番外編~芽衣子の初恋




私は鎖芽衣子。25歳アパレル会社OL。

何もかもが普通の生活。

私に恋を教えてくれたのは、あの人でした・・・。



7年前。高校三年生の時。



「ねぇねぇ、昨日テレビのさぁ・・・」
「あのアイドル、ちょ~かっこいいの!!」

クラスのざわめきも、本を見てれば聞こえない。
私は私の世界。
・・・それでよかった。

あの頃の私はロングヘアーでメガネ。いわゆる地味子だった。

本さえあれば生きてゆけるし、それが私の世界の全てだった。

「ちょっとあの子根暗よね・・・」
「う~ん、別にいいんじゃないあたしたちには関係ないから」

そんなことしょっちゅう言われてたし、気にしない。
無関心が一番悪いことなんて知らなかった。

そんな時。

「ねえ、鎖」

私は呼ばれたことも気づかず、本の世界に入っていた。

「鎖!!」

肩をぽんと叩かれてやっと気がついた。

「な、なに?」
「それ、星新一の本だよね」
「うん、なんで?」
「俺、星新一大好きなんだよ!!」

彼は満面の笑みを浮かべて私に言った。

「どの作品が好き?」

私は嬉しくて聞いてみる。

「あの、英語の教科書にも載ってたやつ!!」
「あ、それ私も好き」



私は話が合う人に初めて会った。

毎日毎日、本の話をした。

・・・楽しかった。

「あいつ、鎖に話しかけるとか変わり者よね~」
「きっも~い」

クラスの彼と私の評判は最初こうだった。

でもある日。

「明日、映画見に行かない?」
「えっ?」

初めてのデートだった。



え、え、どうしよう・・・。何着ていこうか・・・。

とりあえず・・・。



こうして私は人生で初めてコンタクトをして、化粧というものをした。



「お、お待たせ・・・」
「いや、全然待ってな・・・っ!!」

言葉を止めた後、彼は全力の驚きで。

「めちゃくちゃ綺麗じゃねーかよっ!!」

と、叫んだ。

「そ、そうかな・・・」

照れる私を見て、さらに照れる彼。

「で、でも・・・ショートの方が・・・可愛いかな・・・」

そんな注文でさえ、聞いてあげようと思った。



彼に褒められるのが嬉しくて、私はショートヘアー+化粧+コンタクトで学校へ行き出した。

オシャレというのに興味を持った。
幸い高校の規則が緩く、最低限反さない様にしていれば何も言われず、オシャレの研究に打ち込むことができたのだった。

「なにぃ~、鎖、めちゃくちゃ可愛いじゃん!!」
「あれは恋だよ絶対!!」

私は一躍、男子にも女子にも人気になった。



彼とも楽しく過ごした。

・・・でも襲い掛かるのは大学受験。

「鎖、どこの大学行くの?」
「まだ決めてない・・・」

ぽんと手を叩いて彼が言った。

「そうだ、アパレルの専門行けよ・・・綺麗だし・・・オシャレ好きだろ」
「確かに、それいいかも・・・」

さらに彼は顔を赤くして言った。

「俺が大学行ったら・・・その・・・同棲しよう!!」
「ええっ!!」

突然の告白に、私はかぁ~っと全身が熱くなる。

「……はい」
「やった~!!!!」

彼の喜びようといったら凄まじかった。



2月14日。

恋人が舞い喜ぶ一日。

「もしもし・・・」
『はい、もしもし、おっ鎖!!』

電話の相手は彼だった。

「今日バレンタインだね・・・ちょっと会えないかな・・・」
『ちょうど、鎖ん家に向かっているところ。受験疲れ癒してもらおうと思って・・・』

微笑みかけたその時。
電話の奥で耳をつんざく激しい音がした。

・・・そして電話が切れる。



彼は青信号で渡っているにも関わらずトラックに撥ねられた。

即死だったらしい。

泣いた。泣き腫らした。



・・・このことがトラウマであれ以来恋なんてしていなかった。
でも1年前彼にそっくりなストリートミュージシャンに出会った。
名前は三橋さん。

とっても優しくていい人だった。



そして今。



「三久のコンサートへようこそいらっしゃいました~!!」

ファンの沸く地方ホールに私はいる。



皆東三久のコンサート、会社からチケットを偶然貰ったのだ。



「この曲は私にとって、とっても大切な曲で・・・」

皆東三久が恥ずかしそうな顔をして言った。

「と、とにかく聞いてくださいっ!!1925!!!」

1925の前奏が流れ出す。

〈いたいけなモーション~、振り切れるテンション~〉



「あれ」

私は気づいてしまった。
リードギターを弾いているのが、三橋さんだということに。

・・・そして察した。



さよなら、私の初恋・・・。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

1925から始まるストーリー~番外編~

本当に今までありがとうございました!!

番外編&本当の完結です。

いやぁ~、切なすぎます!!゜(゜´Д`゜)゜

1925から始まるストーリー
リスト→http://piapro.jp/bookmark/?pid=tyuning&view=text&folder_id=198727


この作品へのご意見ご感想まだまだ喜んでお待ちしております!!

閲覧数:194

投稿日:2013/03/10 09:48:40

文字数:1,946文字

カテゴリ:小説

オススメ作品

クリップボードにコピーしました