人に見られるのも、暑苦しい喧嘩も、何かに執着するのも、実はそんなに好きじゃない。かわそうと思えば幾らだってかわせるし、回避出来る物は出来るだけ回避したい。だけど…。

「お前が倒れるか、俺が膝を付いたら終了だ。」
「な…?!」
「お前は俺に勝てない。今迄も勝った事無いだろう?」
「…なめるな!」

心の何処かでいつも冷め切っていた。『どうせ居なくなるから』『どうせ裏切るから』そんな思いが拭い去れなくて。今触れているこの手が裏切ると思うと汚い物に思えてならなくて…。

「遅い!」
「がはっ…?!」

誰かを大事にするのが嫌になった。好きになったり、執着したり、そんな感情を封じ込めて、ただ目の前の仕事を黙々とこなして、心を凍らせて、人形の様に生きて行くのが楽だったから。

「こ…の…!!」
「無駄だ、バカウサギ。」
「――っ!!…ゴホッゴホッ…!!」
「や…!止めて…止めて…!」

方向は違ってもお前も同じだった筈だ…鳴兎…。お前も誰かを大事に想うのを避けていた。欲を抑えて、感情を殺して、同じだった…浬音に会うまでは…。

「その程度か?」
「ま…さか…!」
「も…止めて…止めてよぉ…!」
「…大丈夫だ。」

少し前まではガラスみたいな瞳だったのに、今じゃ別人みたいだ。人に怯えて絶望に囚われていた浬音と…人を好きになるのを拒んでいた鳴兎と…二人が手を繋いだのは必然だったかも知れない。鳴兎が傷付くのを見て目に涙をいっぱい溜めて、その姿が不謹慎にも嬉しかった。

『ああ、泣ける様になったんじゃないか。』

素直にそう思える。ボロボロに傷付いて、声を殺して泣いて、誰かに助けを求めもしないで、一人耐え続けて…だけどもうそんな事しなくて良い…楽しい時は笑って、傷付いたら泣いて、寂しい時は素直に甘えて、きっと鳴兎は躊躇いもせずに浬音を抱き締めるから、きっと浬音は躊躇いもせずに鳴兎の側に居るから。

「ゴホッ…ゲ…ホッ!!」
「お前には無理だ。」
「うっわ、帽子屋容赦無ぇな…ウサギボロボロじゃん。」
「てか強過ぎじゃね?喧嘩慣れしてるっぽいし。」
「いやーウサギさん傷だらけ…。」
「もう止めた方が…。」
「…上…から…見下ろしてんじゃねぇ!!」
「――っ?!」

急にネクタイをグンと引かれたと思うと額に激痛が走った。目の前に星でも飛びそうな衝撃に思わずよろめいた。と、間髪入れずに膝蹴りを喰らいそのまま膝を付いた。…痛ぇよ…バカウサギが…加減も忘れやがって。

「ハァッ…ハァッ…!…ブレイク…『Mad Hatter』!!」

観客がワッと歓声を上げた。砂埃を払うと軽く服を整えた。

「加減しろ、バカウサギ。」
「どっちが…。」
「きゃあああっ?!やっ…!変態!」
「―花壇?!」
「漁夫の利サーセンKYサーセン。」
「お疲れ様です有難う…だったか?」
「おう。」
「クラム…それにハレルヤ?!」
「潰し合ってくれて助かりました。」
「お前っ…!!」
「ふふん…ブレイク『March Hare』お疲れー。」

走り去った二人を観客含めて呆然と見送った。一体いつの間に仲良くなったんだろうか?

「カカカカカカカカ!漁夫の利サーセンKYサーセン、お疲れ様ですありがとう!
 『March Hare』ブレイクによりプレート最多所持の『花壇』が脱落!『Mad Hatter』
 『ハートのジャック』も共倒れでブレーイク!さーて!残るは二人!グリフォンに
 勝てるか――?!」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

DollsGame-128.夕霧草-

漁夫の利サーセンKYサーセンお疲れ様ですありがとう!
(  ̄ー)☆(- ̄)

閲覧数:274

投稿日:2010/09/20 07:58:05

文字数:1,443文字

カテゴリ:小説

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