-紅-
二人が夕食を済ませ、随分と疲れも取れたころ、メイコが真剣な面持ちで二人からテーブルを挟んで向かいに座った。
「さあ、本題に入りましょうか。どうしたらいいかしらね、まず、私のほうから話そうかしら。いい?」
「うん」
「はい」
「ここにいるルカは、私の中では二人目の使い魔よ。一人目は、カイト。あそこにいた、あのカイト。彼は私が、二人よりも小さなときに呼び出した使い魔だったわ。カイトはとても優しくて、曲がったことは大嫌いな性格で、気は小さいけれどとても優しかった。普通は主人が間違ったことをした場合は、おろおろしてしまうものだけど、カイトはいつもちゃんと指摘してくれたのよ。でも、幼かった私には時に正しいことが忌々しく思えることもあった。ある日ね、私がとっても仲のよかった友達と喧嘩してしまったの。原因は、私がそのこの消しゴムを欲しがったことだったわ。けれどその消しゴムは、その子がお小遣いをためて、買ったものだったのね。すごく嫌がったわ。私ったらそんなこと全然知らないで、嫌がらせじゃないかと思って、その子に凄くひどいことをした。それをカイトは謝ったらいいといったわ。けど私は興奮していて、カイトに『大嫌い、出て行け、お前の顔なんて見たくない』って、言ってしまったの。でも次の日、私は考え直してその子に謝ったわ。でもカイトは居なくなっていた。きっと、私の言った言葉に絶望したんだわ。とてもひどいことをしたと、今でも思っている。その後、ルカを呼び出したわ。でもカイトのことを忘れたことはないわ。だって、初恋の人だったもの」
「はぁ!?なんで?あの変体兄貴が!!アイツ、絶対変態ですって!!」
「レン、落ち着いて!!ね!」
興奮して立ち上がったレンをどうにかなだめて、今度はレンに話すよう、促して見せた。
「ああ、俺は…」
さっきリンに話したことを、もう一度メイコにも話した。
自分はカイトの弟であること、何者かによって両親が惨殺され、その犯人がカイトであろうこと、自分には双子の姉が居てその名はリンといい、自分は容疑者となっていたこと、真犯人はカイトだろうということ、ずっと地下牢に監禁されていたこと。
その話を聞くたび、メイコの顔からは血の気が引き、まるでそれは違うとでも言うように時折首を横に振っていた。
「兄についての部分は殆どが推測ですけど。けど、あのアンってやつの言っていたことを踏まえると、やっぱり俺はその結論に行き着くと思うんです」
「確かにそうだけど…。でも、信じられないわ。あのカイトがそんなひどいことをするなんて…」
嘆くようにそういってメイコはため息をついた。
「…どうしましょうか、主。アイツ、見た感じ、力はあるようですわ。私で、対等に戦うことは無理でしょうね」
「そんなに?どうしたらいいのかしら…」
もう一度、大きくため息をついた。
真っ暗な部屋の中で、一人で少女が窓の外を眺めていた。
後ろから彼女よりも大きな影が忍び寄っていた。ふと、振り返る。途端、少女は大きく声を上げた。
「カイト兄!!遅かったじゃない!待ってたんだよ!」
「ん?ああ、寝ていてもよかったのに。さあ、寝よう。ね」
「うん!一緒に寝てもいい?外で雷が鳴っていて、怖いの」
「ああいいよ。けど、ちゃんとパジャマを着て寝てくれよ」
「大丈夫だよ!」
後ろに大好きな人の姿をみとめ、少女はうれしそうに飛びついて、何度も頬ずりをしていた。
あれた窓の外は黒い雲で覆われた空から、時折閃光が走るように雷が落ちたりゴロゴロと具合の悪い音を鳴らしたりしていた。
兄のベッドへもぐりこみ、枕に顔をうずめて少女はうれしそうに、眠りについた。
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