それは、昔からある話。

『怖い夢を見たときに、夢を食べてくれるバクがいる』

大人は信じなかったが、夢を見たい子供たちは願ったんだ。



「こわいゆめをたべてくれる、ばくにあわせてください」



その願いが、自分にとって悲劇になることも知らずに。


























*























昔からある話

きっと君も聞いたことがあるだろう？



「夢喰い白黒バク」



それは怖い夢を食べてくれるって話さ











え？そんなの信じないって？

近頃の子供はいつもそうだね




でも、信じる信じないは君が決めることだ



さぁ僕は出かけるよ

何をするって？

ふふ、ちょっとしたお仕事をね













どこから来たかはわからない

どんな姿をしているかわからない

目撃されたのかもわからない

みんなみんな、知らない








誰も知りはしないじゃないかって？

はは、そうだね



『怖い夢はみんな食べてくれるバク』



そんな都合のいい話、あるわけないもんねぇ

甘い蜜は多くないんだ















おや?

誰かが呼んでいる






おぉ、これはこれは可愛いお嬢さん

お世辞が上手いって？

僕は、素直な感想を言っただけさ





で?

うんうん

へぇー…怖い夢を見て、眠れないのかい？

そうかい、可哀想に…








あぁ、そうだ

眠れないんならさ、僕が魔法をかけてあげる

…魔法なんて信じない？

またまたぁ

嘘でしょ?

…え？本当に信じないって？

うーん…そこまで言うんならさ、

僕が証明してあげるよ









ていうかあんた誰？不法侵入？

そんなキツイこと言わないでぇ…

あ、無理して寝なくても

…やっぱり眠れないんだね?


大丈夫、僕が怖い夢、やっつけてあげる







ほら、手を出して


僕と、指切りで約束だ





ゆーびきーりげーんまーん





さ、布団に入りなさい

安心して眠っていいよ

心配ないさ

僕が怖い夢、食べてあげるから

丸ごとね








よく眠るには、嫌なことを全部忘れたほうがいいんだ

そう思うでしょ？

…あ、寝ちゃった


はは、ゆっくりお休み























ん?

今度は誰だい?





おやおや、お嬢さん

今日はどうしたんだい？




ん?

またお願いがあるって?

でも二日続きだから悪いって?




いやいや、大丈夫

僕は断らないよ

頼みごとだろう?

それを解決して皆の笑顔を見ることが、

僕の幸せだ







ん?

ちょっと怖いって?

大丈夫、怖い夢は見させない

でも不安?

やれやれ








じゃあ、少しこっち向いてくれるかい？

大丈夫、何もしないよ

怖い夢を見ないようにね


いい夢を見られるよう、キスで約束をしてあげるだけ







素直だね

いい子だ








で、お願いは?

うん、もっとユメを見たいって?

うんうん、大丈夫

いいユメを見させてあげる

僕に任せなよ






幸せを全部、与えてあげる

それも、とびっきりのユメ


幸せに溶けてしまうような、甘い甘いユメだ





さ、安心してお休み

甘い甘いストーリーを、

耽美な淫夢を与えてあげる




心ゆくまで、召し上がれ

僕からのプレゼントだ












今日もお願いがあるって?

ふふ、もっと望めばいいよ

どうせなら、さらけ出すんだ

自分の全て、欲望を





そうすれば、二度と抜け出せないような

底なしのパラダイスだよ


どこまでも堕ちていけばいい

永遠に抜け出せないように












おや、お願いがあるって?

うん、構わないけど…

それはもう、今宵で最後だ


なんで?

うーん…それは、僕もそうだからさ…

ほら…ね？

いつまでも、君が得をするだけじゃぁさ

僕もちょっと…ね?





ほら、もう僕の役目は終わり


これまでのお願い


そのお代を貰うよ





大丈夫、怖がらないで


何も怖いことはしない




どうしようか…


あ、そうだ


君の瞳の奥にある


色鮮やかな夢



それでいいだろう?




じゃぁ全部、ぜーんぶ貰っていくよ









はぁ


なんだい?


瞳の奥が真っ黒だよ?

惨めな顔じゃないか


さっきまでの笑顔が嘘のようだ








でも、これが現実さ


君が選んだんだろう?


君は決意ができてるから、僕を呼んだんだろう?




ユメに溺れてしまったら、

決して夢は敵わないんだ




それを学習したらどうだい?








あなたは誰?

おや、まだ言ってなかったかい?


それは失礼




僕が、『夢喰い白黒バク』だ


僕、最初に言ってなかったっけ?



快楽のような甘い蜜なんかないって




言ってない?


それは失礼








夢を返してって?

それは無理だ




君は、願ってしまった

君のどろどろな願い


それが、君自身を底なしの地獄へ落としたんだ


二度と抜け出せないよ


永遠に、ね













今日もいい景色だねぇ


月が綺麗だ













おや、君はどこのお嬢さんかな?

お願いがある?

いいよ、叶えてあげる



そして、堕ちていけばいいよ


決して抜け出せない悪夢






モノクロの世界へ、ようこそ






君の鮮やかな夢を代償に

どんな夢も見させてあげる







さぁ、今宵はどんな夢が見たい?