僕がずっと前から思ってる事を話そうか。

ずっと前から思ってたけど、ずっと言えなかった言葉。



「ねぇ、僕はずっと前から、いや、今でもグミヤの事―――…」





【はんたいことばの愛のうた　４】




「好き、だから…」



小さく呟いた言葉。
それは、ゆっくりと屋上の風に乗っかって―――、


「え…と、」


…グミヤの耳へと届いたらしい。

いつの間に来たんだろ…。内容、聞こえて無いといいなぁ、なんて僕の願いも虚しく、グミヤは複雑そうな表情で話し出す。

「…だとしても、俺達はもう…、」


……しっかりと聞こえていたようだ。
――あ、なんかもう泣きたい。


「会わないって「僕はっ！」


続きを聞きたくなくて、グミヤの声を遮る。
グミヤが驚いてこっちを見た。


あぁ、どうしよう。勢いで言ったはいいもの、先のセリフを教えてくれる台本は頭の中にない。


―――…なんて。ホントは分かってる。グミヤに言うべき言葉。だけど、天ノ弱な僕がそれを拒む。




でも、
僕は知ったんだ。

グミヤがいなくなって、初めて。


自分の中の綺麗な感情も汚い感情も。

グミヤをどれだけ、……好きだったかって事も。


だから、僕は言葉の裏の裏を信じて、君に伝えるよ。



天ノ弱な、僕なりに。





すぅ、僕は息を吸い込んだ。


「まだグミヤに渡す愛が沢山あって！…譲るあてなんてどこにもないんだ。」


まだ、捻くれていてまどろっこしい言葉でしか伝える事出来ないけど、それでも君にほんの少しでもこの思いが届くなら。




「それでも、俺は…グミよりずっと天ノ弱だから。いつでもグミを傷つけてしまう」


返ってきた否定の言葉にうっかり涙を零しそうになって、慌てて俯く。
―――やっぱり、僕達は元には戻れないのかな…。


「だけど、もう少し、もう少し待ってくれるなら。俺はグミに、伝える事が出来るからっ！」


反射的に俯いてた顔を上げる。
そこには既に去っていく君の後ろ姿。

その背中に向かって叫ぶ。




「僕っ…！待つよ！…互いに素直になれる日まで…っ！」


君が少しこっちを向いて頷いた気がした。




*****






あれから半年、だろうか。
夕暮れの帰り道で背中を丸めて帰る僕の後ろから待ち焦がれていた声が聞こえた。

「グミ！」


バッと反射的に振り返ると、目で追い続けていたグミヤの姿。
思わず涙ぐむ僕。


「グ…ミヤ…っ！」


「…俺、まだ天ノ弱のままかもしれないけど、でも、もうこの両手だけじゃ足りなく、なったから」

「ふふっ、」


自然と笑いが漏れる。

―――確かに、まだグミヤは天ノ弱だ。なんか変わってないのが嬉しいとか、ちょっと矛盾している。
でも、僕はそれでも会いに来てくれたのが嬉しいんだ。


「だから、伝えるよ」


「え、」



いつの間にか近づいて来ていたグミヤの顔がそっと夕日に染められた僕の耳元に寄せられて、小さく、でもしっかりと伝えられる。



――――ありったけの愛のことばが。