「ねぇ、レン」
「ん? 何だよ」
 移動をしながらリンはレンに話しかける。前を歩いているレンは首だけリンの方を向いた。時折すれ違う女子がレンの顔を見て嬉しそうにキャアキャアと騒いでいるのを横目にリンは あぁ、レンは他のクラスでももててるんだ、と言う下らない感想を持った。
「空手部、てさ、何処で部活やってんの? 体育館・・・ではないよね。痛いし」
「柔道場。あそこなら床柔らかいし」
「あー、分かる。前の学校でたまに集会会った時行ってたから。妙に柔らかいんだよねー、やっぱ。ぶつけても痛くない様に、だろうけどさ」
「じゃ無かったら意味無いだろうよ」
 レンは苦笑いを浮かべ、階段を降りていく。リンもそれに続く。二階に辿り着くと体育館に行くような形でレンは右に曲がる。そして体育館の脇を進み、更に階段が現れた。それをレンは手馴れた様子でどんどん進んで行く。少し薄暗いのを興味深そうに見渡してから、リンは少し小走りでレンの後を追った。

パァン、パァン

 竹刀と竹刀がぶつかる音が廊下にまで響き渡っている。「そんなに遅くちゃ相手から一本も取れないぞぉ!」と声だけでも気迫があるこの声は紛れも無くミクのものだった。
「・・・剣道場・・・近かったんだ・・・」
「あぁ、たまに俺はミク姉に罵られてる人達が凄く可哀想に思える。ミク姉、相手が先輩でもああだからな・・・」
 レンが同情の念を表すと、

バシィンッ!

 一際大きな音が響き渡り、思わず其方の方を見れば少しだけ開いている扉から、防具を何一つ身に付けていない袴姿のミクが握っている竹刀が相手(勿論防具を身に付けている)の顎を思い切り突き飛ばし、その相手はその勢いに任せ、吹っ飛んでいる所だった。・・・口から血を吐いていたのは決して見間違いではないだろう。向こうの壁際ではネルが またやってるよこの人、と言う顔をして、ハァ、と溜息をついている様子が伺えた。
「・・・大丈夫かな、あの人」
「如何だろうな・・・。しかし・・・」
『憐れだ』
 最後の方はリンとレンの声が重なり、そして二人して ハァ、と溜息を付く。
「・・・で、柔道場何処?」
「・・・此処」
レンが指差したのは剣道場の向かいにある、一つの扉だった。

「こんちゃー」
「おぉ、鏡音か・・・。って女子!? ちょ、おまっ、遂に彼女か!?」
「違います」
 サラリと先輩の言葉を否定して、リンに「部活の先輩。部長だから挨拶しといた方がいいと思う」と言った。
「しといた方が良いって・・・聞こえてんぞ、オイ。あ、俺は磯城音 颯(シキネ ハヤテ)。三年生な。まぁ、一応部長だ、よろしくな」
「あ、あたしは鏡音リンです。転校して来たばかりなので仮入部に来ました。宜しくお願いします」
 颯に言われ、リンも名乗りペコリと頭を下げた。
「鏡音・・・? 一緒だな、苗字・・・。んにゃ、それ以外でも聞いた事・・・鏡音・・・鏡音リン・・・?」
「あれじゃないですか? 磯城音先輩、八年前の全国空手大会女子部門準優勝者、鏡音リン」
「あぁ、それだ! いや、しかしまさか八年前の男子女子優勝者、準優勝者が揃うとはなぁ・・・いやはやすげぇなぁ・・・」
 そう言うと颯は短い黒髪をガシガシと掻いた。そして、は、とした様な顔になり、リンとレン、二人を見た。
「んじゃあさ、お前等一回戦ってみ?」
『ハァ!?』

「・・・おーっし! 二人共ぉ、準備は良いかぁ!?」
「・・・大丈夫、です・・・。レンは?」
「一応、俺も良いけど・・・」
 ハァ、と溜息を付いてレンはキュ、と帯を締める。その帯は黒帯。昔と変わらない、その帯の色。
 一方のリンは体育着姿だった。女子に柔道の授業は無い。ましてやこんな事になるだろうなんて思いもしなかったので、一応持ってきておいた、前の高校の体育着を着ているのだ。ギュ、と短パンの紐を少しきつめに締める。
「じゃ、一本勝負な。相手から一本取ったら勝ち。時間無制限! では尋常に、始めっ!」
 ブン、と颯の右手が振り下ろされるとレンは一瞬でリンの目の前に移動した。
「!」
 その事に驚く間もなく、リンはレンに足払いをされ、バランスを崩した所をそのまま地面に叩きつけられた。

 刹那、リンとレンの顔が急激に近付いた。リンはその瞬間が永久に感じられる位、長く感じた。
 サラリと揺れるレンの金色の髪。吸い込まれそうな程に綺麗なスカイブルーの瞳。けれど其処にあるのはリンの知っているレンであって、レンでない、リンが知っているあのあどけない少年では無く、大人へと変わっていこうとする少年の姿だった。
「一本! 其処まで! 勝者、鏡音レン!」
 試合の審判の様に颯が言うと、レンはス、と立ち上がった。リンも慌てて立ち上がる。
「いや、流石に鏡音はつえーな! 鏡音さんの実力も見てみたかったなぁ・・・。ん、よし、次は俺と勝負してくれ」
「ん。良いですよ」

 その後リンは颯から颯爽と一本を取って見せるのだった。

 そして、部活も終わり、その帰り道。

「あ~、今日は久し振りにレンと勝負したね。・・・何時もみたく負けちゃったけど、ね」
 少し寂しそうにリンは笑った。そう、リンはレンに一度も勝てた事が無い。小さい頃から、それこそリンがレンの事を友達だと思っていた時から、リンはレンには勝てず仕舞いだった。それが悔しくて練習を幾らでもやったのに、どうしても負けてしまうのだった。
「でもさ、懐かしかったよ、俺は。また昔みたいにリンとこうして話したり勝負したり出来て、さ」
 不意に微笑んだレンの表情に思わず顔を赤くしたが、フイ、とそっぽを向くと
「べ、別にあたしがこっちに戻ってきたのはお父さんの転勤だからで・・・レンに会う為じゃ無いんだからねっ!」
 と言った。レンもレンでこの対応には慣れているので少し笑ってから「ハイハイ」と応えた。そして、ふと思った事をリンに問うた。
「そう言えばさ、おばさんとか如何してんの? 何時も弁当は忘れない人なのに・・・」
 そう聞けばリンは歩いていた足をピタリと止める。そして、言いずらそうに下唇を噛んでから、リンは吐き出す様に言った。

「うち今・・・誰もいないの」
「・・・・・・え?」 

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

部活

タイトルのまんまです、部活。なんのひねりもありません。
空手の技が分からないので技名とか曖昧です。一本背負いは柔道の技なので危うく書きかけてちょっとビビりました。うおお、あぶねぇ・・・。

そして何だか不穏な空気が流れていますね。どうなるんでしょう。楽しみにしていて下さい。
それでは読んで頂き有難う御座いました!

P・S ミクが頗るイメージ怖いです・・・。ミクファンの方、本当に申し訳御座いませんでした。

もっと見る

閲覧数:404

投稿日:2010/06/05 20:36:27

文字数:2,563文字

カテゴリ:小説

オススメ作品

クリップボードにコピーしました