「じゃあ、私帰りますね!」
鞄、もとい学校のスクールバッグを肩にかけてそう告げたミクちゃん(ドジっ娘)。
その言葉を聞いて、ルカさんとミクさん(歌姫)は驚いたように目を丸くした。
「そんな! ゆっくりしていけばいいのに! 私同じ初音ミクとしてもっともーっと話したいところだったのに!」
「それにこれと戦うことしかしてないでしょ? 観光案内でもしようと思ってたんだけど…」
「あ、いいんですよ。私偶然こっち来ちゃって、まだあっちで早めにやらなきゃいけないこととか、いろいろありますから。それに…」
一瞬こちらを見て、少しだけ困ったように笑った。
「二人のための旅行ですから。私はまた日を改めて、予定を空けてから楽しみますよ」
「じゃあ…じゃあ、その時は私がこの町を案内するから、きっとまた来てね!」
「もちろんだよ!絶対にまた来るから!」
二人のミクちゃんが指きりをする。
「ね、最後に一つだけお願いしてもいいかな?」
「いいよ!あ、写真撮るの?」
「そう! よくわかったね!」
ルカ姉撮って撮ってーとミクさんがケータイを渡し、二人はとても楽しそうにピースをしていた。
そしてメアドを交換し、我が家のミクちゃんに写真のデータを送って一通りのやりとりは終了したようだ。
「ちょっとだったけどありがとね!楽しかったよ!」
「私も楽しかった! またやろーね!」
「そそそれはちょっと考えておくよ。そうだ、今度来たときには、今日作ったみたいなやつじゃない、比較的簡単にできるgiftの作り方教えてあげる!」
「おー! 楽しみにしてるね!」
…なんだか危険な会話も聞こえるけど。
「ところで帰るにはどうすればいいんですかね?」
「それなら、どっぐちゃんに事情を説明すれば、あとはあの子が帰り道を教えてくれるわよ」
「え?…ああ、さっきのもふもふわんちゃん!そっか、あの子がどっぐちゃんなんですか~」
「あら、もう会っていたの?」
「はい、あっちにいました。じゃあ、いろいろありがとうございました」
指差した方向に歩き出すミクちゃん。
…何かを思い出したのか、足を止めてこちらを振り向く。
「ばいばい!」
軽く手を振った彼女は、私達が手を振るのを見るとまた向き直り、道を歩いて行った。
*
そして再びネルネル・ネルネへ。
「刑事さん、なんでまたこの店に?」
私の疑問をそのままぶつけてくれた神威さん。
「ああ、ちょっと確認したいことがあったのよね」
「確認したいこと、ってさっきのあれか?」
「そ。あなたたちのミクちゃんが来たのには疑問が二つあったでしょ?」
「えっと、どうやって一人で来たか…ですよね?」
「ええ、あれはあの子が究極ドジっ娘で偶然転んで偶然転移PCに吸い込まれて偶然こっち来ちゃっただけだったみたいだけど」
「あと一つって何かありましたっけ…」
「あの子にどうして補正が効かなかったのか、よ」
三人で喋っているとそこにネルさんが少し口を尖らせながら、口を挟んできた。
ここネルさんのお店だもんね。自分が無視されたらそりゃそうなりますよねー。
「それにあの子と同じで、遊びに来てくれたルカちゃん、あなたにも補正は効かなかったらしいでしょ」
「さっきのミク同士のバトルの間に、ネルに調べてもらってたのよ。時空の歪みが起きた原因も伝えて、ね」
「それでさっきまで調べてたんだけど、原因はわかったわよ。二人ともそれぞれの理由があったわ」
机から数枚の紙を手に取り、それを見ながら話し出すネルさん。
「まずルカちゃんね。どうやらシステムがヴォカロ町のルカさんと認識しちゃったみたい」
「「えっ」」
あ、ルカ同士でハモってしまった。
「なんでまた私と?」
「時空転移用PCのコードを調べたんだけど、あのPCはうちのルカさんが一番通ってるから誤認しちゃったみたいね」
「なんてこったい」
「で、ミクちゃんのほうはPCを調べてもあまりはっきりとはわからないんだけど…話を聞くとずいぶんすごい子じゃない」
「確かに、でこピンで時空とかを越えて爆発、とんでもない毒薬を即席で精製する、そして無条件発動のドジ…って、おいまさか…」
ミクちゃんはトップクラスにおかしいのだ。
それを考えると答えは一つである。
「そう。ただでさえすごいスキルがあるのに、その超常スキルが多すぎて、残念ながら人間とは認識されなかったんだと思うわ」
「あいつ…」
「ちょっと可哀相になります…」
「私みたいに、うちのミクと誤認したっていうのはないの?」
「ミクはほとんど転移PCをくぐってないでしょ?」
「じゃあ逆に、なんで俺には補正が効いたんだ?」
そう、そこも気になる。
こう言ってはあれだけど、私が効いたほうがよかったように思う。
神威さんはあっちでも十分強すぎるし。
「それも考えてみたんだけど、先生は戦闘スキルに長けているらしいけど、それはあなたのミクちゃんほど奇奇怪怪なものではなく、全て先生の技量なわけでしょ?」
「まあ、確かにな」
「それにうちにもがくぽはいるけど、あいつはかなりあ荘も転移PCの存在も知らない。そもそもくぐったことがないんだから誤認はありえないわ」
「なるほどな…」
これでほぼ全ての疑問が解決したみたい。
「それで、私の補正はずっと効かないままなんですか?」
「いや、コードにちょっと書き足せば、今度来たとにきにはちゃんと効くはずよ。ルカちゃんは一般人なんだし」
「そうですか。それでミクちゃんは…」
「いろいろぶっ飛んでるからねえ…やってはみるけど、ちょっと難しいかも」
「あれでも一応人間だから、せめて防御のほうだけでも補正が効くようにしてやってくれ。攻撃とかはあれでなんとかなるだろ」
「わかった。今日はまだできないから、あっちであいつやしるるさんと相談しながらなんとかするわ」
あいつって…あ、ターンドッグさんのことだろうか。
「さあてと、仕事に戻りますか…と言いたいところだけど、さっきのヤクザ騒ぎの件もあって、今日はもう仕事がないのよお…」
「たまにはゆっくり休んだらいいのに」
「その台詞そっくりそのままルカさんに返すわよ。それに改造と修理は私の生きがいなのよ! これがなかったら私死んじゃうううう!!」
「…そうだ、そんなネルに頼みたいことがあった。ねえネル、ちょっと作ってほしいものがあるのよね」
「えっ何々何々ルカさんが依頼くれるの!? 今度は何、新しい鞭の改造!? 修理!? はたまた製作!?」
すごい、机にへにゃってなってたネルさんが急に目を輝かせてルカさんに飛びついた!
机飛び越えてたけど大丈夫なのだろうか。
「いや違うんだけど…、ちょっと耳かして」
何かを耳打ちするルカさん。
しばらくして、だんだんネルさんが落ち着いてきた。
「それならすぐ作れるよ。前にも作ったことあるから」
「ありがとう。お願いね」
「いつも以上に真心込めて作るわ。できたらまた連絡するね」
「うん、頼んだわよ」
話を終えて、ネルさんは店の奥へ引っ込んでしまった。
最後に「お二人さん、今度この町に来ることがあれば、またうちにも寄って行ってね」と笑顔で伝えて。
「いいやつだったな。…で?ロシアンはなんでそんなムスっとしてんだよ」
私を含めた全員がはっとしてロシアンさんを見る。
『…あやつと戦えなかったことが不満でな』
「うちのミクのことか?」
『そうだ。あんな奴はなかなかおるまい。吾輩を満足させてくれる戦いができると思ったのだが、すぐに帰って行ったからな』
「でもあいつ補正効いてないから、俺と違って危険だろ」
『ほう、では神威と手合わせ願おうか。今度は本気でやってみるか?』
「勘弁してくれ、そもそも俺はな…」
二人はあーだこーだと話し始めた。
しばらくこちらに目を向けないので、私もルカさんと二人で話すことにした。
「あなたに心配をかけないように必死ね、先生」
「だってあんなに危ないことさせられませんよ」
「もう本当に結婚しちゃえばいいじゃないの」
「なっ…」
さささささらりとすごいことを、ををを!
「そ、そういうルカさんはどうなんですか?ルカさんみたいな人なら恋の一つや二つありそうですけど!」
「えっ私!? そんなの、私は仕事が恋人みたいなものなんだからそんなことは…」
「へー」
ジト目でルカさんを見続ける。
すると一瞬目を逸らすルカさん。
目を逸らした先は、話を続けている神威さんとロシアンさん。
「もしかして…ロシアンさんのこと、好きだったりして♪」
「んなっ!?」
今度はルカさんが赤くなる番だった。
さっきの私もこんな感じだったのか、へー。
「図星なんですね?」
「ちが、ちち違うのよ、別にそんなこと、ああありえるわけが…」
「寿限無言ってみてください」
「ず限無寿限無五劫のしゅり切れ海砂利水魚んの水行末風来末、あっ雲来末風来末、食う寝る処に住む処、藪らこうりの藪こういった舌噛んだえっとあとなんだっけえええええええ」
「いろいろ間違えてますし噛んでますね」
動揺している。
あのルカさんがすごく動揺している。
「違うの違うの!! これはねそういうことじゃなくてね」
「成る程、ルカさんがロシアンさんを…さっきの反応も考えると、片思いですか?」
「えっとだからその…、ううう」
抵抗をやめたようだ…。
「だってどうすればいいのかわかんないんだもん…ここ恋とかしたことないし、しかも人間じゃなくて猫又にしちゃうなんてもう自分でもわかんないのよ…へへ、変…よね?」
「いいえ、どこも変ではありませんよ」
「えっ?」
意外そうな目をしてこちらを見つめるルカさん。
「価値観なんて心を持つ者の数だけあります。各々にはそれぞれの事情もありますし、育った場所や環境も違うはずです」
「う、うん」
「あなたの人生に口を挟むなんて誰もしてはいけないんです。生き方は人それぞれです。例えそれが世間ではどんなに珍しく非難を向けられるようなものであっても、誰も本当にあなたを否定することは出来ないんですよ」
「…!!」
これは私が元々思っていたことである。
「その人がどんな罪や事情を抱えていたにせよ、全員がその人を否定することはできない」。
こんな世の中だからこそ、人を思いやるということを本当の意味で考えなければならない。
目を見開くルカさん。
なんだか今日はいろいろなルカさんが見れたな。
「私はあなたを非難するつもりなんてありません。むしろ応援しますよ。私も巡音ルカの端くれ、同じルカの幸せをどうして否定できるでしょう」
「…えっと」
「それにこう言ってはなんですが、私のほうが恋とかは先輩ですからね。最もそのための勇気なんてほんの一欠けらほどしかありませんけど。でも、相談に乗るとかはできるはずですよ?」
「ルカちゃん…あなた…」
「ちょっと心配なところもありますけど、こんな風に恋愛で悩むルカさん、可愛いですし」
「ちょ、ちょっと!?」
「うふふ」
そういいつつも私だって恋愛なんて手探りだ。
元々気持ちが読めない人を相手に、そう上手く事が運ぶわけがない。
「お互い自分に向けられている好意には鈍いんですかね?…大変ですけど、一緒にがんばっていきましょう」
「…ええ、ありがとうルカちゃん」
私とルカさんはしっかりと手を握り合い、互いの恋愛事情に協力することになったのだ。
「うふふ、ルカさんが片思いか~」
「そういえばルカちゃんと先生では、どちらが先に好きになったの?」
「ふああああああああ!?そ!それ!それは!その!」
…墓穴を掘った気もするけれど。
ヴォカロ町へ遊びに行こう 13【コラボ・ゆ】
いろいろ衝撃ですよね!!!!!
どうもこんばんはゆるりーです。
ほのぼの回ですね。
いやあしかしヴォカロ町のルカさんがこんなに可愛いなんて。
そしてやっぱり我が家のミクさんはぶっ飛んでました。
第12話→http://piapro.jp/t/CYWD
第14話→http://piapro.jp/t/EQGu
投稿:2014/08/08
コメント1
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ご意見・ご感想
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ご意見・ご感想
ゆるりーさん間違ってますよ、うちのミクさんは(歌姫)じゃなくて(超兵器)です←
本編で船を轟沈()した超火力を見たでしょう?ww
多分ネルちゃんはコードを完璧に書き換えるまで徹夜でやっちゃうと思う←
きっと次来たときにはミクちゃん素手でも戦えるようになってるよやったね!(おいやめろ
後ロシアンの口調が4話とかに比べて大分俺の書き方に近づいてきてますな。
次回作が楽しみだ!(あるのか?
う ち の ル カ さ ん は 可 愛 い !!!!!
かっこよさとかわいさと聡明さと狂気が混ざり合ってつまりうちのルカさんは全知全能の神ですねわかります(親馬鹿か
そしてルカちゃんがカリスマぁ……。
ゆるりーさん譲りだなこのカリスマは!
打wwwwwwwwwwwちwwwwwww切wwwwwwwwwるwwwwwwwwwなwwwwwwwwww
2014/08/08 23:12:47
ゆるりー
そうでしたそうでした←
轟沈()させてましたねw
プライドにかけて意地でもやり通しそうですw
我が家の中で最強じゃないですかやだー!((
ロシアンの喋り方はやっぱり難しいです。
ア、アルンジャナイデスカネー
間 違 い な い !
全部混ざってるじゃないですかw
カリスマ?何それ美味しいの?←
そのツッコミを待っていましたwwwwwww
2014/08/12 20:57:10