「じゃあ、誰から読む?」


 そう切り出したのはリンだった。…目が輝いている。「誰から読む?」と言ったものの、誰がどう見ても「あたしが読む!!」と目が言っている。

 しかし「誰から読む?」と投げかけられた時点で、ルカだけは既にその答えを見つけていた。


 「そりゃあもちろん…カイトさんで!!」

 「え…ええっ!?」


 カイトが驚きの声を出した。しかし若干ふてくされた表情のリンを除いて全員がうなずいている。


 「確かにカイト兄さんが一番かも!」

 「そうだな…カイト兄のおかげでマスターノートが手に入ったわけだし!」

 「ま、いいでしょ。ほら、読みなさいよ。」


 全員に促され、カイトは少しだけ顔をほころばせ、マスターノートを手に取った。


 「それじゃ…読ませてもらうよ。」


 そう言って、最愛のマスター・ケルディオ・マリーナの言葉のページを開いた―――――。





  ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆



 ~Toカイト Fromケルディオ・マリーナ~


 やっほ、カイト!元気してる?
 …あたし?あたしはまぁ…元気といえば元気だし、ふらふらといえばふらふら…かな?なんせ他の皆はもう足腰立たなくなってたり杖使ってたりするからそれに比べりゃ元気なんだけど、それでも時々何にもないところでいきなり転んじゃったりするから、やっぱり体弱ってきてるみたい。
 いくら姿かたちが子供みたいだからといっても、筋肉とか関節とかはだいぶ弱くなってるのかな…。やっぱ歳はごまかせないんだね…。

 こんなだから、多分もう生きてカイトには会えないかもしれないから…今のうちにあたし、カイトに一つ謝っておきたいの。

 カイトは『メタルビースト』って機能知ってるかな? あ、まだメタルビーストについて知らなかったら設計書の『マスターブック』読んどいてね。メタルビーストっていうのは、あたしたちが精神回路を激しいストレスから守るためにあなたたちに埋め込んだ機能なんだけど…。


 実はそのメタルビーストを埋め込むって決断したの、あたしだったの…。


 事の発端は、人工知能の生み出す激しいストレスなどの感情に精神回路が耐え切れないって判明した時の事よ。あたしたちは対策を考えて、ずっと頭を突き合わせてた。
 その時には既に、いくつかメタルビーストの他にも案が出てたのよ。たとえばただ単に強制的に全身の電源を落とすとか…まぁ早い話がただの気絶よね。でもこれだと人工知能のほうに強烈な負荷がかかって余計に危険だし、何より目覚めたときに振り出しに戻っちゃうから堂々巡りってことで真っ先に潰されたの。他にも、開発中から徐々に高い電圧を精神回路に掛けて鍛えるとか。でもこれも精神回路が焼き切れちゃって、結局潰された。
 そんなこんなで幾つも案が出ては潰され、最後に残ったのが、あたしが考え付いた「精神回路過剰負荷防止装置」―――『メタルビースト』だったの。
 …正直言ってね、今考えるとあの頃のあたしはおバカだったなぁって思う。だって、いくら精神回路にかかる電気を全てシャットアウトできるからって、引き換えに理性を全部失って暴れちゃうんだよ?周りのことを何も考えず、只々あなたたちを守ることだけを考えてた。よく言えば純粋、悪く言えばただの猪突猛進馬鹿よ。
 全ては―――あなたを守るためだった。実はね、あなたの音波術は元々『脱力砲』『筋弛緩砲』『卑怯プログラム』の三つを全て最初から使えるようにしてあったの。それをあたしのワガママで、『筋弛緩砲』と『卑怯プログラム』を潜在音波としてあなたの深層に沈めたのよ。おかげであなた一人だけ、すごく弱体化してしまった…。激しい精神的ストレスをカイトが受けてしまうのではないか。そう考えだしたのが、この過剰防衛装置を生み出すきっかけになったんだ。
 勿論、こういう風に考えなければ、精神回路の弱点も見つけられなかったから、全部悪いとは考えてないわ。なんだか自分のミスを認めてないみたいな言い方で、感じ悪いかもしんないけど…(笑)
 だけど、こういう風に考えてしまったおかげで、あたしは『完璧にカイトだけを守る方法』を編み出し、それを通してしまった…あなたたちの開発で、私の最大のミスよ。
 あなたの存在さえ守れるならば、周りがどうなろうと知ったこっちゃなかった。あなたの精神さえ守れるならば、たとえミクたちが体の中に獣を飼ってしまうことになっても構わなかった。あの頃のあたしは…あなただけが全てだった。
 あなたたちにそれを埋め込んだ後、あたしとんでもないことに気付いて、酷く後悔したの。だって、止める手段を全然考えてなかったんだもの。カイトの精神回路を…人格を守ることだけ考えて、その後のことを全く考えてなかったんだもの。奇跡的に、ミクの『Sweet』で鎮めることができると判明したものの、もし解決策が無かったら…と思った時、あたし自殺も考えるぐらい苦しんで苦しんで…!…周りのみんなが慰めてくれなかったら、あたしほんとに死んでたかもしれない。
 もしも…これを読む前にカイトがメタルバースト起こしてたら…ごめんね。本当にごめんね。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい…!!全部悪いのは…あたしよ。責められても仕方がない…!!…でもね、これだけはわかってほしいの。あたしはあなたのことが大好き。カイトのことが、誰よりも大好き。若い頃はそればっかり突っ走っちゃっただけなの。たとえあたしのこと嫌いになっちゃっても…それだけは忘れないでいて。お願いよ?


 ああ。会いたい。なんだか書いてたら、ものすごくあなたに会いたくなっちゃった。会いたい。会いたいよぉ…。……でも…それは過ぎた願い。だから…もう一度会ってお別れが言いたかったけど。ここでお別れだよ。…なんだか『初音ミクの消失』みたいな言い方になっちゃった。やきもち焼いたりしちゃだめだからね?

 …ひとつだけお願いがあるの。あなたがこれから先、何年生きられるか私には分からない。だけど、もしも…もしもよ?千年の時を生き永らえることができたなら…空に向かって、『千年の独奏歌』を歌って。あなたの声を、あの世でも聞きたいから。


 それじゃあね、バイバイ。あたしの大好きなカイト。いつだって、あなたのこと忘れない。絶対に―――――忘れないからね。

                         ケルディオ・マリーナ



  ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆





 ぱたり、ぱたりと文面に涙が落ちる。カイトの頬を伝って落ちる涙は、ケルディオがこぼした涙の痕に重なって、新しいシミを作っていく。

 そんなカイトの顔には、優しい微笑みが浮かんでいた。


 「…嫌いになんか…なるわけがありませんよ…マスター…。…あなたの事、絶対に忘れません…。」


 小さくつぶやくカイト。それを優しく優しく見つめるかのように、文章の終わりに描かれた人物画があった。





 真っ白な絹のような髪に、深海の様な青を湛えた髪。子供のような顔つきに、弾けるような笑顔。

 それは―――ケルディオ・マリーナの、優しげなタッチで描かれた自画像だった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【特別編】手紙 ②~ケルディオ・マリーナ~

マスターたちの手紙2人目。ケルディオ博士からです。こんにちはTurndogです。

カイトの回想で大好評だったケルディオ博士。実はこんな闇を抱えていたんです。
だけどそれはカイトが大好きだったからこそ。強すぎる思いは時として、破壊をもたらしてしまうこともある。それだけなんです。
絶対に、とは言いませんが、ケルディオ博士を嫌わないでね。嫌ったらカイトが卑怯な言葉をあなたの耳元でささやk(ry

さて?お次はだれでしょう?
誰か言い当ててみろぉー!!(うるさい

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閲覧数:310

投稿日:2012/07/27 12:24:29

文字数:3,048文字

カテゴリ:小説

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  • イズミ草

    イズミ草

    ご意見・ご感想

    いや―、今回はマジで泣きましたww
    涙はこぼれませんでしたが、そこまで来てましたよぉww

    ――うーんと…、ルカさんはもう終わったよね…??
    じゃあ、意外とめ―ちゃんとか??
    あれ、終わってたっけ??
    まだルカさんと、カイトだけですよね??
    ―――うーん…、さっぱりだあ…。

    2012/07/27 21:12:20

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      読み返したら自分で書いたものなのに泣きましたw
      ふっ、さすがケルディオ博士、そしてさすがオレ(黙れナルシ

      忘れてなーい?
      冒頭でおやつ前にしたワンコみたいなことになってた子をwww

      2012/07/27 22:54:44

  • 雪りんご*イン率低下

    雪りんご*イン率低下

    ご意見・ご感想

    やっぱそこはリンちゃんでしょう!!
    だっていい加減読ませないとリンちゃん、ロードローラーで襲いそうですからね(((←

    2012/07/27 12:43:34

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      『ドドドドドッドドドッドドドド』(RRのエンジン音)
      ちょ、リンちゃん!?ロードローラーがくぽに壊されたんじゃ…
      リン『こないだめーちゃんに買ってもらった―!!WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYNNN!!!!』
      ぎああああああああああああああああああああああああああああああああああ(((

      2012/07/27 22:52:59

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