起きると、外は雨が降っていた。
 こもった雨音は不規則なリズムを刻み、耳にしみ込んでいく。


「やだ。今日に限って雨なんて」


 乱れたシーツから身体を起こし、呟いてみる。今日は朝から出張だって言うのに、これでは身が入らないではないか。

 そんなことを思いつつ、まあ、実はまんざらでもなかったりする。



 あなたが雨が好きだと言ったのは、木枯らしが舞い、天候が崩れることも滅多にない冬の日だった。


 大して興味もなくって、何となくどうして、と聞いたら、あなたは答えたわよね。


「当然。雨音が、隠してくれるだろう?」


 私はそれ以上聞かずに、ただ黙って煙草の煙をくゆらせた。


 あなたが隠したいもの。それを私は知っていた。だから聞かなかったの。


 それなりにお互いの懐は見ているけど、それを巡って話し合ったり、諍いを起こすほどじゃない。私たちの仲は、そんなぬるま湯のような関係。


 もう、ここにあなたはいないけど。


 キャミソール一枚に薄いカーディガンを羽織って、光を遮っていたカーテンを開ける。案の定、歩道は水浸し。


 勿論、ここからあなたは見えない。


 あなたに会いたいなんて、今更思わない。罪に囚われた哀れな男をかまってあげるほど、私はお人好しじゃないし、残酷でもない。


 精一杯の愛情表現。俺が壊れたらどうか捨ててくれ……私はその言葉を守っただけ。


 雨音は、罪の重さを隠してくれる。
 それに押し潰されて泣く哀れな罪人の、悲鳴を掻き消してくれる。

 けれど、それも所詮は偽装。上乗せ。塗りつぶしに過ぎない。



 今日もどこかであなたは、安堵しているのでしょうね。
 ああ、雨が降ってくれた。全てを、覆い隠してくれるって。


 私はもう、その横で、返事をしてあげることも出来ない。
 そうね、良かったじゃないって、ベッドの上で笑ってあげることも出来ない。


 これは、あなたが望んだこと。
 私は、本当は、ほんの少し、もう少しだけ、傍にいたかったけど。
 でも、あなたの願いなら、それしかできることはないと思った。


 これでいいわ。
 口の中で呟く言葉は、音になって出ることはないけれど。





 灰色の東京は、雨に紛れて白く歪み。

 その端っこで、あなたはまた泣いているのだろう。

 もう幾度目か分からなくなるほど、叫び続けているのだろう。


 私はその、反対側の端っこで、カーテンの向こうを見つめるしか、

 乱れたシーツに混ざるようにくるまって、煙草を吸いながら、

 眉をひそめて、ただひたすら、


 あなたの罪が隠れるように、
 あなたの泣き声が掻き消えるように、
 あなたの乾きが潤うように、


 雨が激しく降ることを、

 重く、沈むほどに注ぐことを、

 願い続けるしかないのだ。望むことしか出来ないのだ。






 雨雨雨ヨ、モット降レ。

 愛シキ人ノ、束ノ間ノ安寧ヲ願ッテ。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

随分前に書いたブツです。

しかしミクが煙草吸う設定って良いんでしょうか。
でも格好良いかも。だれか絵描いてくれないかな。

閲覧数:88

投稿日:2011/04/08 17:29:49

文字数:1,245文字

カテゴリ:小説

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