグミは、がくぽのことをがく兄と呼ぶクセがついている。
それはグミが17歳、がくぽが24歳になっても変わらない。
「そうか?うん、まぁそうかもな。すまんすまん。で、何するんだ?」
やたらにハイテンションながくぽ。
みんなは顔を見合わせて首を傾げた。
「なんであの人こんなにテンション高いの……?」
「久しぶりにとれた休みだからとか?」
「いや、一週間前にも遊んだよな」
「そういえばそうか……」
「うーん……」
「やたらにテンションが高い……ちょっと、テンションの高さ加減がリンっぽくなってない?」
リンが憤慨する横で、メイコが苦笑いした。
「あれ……中二病かもね」
『中二病がくぽ』の奇怪な行動は一日続いた。
「なぁなぁ、あの茄子、色綺麗じゃね?」
「あ、あの髪飾りすげー!」
「そういえばさー、前腕怪我しちゃってさ。これさ、この包帯、俺、剣士って感じしない?別に剣道で怪我したわけじゃないんだけどさー、あとちょっと切っただけなんだけどさー、包帯ってすげーよな、だって……」
聞かされているのはほぼ、忍耐強いカイト。もう他の人達はどっかに消えている。
がくぽに対して抑制力が大きいため頼みの綱であったグミは、リンとレンとミクがはしゃいでいるのに付き合うので精一杯だし、メイコとルカは愛想をつかしてどっかへ消えた。
さすがのカイトも、だんだんうざったくなってきたらしい。
「……そろそろさ、静かにしない?」
「へ?いやだって一週間ぶりに会ったじゃん。せっかくだからいっぱい話したいよ」
「うん、だから、今聞いてるの俺だけだから。みんなで話せる話題にしない?」
がくぽは寂しそうに俯いた。
「カイトは、俺が嫌いなのか……?」
カイトは言葉に詰まった。
嫌いではない。むしろ好きだ。
そんな寂しそうに俯かれたら強く言えない。
「そういうわけじゃないけど……」
「……けど……?けどなんなんだ……?」
(めんどくせー……)
カイトは口パクで、たまたまこっちを向いたグミに言った。グミがあきれたようにため息をつく。
「ちょっと待ってて、みんな」
グミはリンとレンとミクに言い残し、がくぽの方に歩いていった。
「カイトさん、あの三人の相手してて」
ぼそりとカイトに向かって呟き、がくぽに向き直った。
「はい、がく兄。何?」
「カイトに俺……嫌われたのかな……」
今度はやたらにテンションが低い。
メイコとルカは遠巻きに眺めつつ苦笑している。
「嫌われたわけじゃないって。カイトさんががく兄のこと嫌うわけないじゃないの」
「だって……あんな……カイトに怒られるなんて初めて……」
「がく兄が今変なことをしたからでしょ?」
「俺……カイトと話したかっただけなのに……」
落ち込んでいる姿は、飼い主がいなくなった犬みたいだ。
グミがやれやれとまたため息をつく。
「あ、の、ね。がく兄。人には適量ってもんがあるの。カイトさんだってがく兄と話したいと思うけど、今はがく兄がしゃべってばっかりじゃないの。それじゃカイトさんががく兄のことうざいって思うの当たり前でしょ。わかってる?」
さすが一番の幼なじみ、遠慮がない。
カイトがミクとリンとレンに絡まれながらほっとしたように笑った。
メイコとルカが小さく手を叩く。
「……うざいのかな……」
「うん。すっごいうざい。それ。あからさまに落ち込まれたらこっちだって文句言いにくいのもわかってよ。あたしはいいけど、カイトさんはなまじ優しいから絶対言いにくいよ。」
俯いて、立てた膝に頭をつけたがくぽにグミはざっくりと斬り込んだ。
がくぽが余計に落ち込む。
「……ごめんなさい」
今度はグミが言葉に詰まる番だった。
可愛いとか哀れとか思っているのをかなり頑張って強気に斬り捨てていたらしい。
「わかれば別に……いいけど……言ったこと守ってよ」
がくぽの顔が上がった。ぱっと輝く。
「わかった!グミ大好」
「うわ、キモイうるさい離れろ変態!」
突然抱きついてきたがくぽをグミは大慌てでよけると、カイトに強制的に交代を命じた。
「あれ、あとはカイトさんがどうにかして!」
結局、がくぽのテンションの上がり下がりは酷いまま、一日が終わった。
「「明日も遊べるー?ねえ遊べるー?」」
リンとミクが声を揃えて聞く。
テストも終わって一安心な今、学校が休みだと暇らしい。
「遊ぼ!」
レンがにっこり笑った。
グミが小さく頷く。
「あたしは明日暇だからいいけど」
「私もOKよ」
「私も」
メイコとルカが首を縦に振り、成人男性陣の返事を待った。
「俺はいいけど」
「俺はもちろん大丈夫だ!」
疲れたような表情のカイトと、やはりテンションの高いがくぽ。
「カイトさん、今日はよく寝た方が……」
「カイトお疲れ」
「ご苦労様」
カイトは小さく頷いた。
「グミの大変さがわかった気がする」
「あ、わかった?がく兄もいいことするね、たまには」
グミが冗談めかしてそういうと、みんなも頷いた。
「グミはいつもこれだもんね~」
「大変だね」
グミが笑ったとき、みんなも笑い出した。
結局そのまま笑顔で解散になった。
次の日。
「おはよ……」
朝9時頃、けだるげな顔で現れたがくぽはいつものがくぽで、みんな安心したのであった。
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