『レン、将来結婚するんだよ! 約束だからねっ』
『わかったよ。約束だからね。リン忘れんぼだけど、ちゃんと覚えてられるのー?』
『大丈夫っ! ね、あそこで指輪売ってる! リンあれ欲しいな』
『僕が買ってあげるよ。だから、絶対……忘れないでね』

幼いあたしとレンの声が聞こえた。あれは確か、レンが養子として引き取られてきてからの最初の夏だ。あの忌々しい大人共から彼が解放されてすぐのこと、お父さんが夏祭りに連れて行ってくれた時の、一番楽しかった頃。
「またあの夢……」
涙が溢れる。あの頃を忘れてしまいたい。
あたしは、重たいため息をついた。薬指にはめられている『あの時の指輪』を握り締め、自然と時計を見る。どうやらいつの間にか寝てしまっていたようだ。夕方だったから、カーテンを閉めたあとに。まだ眠っていればよかったと思った。
何故なら、隣の部屋からはわざとこちらに聞かせているのかと疑うほどに女を攻め立て、嬌声をあげさせ、嘲笑う彼の声が聞こえてきたからだ。もう、毎日だ。彼が無理やり女を連れ込み、衣服を剥ぎ行為に及ぶのは。
彼とあたしが終わってしまってから、ずっと……。

***

感情をどこかに忘れてきたような、そんな顔をして彼は引き取られてきた。顔には『消えるのか』と疑ってしまうような痣があり、また随分と細く力の入っていなかった手にも、小さいけれど点々と恐ろしいと感じてしまうような、そんな火傷の跡があった。『煙草だよ……パパがつけるんだ』レンは淡々とそう言っていた。
虐待を受けていたという理由で、レンはあたしたちの家に引き取られたのだ。お父さんの妹が酷い夫を持ってしまい、暴行の末できてしまったレンは、ミルクをちゃんと与えられた。レンを育てている間も、妻は夫に恥辱を強いられていた。天使のような息子の前で痴態を晒すことを、もちろん嫌がった。抵抗した。レンが段々大きくなり、より酷い虐待を受けるようになった妻は幻覚を見始め、いつしか息子を殺されたと勘違いし、そして自ら命を絶った。遺体が発見された浴室で、息子の横で血に汚れ散々傷つけられた体を見せつけるように、彼女は溺死していた。水を吸い、膨れた無惨な顔を見ても、夫はなにも感じなかった。それからの憂さ晴らしの標的がレンになる……その時、彼は警察に保護された。妻の自殺で、彼女の親族が騒ぎ立て、夫は警察に突き出されてしまったからだ。そのときに、レンはばれた。

 最初は遠い親戚、次に祖父母、最後にここへきた彼に……あたしは。

愛してしまったことに、後悔はしていない。ただ、未だに好きな気持ちは変わりなく。ひっきりなしに、あたしが拒んだことを求めあい、一時的に愛し合っている彼らに虚しさを覚え続けていた。

***


「おい」
 いつのまにか外にでていたようだ。大通りをふらふらと歩いていたわたしは、どうやら柄の悪い男にぶつかってしまったみたいで。謝罪をしても、解放してくれなかった。
 イライラしている男に殴られる寸前、布の塊が降って来た。
 助けてくれた彼は、あたしを立たせようとした。無理やり立ったせいで、まだ大きいあの指輪が外れ落ちた。「お前、まだそれを……」彼は……レンは、驚きを隠せていなかった。
「だ、あ、あっ」答える間もなく、男は殴られた仕返しと言わんばかりに指輪を踏み潰した。
レンは苦虫を噛み潰したような表情で、あたしの手を引いて逃げた。指輪を想って泣いていたあたしを、宥めながら。家に飛び込み、そして息をつく。
「なんで」レンはあたしの肩に手を置き、荒々しく質問した。なかなか答えられず、あたしは黙り込んでいた。
「指輪さ。……なんで、俺期待しちまうじゃんかよ。捨てろよ、頼むからさ……潔く諦めたいのに……」
「……え?」レンはあたしを抱き寄せて、静かに笑う。
「まだ、好きなんだよこれでも。他の女じゃ駄目だ俺は。新しい指輪、プレゼントさせてくれ」
 レンは粉々になった指輪の欠片を少しすくい、握り締めた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

それでも、わたしは。

レンリンオリジナル小説ですですn

ちょいダークな
恋愛ものですな←

リン視点ですn(●`ω´●)

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閲覧数:251

投稿日:2012/09/16 21:41:47

文字数:1,665文字

カテゴリ:小説

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