「ここは、確か商店街だっけか……」

俺の視界には、様々な店が建ち並び、人やボーカロイドが騒々しく行き交う光景が映っていた。
なんでピアプロの敷地内にこんなものがあるかといえば、ピアプロの敷地が広がるにつれて仕事が忙しくて外までろくに出かけられない人やボカロ達が増え、ならいっそ中に店を作らせてしまおうという話になったのがきっかけだったらしい。

「だとしても、総合デパートとかにしちまった方が楽だと思うんだがなぁ……」

「ドラマの撮影とかでセット代わりに使おうって魂胆があるのよ。実際何度か使われてるし」

まあ、私もまとめちゃった方が楽だと思うけど、と、雑音は呟く。

「なるほど、それなら確かにいちいち敷地外に出て撮影を行う必要もなくなって一石二鳥な訳か……ってぐぼはぁ!?」

考え事に没頭していた俺の身体を、突如何かが吹き飛ばした。なんて言うかデジャヴ。

「畜生……流石に1日に三回はないって思ってたんだがなぁ……」

「いてて……どこ見てんだよ!」

「ふざけんな、突っ込んできたのはどっちだ……ってお前は!?」

俺に突っ込んできた野郎の顔を見てやろうと立ち上がると、そこにはついさっき出会ったバイオレンス少女によく似たガキが立っていた。

「今度は鏡音レンか……今日は妙に有名人によく会う日ね……ってしまった」

気づいて雑音が口を閉じるが、鏡音レンはその呟きを聞き逃さなかった。

「まさかお前ら、リンに会ったのか!?」

途端にレンは質問モードに入る。

「いいいいやいやそそそんなわけないじゃない!」

「雑音、意外にお前嘘つけないタイプ?」

珍しく慌てる雑音に俺が突っ込みをいれていると、レンが強引に会話に割り込んだ。

「要するに、あんたら知ってるんだな?」

「……ああ、見たね。ついさっき会った所だ」

「ちょっ、予想以上にあっさりバラすわねあんた」

諦めて正直に話した俺を、雑音が「うわぁ……」という感じの表情で見た。ボロを出したお前が俺を非難するな。

「そうか!どこにいたんだ!?全くリンの奴め、オレの楽しみにしていたバナナを食べやがって……」

「そんな理由かよ……」

一気に脱力した。その程度の事を聞き出すために俺は顔面にビンタ喰らったのか。

「そんな理由とはなんだ!一本700円もする最高級バナナなんだぞ!!」

「あーわかるわかる。バナナうまいよなー」

「くっそー、馬鹿にしやがって……さっさとあいつの居場所を教えてくれよ!」

「さっきぶつかった事を詫びたら考えてやる」

「シグ……あんたあんだけカッコ付けてた癖に……」

雑音が呆れたように言った。うるせえ、考えあってのことだ。
それに、さっきのはどう考えても奴に非があるしな。

「……わかったよ。さっきのは、悪かった」

レンは思ってたよりあっさり頭を下げた。畜生鏡音め、両方とも素直ないい子じゃないか。暴力的な所を覗けば。

「よし、いいだろう。ただし俺はあいつの居場所を見なかった事になっていてな……」

「つまり、なんだよ?」

「いや、黄色い髪をしていてみかんが大好きな女の子なら、どっかあっちの方で見かけた気がするって事さ」

そう言って、俺はニヤニヤ笑いを浮かべながら、適当な方角を指差した。

「……なるほどね。サンキュー!」

俺の意図を理解……いや誤解してレンは走り去っていった。

「ああ、頑張れよー!……いもしないリンを探してな。くくく……」

レンが見えなくなったのを確認してから、俺はしめしめと呟いた。
笑いがこみ上げてくる。ああ、なんて楽しいんだ!純真なガキを言葉巧みに騙すのは!

「……」

「おや雑音くん、俺の意図が理解できず困惑しているのかな?ならば教えてあげよう!レンには嘘の居場所を教えた訳だが、あいつが今度もしリンが見つからなかった事で抗議するような事があっても、俺は一言『リンの居場所を教えるとは言っていない』と言うだけでいい!黄色い髪でみかん好きな女の子も、俺が指差した方角をひたすら探せばいるんじゃないのか?地球の反対側くらいにな!クックックック……ハーハッハッハッハッハ!!」

いやあ、我ながら汚い!一流の詐欺師は嘘をつかないのだよレン君!ハッハッハッハッハッハ!!

「……楽しそうな所悪いんだけど、あんたが指した先に野外ライブ会場の屋根が見えるのは気のせいかしら?」

ハーハッハッ……ハァ!?

「そ、そういえば……!しまったあ!!」

だ、だが言い逃れは出来る!リンに対して!!

「あんた救いようがないわよね……」

絶対零度の眼差しを向ける雑音の遥か後ろから、リンの、裏切りものおおおおお!!という叫び声が聞こえた気がした。

◆◆◆

その後、他にも色々な場所を回った俺たちは、一つの建物の前に来ていた。辺りはすっかり暗くなってきている。

「さて、これで最後ね」

「なんなんだ、この施設は?」

珍しく俺の知識にない建物だったので、俺は外観から判断しようと試みた。
比較的大きい部類に入る建物だ。だが、特に凝ったデザインになっている訳でもない。言うなれば特徴が無い。

「まあ、それは入って見てからのお楽しみって所よ」

「なんだよ、渋りやがって……ってうわ眩しっ」

俺が扉を開くと、中から強烈な光が漏れ出した。
そして、次第に慣れてきた俺の目に映ったのは……

「な、なんて数だ……」

沢山の亜種ボーカロイド達が集まり、わいわいがやがやと騒ぎあっている光景だった。男性タイプも女性タイプもネタキャラも亜種キャラも皆混じり合っている。
そして、彼ら全員が、共通して一つのイベントの始まりを待ち望んでいた。

「レディースアーン、ジェントルマーン!お待たせしました、今日の主役の登場です!!さあ、騒げ騒げー!!!!」

いつの間にかマイクを握った雑音が、高らかに叫ぶ。
宴が、始まった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

小説【とある科学者の陰謀】第三話~黄色の二人、現る~その二

第三話後半戦です。

シグが遂に果てしなく汚い大人な部分を発揮しました。リン、ご愁傷様←

閲覧数:151

投稿日:2011/05/19 12:21:37

文字数:2,438文字

カテゴリ:小説

  • コメント1

  • 関連動画0

  • 絢那@受験ですのであんまいない

    な、なぬっ!リン、一本700円のバナナを食べただと!ずるいじゃないk(ry

    意外とシグずるがしこいですねwww
    三回もビンタされて大丈夫ですかね?wwwでも雑音と鏡音に叩かれたなんてうらやましすぎr(((殴

    野外ライブ会場…なんかピアプロはすごいですね。そんなにお金が(ry
    よし、そのライブ私今から行ってきます!

    2011/05/19 16:21:07

    • 瓶底眼鏡

      瓶底眼鏡

      本当にずるいですよね!自分も一房百円くらいのバナナしか食べた事無いのに!!

      個性の強い面子におされがちですが結構シグはやらしい性格してるんです←
      勿論シグはビンタくらいでへばったりしません。この程度の受難で動作不良に陥って貰っては物語が進まず作者が困ります←

      それだけ実体化ボカロによって得られた利益は莫大だったのです。いやあすごいですよねー←
      はいどうぞ行ってらっしゃい!軽く時間旅行する必要ありですが!←

      2011/05/19 16:39:19

オススメ作品

クリップボードにコピーしました