――ある日のこと。
下校途中の彼女は違和感を感じていた。
「・・・あれ?」
空が変な色をしていることに気づいたのだ。
桃色のような、檸檬色のような、蜜柑色のような。
淡い果実をかき集めて散らしたような、そんな色をしていた。
変な天気だ、と彼女は思った。
この前まで爛れた鉛のような重い空だったのに。
華やかな、しかしあり得ない空の色。
それに見とれた彼女は、ふらふらと歩く。
――ふらふら、
――ふらふら、
ふと気づけば彼女は路地裏にいた。
両隣の建物の表面が異様にごつごつしていた。
よく見てみると小さな貝殻がこびりついている。
「こんな所に貝がいるなんて、変なの」
そう囁いて彼女は楽しそうに笑った。
空を見上げながら、声を潜めて。
すると何かが視界に映った。
――ゆらり――
彼女は目を凝らした。
しかし電線が邪魔でよく見えない。
その何かは視界の隅でちらつく。
痺れを切らした彼女は路地から飛び出した。
そこで彼女が見たものは・・・。
――ゆらり、――
――ゆらぁり――
魚。
透き通った海色をした巨大な魚だった。
それは優雅に空を舞っていた。
こぽり、と彼女は自分の口から泡が出た気がした。
その荘厳と泳ぐ魚に魅入られた。
「・・・かみさまだ、」
神様。
そう口の中で呟いて彼女は瞬きも忘れてそれを見つめた。
そのうちもう一匹の魚が泳いできた。
晴天の空の色の魚。
海色の魚と空色の魚。
彼らはつがいのように互いに身を寄せた。
一瞬だけ。
海色の魚が彼女を見た。
緑の瞳。
森の色。
二匹は寄り添ったまま泳ぎ去った。
残された彼女は呆然としていた。
しばらくすると武者震いのように震え出す。
今の壮大で荘厳な光景。
彼女の心は感動でいっぱいだった。
「すごい!すごいわ!」
この気持ちを誰かに伝えたい。
それだけが彼女の心を支配した。
彼女は駆け出した。
向かう先はたった一人の友人のもと。
彼女は坂道を駆け下りる。
その上をキラキラ光る小魚の群れが泳いでいった。
十字路に出ると色鮮やかな魚たちが飛び交っていた。
そこにはいない、彼女だけに見える魚。
彼女はこの綺麗な魚たちを自分だけのものにできた気がした。
輝く笑顔の彼女は、輝く魚たちと一緒に駆けていった。
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