第六十九話 還

 もう一度眼をあけると、そこには懐かしい面々がそろっていた。
最初に目に入ったのは、親友、メイコだった。

 そして、グミ、カイト、レン。

 みんな心配そうに私を見ていた。

 「よかった、目を覚ましたのね」
メイコが涙ながらにこう言った。

 「無茶しすぎだぜまったく、もう若くねぇんだから」
カイトが憎まれ口をたたいた。

 「ここは魔界ですよ、ルカ様。あれからずっと眠っておいででしたので、記憶がまだ曖昧なんです」
グミがにっこり笑った。

 「もう、大丈夫です」
レンは、何かを隠したように微笑んだ。


 みんな、暖かい笑顔だ。
でも何かが足りないと感じてしまう。
思い出せなかったものが、蘇ってくる。

 暗闇な中で顔すら思い出せなかったこの4人をすぐに思い出すことができた。

 今私の傍にいないのは、ただ一人。



 「そう……還って、来たのね……」



 愛しい人との思い出が残るあの世界から。
私を守ってくれたあの人がいた素晴らしい世界から。


 わが子を――おいて。



 「ルカ……でもね、あのままではあなたは死んでいたわ。これはみんなで――おりんも一緒に、決めたことなの」



 わかっている。


 でも、それでも、それでも―――。




 ≪魔界≫の掟も何もかも裏切って≪人間界≫に留まっていたのに、還って来られただけで感謝すべきだ。




 胸の奥から何かが溢れだし、それが涙となって止まってくれない。





 私は嗚咽をこらえて、しばらくの間、皆の前で泣き続けた。










 *




 それがもう、3年も前のことだなんて信じられない。
私はこの世界で何不自由なく暮らせている。
それはメイコの手配によってだけれど。

 もう、戻れない。

 わかっているけど、それでも。






 こんな雪を見ると、ふと立ち止まってしまう。







 愛しいわが子を、思い出してしまう。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

ノンブラッディ

閲覧数:101

投稿日:2013/05/03 08:36:36

文字数:834文字

カテゴリ:小説

  • コメント1

  • 関連動画0

  • しるる

    しるる

    ご意見・ご感想

    リンちゃんは、ルカさんのことも覚えてないんだよね?

    やはり、自分の腹を痛めた子じゃなくても、辛いものなんだろうなぁ…

    2013/05/04 13:42:06

    • イズミ草

      イズミ草

      そうですね、おりんちゃんは人間ですから……
      多分辛いと思います
      わが子同然ですから……

      2013/05/04 18:23:01

オススメ作品

クリップボードにコピーしました