3~Fの壁と急展開の日




・・・最近俺が俺じゃないのでは。と思ってならない事がある。

・・・これは洗脳だ、と分かったときにはもう遅かった。



「うぅ~Fコードが弾けないぃ~」

三久がまた根を上げた。

「練習始めてまだ20分・・・お前よぉ、1925に出てくる3番目のコードだぞ」

ちっ、最近の若い奴は・・・。

三久はふくれっ面で弾けるコードとリズムを駆使して弾き語り始めた。

「探し物はなんですか~、あたしそんなものありません~」
「陽水の替え歌歌ってね~でさっさと指をFにしろ」

三久はさらにその場にバーンと倒れ込んだ。

「もう無理ぃ~指痛い」
「ハァ・・・だめだこりゃ」

最近はずっとこうだ、これが数々のプロミュージシャンが経験したというFの壁なのだろう。

俺はあんまそういうの無かったんだけどな。

Fを弾くにはある「発想の転換」が必要なことを知ってたからだ。
それをこいつに伝えようと思ってもなかなか伝わんねぇ。



「そうそう、これ見てよ」

ギターを一旦中断してコーヒーを飲んでいるときに三久が俺に差し出したのは“ウォークマン”だった。

「どうしたん?これ」
「これあげる」

無理無理無理無理!!ピンク色だしなんかデコ装飾してあるし!!!

「いわゆるあたしのお古ね。今は違うの使ってるから、もういらない。あげる」
「う、うん」

・・・後で質屋に入れるか・・・いや、そんな事をしたら殺される。

「あと、そのウォークマンで一番好きな曲を感想文に書いてくること、サボったら今後飯抜きね」



結局反撃できなかった・・・。

という訳で、今駅前の喫茶店でウォークマンを聴いてるなう。

え~っと何の曲が入ってるかな・・・。

1.メルト
2。千本桜

・・・・・・・・・・・・。

「ボーカロイドの曲ばっかじゃねぇーか!!!!」

静かにパソコンで仕事をしていたサラリーマンや、豪勢に昼間からお喋りをしていたマダム達から痛い視線を浴びる。

嫌がらせだ・・・。もう絶対あの家には帰らねえ。絶対。

とはいえ、全否定は良くない。もうボーカロイドの曲に興味を持った以上、聴くしかない。
最後まで責任持つ・・・それが男だ・・・。

〈メ~ルト~溶けてしまいそう~〉

〈教えてダーリン・・・ダーリン・・・ねぇダーリン〉

〈核融合炉にさ~飛び込んでみたいと思う~〉

シャッフルで再生してみて、良いと思った曲はリピートする。

やっぱり脳につっかえるのは、1925だった。
1925が良いと思うと同時に三久との思い出が蘇ってくる。

「あんな横暴に見えて、料理上手いし可愛い所があるんだよな・・・」

顔がニヤけていて、マダム達の冷たい視線&陰口が起きていることは知りもしなかった。

いつの間にか、1925をリピートしまくっていた。



また、道端でギターをかき鳴らす。
時刻は14時、誰も立ち止まってくれない・・・。

三久の言う通り、俺は歌が下手なのだろう。それに人が惹きつけられるようなルックスでもない。

「いくつもの日々を超えて~たどり着いた~今がある~」

と、高音の歌を悲鳴のように歌っていると一人のOLが立ち止まった。

可愛い・・・ってあの子メイコそっくりじゃね?
歌いながら顔をチラチラ見ると確かにメイコそっくりだ。もうメイコにしか見えない。
擬人版メイコである。

俺もかなり毒されてきたな・・・。

「栄光の~架け橋へと~」

曲が終わった。もう途中からコード進行も歌もどうでもよくなってしまった。

メイコはそそくさと帰るかと思ったが、なぜか拍手をしながら俺に近づいてくる。

「うまかった~、もう一曲いいですか?リクエストで!!」
「まぁ、いいけど、知ってる曲なら・・・」

メイコは照れくさそうに曲名を告げた。

「・・・1925で」
「・・・っ!?」

なんで知ってる?あの曲を?

「実はいつもここはランチタイムにお店に通うのに通る道なんです・・・それで・・・」

もう止まらないって感じで頬を染めてメイコは言った。

「毎日見てましたっ!!大好きです!!!」

オワフッ!!!突然の告白!!!!
俺固まっちゃたよ・・・。

「私、鎖芽衣子っていいますっ!!これからもまた見に来ます!!!」

本当にメイコちゃんなんだぁーーーーなんという偶然!!



結局封じてた1925を歌った・・・。メイコちゃんのために・・・。



夕方。

すっごく罪悪感を持ちつつ、メイコちゃん可愛かったな、なんて思いながらとぼとぼ帰路についた。
あの時舞い上がってたけど、なんか複雑すぎて・・・。うーん。

地に足がついてないというのは本当はこの事を指す言葉じゃないのだろうか・・・足がふわふわしている。

でも心は錨を落とされたように重かった。

アパートの前に着く。

「嫌だな・・・なんか・・・」

一旦深呼吸をしてから、ドアノブを開ける。

「ただいま・・・」

中の様子を見て俺は驚きを隠せなかった。

「あぁおが、っく、えりぃ、ひっ」

三久が泣いていた。普段泣かなそうな奴が・・・。

「ど、どした?」
「レンくぅ~ん!!うっ、っ」

三久が俺に抱きついてきた。

始めてあんたとかじゃなくて名前を呼ばれたことも気にせず、抱き寄せる。

三久はもう喋れないほどの嗚咽を漏らしていた。



罪悪感とどうしたらいいのか考えが追いつかない迷いが、心を走り抜ける・・・。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

1925から始まるストーリー~その3~

ここまでこの妄想劇にお付き合いいただきありがとうございます。

今回は衝撃回。物語がどんどん広がってく所です。
新キャラ、メイコの登場。そしてなぜ、三久が泣いていたのか。
そして、三久はFコードを覚えて最終的に1925を弾くことができるのか!?

お楽しみに・・・そして今後もこの妄想劇に付き合っていただけると嬉しいです。

この作品へのご意見ご感想喜んでお待ちしております!!

1925から始まるストーリー
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投稿日:2012/09/11 05:17:17

文字数:2,272文字

カテゴリ:小説

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