レンが旅行先で怪我をして病院に連れて行った時、レンの治療が終わるのを待っている中、ミクは医者に呼ばれた。レンの治療の方はリンに任せ、ミクはネルと共に医者の後を着いていった。そして、呼ばれた所は、診察所。医者は己の定位置の椅子に座り、ミクが患者用の椅子に座り、ネルはその横で立っていた。
そして、刹那の沈黙の後、医者が口を開いた。
「鏡音君ですが・・・、あの子は、前にも事故に遭ってますね? それもかなり大きな事故」
ミクとネルは静かに頷く。別に隠す必要は無い。相手が医者ならば、尚の事だ。
「そして、その時に負った傷の後遺症の事なのですが・・・」
つらつらと医者が話していく中、ミクの耳には医者の言葉は何一つとして、入ってきてなかった。
あぁ、もうそんな昔なんだっけ。ミクは沸々と湧き上がってくる記憶に浸っていった。
懐かしいな、レン君が感情を感じ難くなってから、もう七年になるんだ。
あの日、私とネルちゃんは剣道の稽古の帰り道だった。其処で、仲良く手を繋いで楽しそうに笑っているリンちゃんとレン君に出会ったんだ。なにしに行くの、て聞いたら二人は楽しそうに、本当に楽しそうに、隣町の公園に、て声を揃えて言ってたっけ。その様子が楽しそうだったから私とネルちゃんも二人について行く事にしたんだっけか。
そして始めたのは鬼ごっこ。じゃんけんで鬼決めして、レン君が鬼になって。数を数え始めたから、私とネルちゃんも逃げようと思ったら、不意にレン君が数を数えるのを止めて、私達を呼んだんだ。そして、こう言った。
「何か・・・やな予感がするんだ・・・」
最初、私達はそれが信じられなかった。でも、レン君がリンちゃんを見つけて、でもレン君は追い駆けなかったのに、リンちゃんは道路の方に飛び出して行って、そして、そして、トラックが迫って、大声を上げたけど、間に合う訳がなくて、でも、そしたら、レン君が、レン君が、走って、走って、リンちゃんを突き飛ばして、そのまま、トラックは止まらないまま、ブレーキが間に合わなくて、そのまま、レン君は、レン君は―――・・・
「ミクちゃん・・・だっけか? ちょっと・・・来てくれないかな?」
大怪我を負ったレン君が救急車で運ばれ、手術も無事に終わった後、私はお医者さんに呼ばれた。呼ばれた理由は、この中で私が年上だったから。レン君のご両親はもうこの時から海外に出張してたから。私だけじゃ不安だったから、物分りの良いネルちゃんにも来て貰った。レン君は、リンちゃんに任せて。
お医者さんは子供の私達に合わせて、とてもゆっくりと歩いてくれた。そして案内されたのは、今いる場所みたいな診察所。お医者さんがどっかりと自分の椅子に座った後、私は不安で一杯になりながら、患者用の椅子に座った。ぶらぶらとぶら下がってる自分の足を見て、凄く情けない気持になったのを、今でも覚えている。
「レン君は、大丈夫だよ。あの事故の割には対した後遺症も残らずに、怪我も治るだろう」
少し、悲しげな表情でお医者さんは言った。だから、この先続く言葉はきっと良くない事なのだろうと、当時九歳の私でも分かった。
「ミクちゃん、ネルちゃん、感情って、分かるかな?」
不意に、お医者さんは私達にそう尋ねた。私は如何応えて良いのか分からずにいるとネルちゃんは
「楽しいとか、悲しいとか、そういう事ですよね。感情って」
と言うとお医者さんはコクリと頷いた。
「そう。楽しい、悲しい、寂しい、嬉しい・・・・・・。他にも感情には色々な種類がある。感情はとても難しいものだ。だから、君達には少し難しいかも知れないけど・・・でも、何れ分かる事だからね。・・・・・・・・・レン君はね、
事故の所為で、感情を理解出来なくなってしまったんだよ。」
一瞬、何を言われたのか全く分からなかった。でも、何か大変な事なんだろう、て事だけは分かったので、私はネルちゃんの方を見た。ネルちゃんは、信じられない、と言う顔をしたまま、私の方を見た後、お医者さんの方を向いた。
「それって・・・レンに感情が無くなった、て事ですか?」
「いや、違う。感情は無くなってない。けれどね、自分の感情や、他の人の感情が分かり辛くなってしまった、て事だよ。有体に言えば、鈍感になった、て考えてくれた方が良いな」
お医者さんはそう言うと、頭を掻きながら「あー、もっと他の譬えにすれば良かったかなぁ・・・」と呟いていたが、今なら言える。
お医者さん、その説明で大丈夫でしたよ。
「・・・その、それって・・・治るんですか? レンは・・・その・・・感情を理解出来る様になるんですか?」
絞り出すような声でネルちゃんは言った。お医者さんはうーん、と考えた後、
「治る、と思う。でも、これは私達に治せるモノでは無いんだ。ミクちゃんにネルちゃん、そして、リンちゃん。周りの人の力が必要になる」
「力・・・」
「君達なら出来るよ」
ニッコリと、優しげな笑顔を私達に向け、お医者さんはそう言った。
「大丈夫だ、レン君を信じてあげなさい。それが、一番最初の道だからね」
お医者さんの話が終わって、リンちゃんの下に帰ろうとした時、私は不意に立ち止まった。
「ミク・・・?」
心配そうに、ネルちゃんは私の肩を叩く。それで私はネルちゃんの方を見た。きっと、寂しそうな笑顔をしてただろうな。
「私って、弱いね。リンちゃんがトラックに轢かれそうになった時、私、何も出来なかった」
「・・・っ! だってそれは!」
「レン君は、自分の身を顧みずにリンちゃんを助けたのにね。情けない。何で・・・っ、何で私はこんなに弱いんだろう!」
ゴンッ! と思い切り病院の壁を拳で殴った。パラリ、と壁の欠片が落ちたけど、気にしない。だって、過去の事だもの。
「ミク・・・」
「ネルちゃん」
下げていた顔を上げ、私はネルちゃんを見た。
「私、強くなる。絶対絶対、強くなる。リンちゃんもレン君もネルちゃんも、もう誰も傷付けさせない。私が護ってみせる。私が、護る」
ハッキリと、そしてキッパリとした口調で私はネルちゃんに宣言した。最初、ネルちゃんは呆然としていたけれど、不意に フ、と口元を綻ばせ、
「なら、私も強くなる」
と言った。
「え・・・?」
「お前はリンとレン、そして、私を護るんだろ? 護りたいんだろ? なら、お前は誰が護るんだよ」
「そ、それは私が自分を・・・」
「そうやって、何時も自分ばっかり、責任を背負おうとする。たまには頼れ」
ハァ、と溜息をついた後、ネルちゃんは私を見据えたまま、こう言った。
「お前は、私が護る。そしてリンとレンもお前が護りきれなかった時、護ってやる。自分の身は、自分で何とかするさ」
「ネルちゃん・・・」
私は少しの間、呆然とした眼差しでネルちゃんを見ていた。そして、その後、フ、と口元を綻ばせると、
「ありがとう」
と言った。
それから、私達は剣道を今までよりも頑張るようになった。練習量も倍以上に増やして、誰よりも、練習して。そしたら、何時の間にか“殺しの初音”なんてあだ名が付いてたりして。ネルちゃんはその二刀流の構えから“双頭の亞北”て呼ばれるようになったけど。
・・・レン君が感情に鈍くなったのは、如何やら本当の様だった。今までは分かってた事も、分からなくなってたし、あからさまにレン君に好意を抱いている麗羅ちゃんの気持にすら気付かない位だもの。
「・・・・・・・・・・・・と、言う事です」
不意に耳に入ってきた医者の声にミクはハッとした。横ではネルがハァ、と溜息を付いていた。因みに今のは「離し聞いてろよ、馬鹿」と言う意味が込められている。
「つまり・・・、レンの感情涸渇状態が・・・治ってる、て事ですか?」
「まぁ、有体に言いますと、そんな感じですね。頭を殴られた事で何かしらの衝撃が脳に与えられ、その様な事になった・・・と言う所でしょうか・・・。いや、人間と言うのは医者をやってる私達でも分からない事が多くてですね、危篤状態で、手術をしても治らないだろう、今夜がヤマだろうと思われる患者さんが奇跡的に生き残るケースもあったりしますからねぇ・・・」
あ、お話の方は以上ですので、もう戻ってもいいですよ。それでは、お大事に。
「・・・別に私達が怪我した訳じゃ、無いけどねぇ」
うん、と伸びをしながらミクは言った。ま、そうだが・・・と呟いた後、ネルは暫く黙りこくっていた。
「うん? 如何かしたの? ネルちゃん」
「いや、別に。対した事ではないのだが・・・」
そう言いながらもネルは何か言いたげな表情をしている。
「んもう、何? 言うなら言っちゃってよ。ネルちゃんらしくないよぉ、そんなの」
痺れを切らしたミクがズイ、とネルの方に顔を近づけた。その様子にネルは勘弁したらしくハァ、と溜息を付いた後、「退け」とミクの顔をグイ、と遠ざけた。
「あのな、レンの事だが・・・」
「あぁ、レン君の事ね。それが如何かしたの?」
「リンに言うか? この事」
リンの名がネルの口から出てくると、ミクの表情がピシリ、と凍った。
あー、とか うー、とか言う変な言葉を発した後、ミクは真顔になり、
「言わない方が良いと思う。だって、前の事故の時にも言わなかったし。まぁ、その時は私が子供だった、て事もあるけど。・・・今も子供だけどね」
ハハ、と少し寂しげな笑みを浮かべた後、ミクは直ぐに表情を元に戻し、
「なら、直ぐにリンちゃんとレン君所に戻らないと。リンちゃんも心配してるだろうし」
と言ってネルの腕を引っ張った。その様子にネルはやや驚いた表情をしていたが、フ、とそれを綻ばせ、
「あぁ」
と言った。
言わないよ、絶対に (学パロ 番外編・・・?)
番外編です。でも結構重要なキーパーソン(?)がチラホラと・・・。
今日は文化祭でした。東京の外れの方、つかぶっちゃけ田舎の方の高校でイラスト部のブースに置いてある部誌で大抵ボカロ描いてて、その部誌の表紙&裏表紙を「鎌を持てない死神の話」のキャラにしてて、P.Nが「Lunar」の人がいたらそれは間違いなく私です。絵が下手でごめんなさい・・・orz
兎に角ここでは前々から書きたかったレンの彼是が書けて満足です。
それでは、読んで頂き有難う御座いました!
コメント0
関連する動画0
オススメ作品
6.
出来損ない。落ちこぼれ。無能。
無遠慮に向けられる失望の目。遠くから聞こえてくる嘲笑。それらに対して何の抵抗もできない自分自身の無力感。
小さい頃の思い出は、真っ暗で冷たいばかりだ。
大道芸人や手品師たちが集まる街の広場で、私は毎日歌っていた。
だけど、誰も私の歌なんて聞いてくれなかった。
「...オズと恋するミュータント(後篇)

時給310円
犬がそこにいるだけで 荒れた心が安らぐ
モフモフの毛なでれば気分が落ち着く 大事な友達
犬のきみは いつもモフモフかわいいから
私の人生は 楽しく過ごせる
外で遊ぶ時も どこだってついてく
迷子になりかけても おうちに案内
一人歩きが怖いとこでも きみがいれば平気
人に言えない本音も全部 きみになら...犬とモフモフ

狼と仲良くなりたい熊
AMに 切り替わるときが スイッチ
月明かりのsleepyなキッチン
ふと会いたくなる sweetie
永遠に 意味があるのにな 不意に
表裏の 言動の不一致
一瞬でも良いという口
可視化されていく あの映像
綺麗な 枯れ色 パレード
カレイドスコープみたいだった
目眩く後悔だった...夜長

かしこ。
ゆれる街灯 篠突く雨
振れる感情 感覚のテレパス
迷子のふたりはコンタクト
ココロは 恋を知りました
タイトロープ ツギハギの制服
重度のディスコミュニケーション
眼光 赤色にキラキラ
ナニカが起こる胸騒ぎ
エイリアン わたしエイリアン
あなたの心を惑わせる...エイリアンエイリアン(歌詞)

ナユタン星人
独り悴んでいる左手を
握りしめてたくて
そんな夢現だってもう
心の中へ綴じ込んでしまうの
揺れる感覚混んだ停留所
環状線なぞっているの
心音、君を待った焦燥
ぶつかり合うフロストの音
笑っていたいと思いながら
硝子窓は曇りだして...Frost Breath

いーぜる
星は歌を歌っている
宇宙に向かって放つ
どれだけの等級なら届くかな
誰かに気付いて欲しくて
燃え盛るように飛んでいく
まるで僕たちは流れ星みたいだ
ペルセウスの逸話も
双子の物語も
どれだけの心を照らしただろう
それに比べ僕たちが...tellwalk 『僕たちは流星だったんだ』feat. 初音ミク(歌詞)

tellwalk
クリップボードにコピーしました
ご意見・ご感想