女は静かに扉を閉めると、荒くなった息を整えながら静かに立ちつくした。
腕に抱いた温もりが彼女を責める。

「ミク、おかえり。よかった、遅かったから心配していたんだ」

男は、女が帰ったことに安堵した様子で優しく微笑んだ。
そして、女の纏う異様な様子に気がついた。

「あれ、ミク。ローブはどうしたんだい?」

尋ねながら、男は女の腕に抱かれた赤ん坊に気がついた。
今まで泣いていたのか、一人はぐずり、一人は泣き疲れて眠っているようだった。
女は答えず、俯いたままだ。

「……ミク、この子たちは、どうしたんだい?」
「拾ったのよ……森の、中で」
「森の中で?」
「……だ、だって。木の根元に置いていたのよ? ひ、拾ったんだもの。……神様が、きっと私に返してくれたのよ。だって、毎日祈っていたんだもの……。私の元にくるはずだったの、あの人が……勘違いをしたのよ。だってこの子たちは私の……」

どこか怯えたように、壊れてしまったかのように言葉を続ける女。
男は、違和感を覚えた。
女の要領を得ない言葉や、行動に。
「森の中に捨てられた子供を拾った」彼女が怯える必要などない。
ローブを落としたのに気付かないほどの、「何か」があったはずだ。

もしも、彼女が誰かからこの子供たちを連れ去ってしまったのならそれはいけないことだ。

「ミク……」
「この子は私の子よ!」

誰にも渡さない。
もう、誰にも。

頑なに、自分の子供だと主張する女に、男はしっかりと向き合って言葉を紡ぐ。

「……いいかい、ミク。僕達の子供はもうすでにこの世にはいないんだよ。この子たちは本当のお母さんの元へ帰してあげなさい」

女は男から目を逸らし、答えを出すことを拒む。

「今なら、まだ間に合う。やり直せるさ、だから……」
「無理よ! だってもう……」



家の外には

女が纏っていた黒いローブと
赤い服を着た血に染まる女の亡骸が横たわっていた。
傍には、女が持っていたのだろう籠から ミルクの満ちた小さなガラスの小瓶と花がこぼれ出していた。

男は声を失い、子供を抱いた女は誰にも奪わせまいと手に力を込めた。

「私の赤ちゃん……もう誰にも、渡さない」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

【勝手に自己解釈】moonlit bear~2~

悪ノPさんの「moonlit bear」を仕事(作業)中に自己解釈したものです。

構成練ってたら、にっちもさっちもいかなくなったので、結論を先に出すことにした。まぁ、ぶっちゃけスランプに陥ってただけなんですが。
つぎ、エピローグ書いて、置き去りに続きます!

ちなみに、男(カイト)は亡くなった女(メイコ)を一人で丁寧に埋葬したと思っております。籠の中にあった花を一緒に埋めた、とかそんな感じの。

閲覧数:165

投稿日:2010/06/25 02:50:00

文字数:919文字

カテゴリ:小説

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