雨の中、私は走っていた。
鞄を頭の上まで持ち上げて傘の代わりにしているつもりだけど、あんまり意味はない。
頭のてっぺんから足の先までびしょ濡れだ。
なんで傘を忘れちゃったんだろう。
こういうとき、ボーカロイドっていいなーなんて思ってしまう。
傘を忘れても、気を利かして持ってきてくれるんだもの。
本当、人間みたいに…。
羨ましいけれど、そんな高価なものを買うほど裕福でもない。
諦めるしかないって悲しすぎる…。
あー、切なくなってくるよ。
雨のせいもあるんだろうけど。
…。
……。
………とにかく帰ろう。
私は、裏路地へ入った。
ここを通ったほうが家に近いような気がしたから。
裏路地は少し汚かった。
空き缶が普通に転がってたりして、いろいろと危ないトラップが足下に広がっている。
私は十分気を付けながら、全力で走った。
「あ」
そのとき、私の足が止まる。
目の前に傷だらけの青年が、倒れていた。
体中包帯だらけで、頭から足の先までびしょ濡れで、
このままにしておいたら死んじゃうんじゃないかと不安になるくらい衰弱していた。
私は青年に駆け寄る。
「大丈夫!?」
声をかけると、わずかにまぶたが動いた。
よかった。生きてる。
「今、救急車を呼んであげるから!」
私がケータイに手を伸ばそうとしたとき、突然彼の腕が私の手をつかんだ。
(痛ッ!)
あまりにも強い力に、私はたじろぐ。
青年はかすかに唇を動かした。
「やめて」
「…でも」
「お願いだから」
病院が単に嫌というわけではないらしい。
「わけあり」ということなのか。
私はケータイをしまうと、彼に肩を貸す。
「立てる?」
「…うん」
少し驚いているようだ。
支えながら彼はゆっくりと立ち上がる。
私は彼に言う。
「とにかく傷の手当てをしよう。
今、手当できるようなものを持ってないから、私の家まで行くけど、歩けそう?」
「…うん」
青年はこくりと頷くと、私とともに一歩一歩歩き出した。
そして小一時間かけて、やっと帰宅した。
私はこの日、一人の青年を拾った。
まるでその姿は捨て猫みたいで、
そして―
まるでなにかに脅えているような、そんな目をしていた。
コメント0
関連動画0
ブクマつながり
もっと見るその日、雪子と帯人は大学病院を訪れた。
両手いっぱいの花を持って、真っ白な扉を開ける。
「よお、久しぶり」
部屋にはメイトが立っていた。
「あ、メイトさん。お久しぶりです。もう調子はいいんですか?」
「調子? ああ、麻痺してたやつか。大丈夫だよ。
用心して検査とか、いろいろやってただけだ。至ってケ...優しい傷跡-君のために僕がいる- 第01話「胎動」
アイクル
その日は雨だった。
雪子と帯人は、いつものようにコンビニで買い物をして帰っていた。
傘にはじかれた雨が単調なリズムを刻む。
その音はとても好きだ。
でも、帯人は「雨は苦手」だと言う。
…おそらく、あの日も雨だったから。
受け入れたはずの過去。
でも、どうしても心にわずかな傷を与える。
ときどき疼くそ...優しい傷跡-魔法の音楽時計- 第00話「プロローグ」
アイクル
翌日。
雪子と帯人は一緒に学校へ行った。
その日は休日だったから、私服で入校できた。
休日だというのに、人々は多く図書館を利用していた。
私の背の三倍もある本棚に、ぎっしりと敷き詰められた本の数々。
貴重なものまであるらしいけど、あんまり詳しくない。
彼は目をぐるぐるさせていた。
思わず笑ってしまっ...優しい傷跡-魔法の音楽時計- 第01話「伝言」
アイクル
優しい色に染まる 自分に絶えられなくなる
傷つくことに慣れすぎていて ひどく怖くなった
震える手 離れないで
嫌いなわけじゃないのに
癒えない傷が 深く深く
何度も救われるような夢を見る
君の手が僕の傷を 癒すことはないけど
錯覚(ゆめ)だけでも感じていたい
闇に足を取られて 自分を見失いかけても
...はりねずみ 【帯人】
アイクル
光を抜け、帯人と雪子は地上へ降りた。
そこはなにもない海岸だった。
これが最後の悲劇の舞台なのだろうか。
「…うん…ぅ…」
雪子がやっと目を覚ます。
しばらく茫然としていたが、自分の置かれている状況を理解すると
いきなり顔を真っ赤にして暴れ出した。
「…どうしたの?」
「な、なんでもないからっ! だ...優しい傷跡-魔法の音楽時計- 第18話「後悔の手紙」
アイクル
「ダビデの竪琴? 確かにそう言ったの?」
「ああ、確かに聞いたぜ」
ルコはぶんぶん首を縦に振る。
頭を抱えるメイコを、ルコ、雪子、帯人、ハク、ルカは見ていた。
「ダビデの竪琴といったら、精神を病んでいたサウルを癒した話が有名ね。
でも、なんの関係があるのかしら…」
「………《ノイズ》」
カイトはそ...優しい傷跡-君のために僕がいる- 第05話「欠けたもの、生まれたもの」
アイクル
クリップボードにコピーしました
ご意見・ご感想