*亜種・崩壊注意*

 朝の快適な睡眠を邪魔するのはピーピーやかんみたいな音だった。防音してるから同居人には聞こえないとは思うが近所が迷惑せずとも迷惑だ。
「ん~…」
 寝せてくれ。
 昨日うっかり鼻歌歌ったらちびにいろんな歌を聞きたいとせがまれてやつが寝るまで歌わされたんだ。12時に寝たとかありえん。睡眠時間6時間はないと学校で寝てしまう。

「だめ。マスターは寝させてあげて。アイスなら取ってくる。」
 帯人の声も寝起きの為かいつもより気持ち低い低音。ああ、寝付き悪いのに起こしてしまったか。まあいいや、寝ちゃおう。
 布団の中で二度寝をしようと思った時だ、何かが顔に落ちた。布団で衝撃はほぼなかったけど落ちてきたのはスーパーボールみたいだ。
 …いや、そんなもの家にない。ちびが来たんだ。

 甲高い声で泣いてて寝起きなことも手伝って何を言ってるかほぼ聞き取れない。言葉の端端から怖い夢を見たらしいことを理解するまで耳をふさいでフリーズした。
「…入るなら入れ。」
 奴が入れるくらいもぐりこんだ布団に隙間を作った。
 泣きやんで、入ってくる。
 とりあえず両手で包みこんでみた。昔動物園でヒヨコをこうして顔だけ出すようにして持っていたら寝てしまったのを思い出す。

 ハンカチとタオルでは寒かったのか、小さいから冷えてしまったのか。冷たい。温くなったころにはすっかりチビが寝ていたが、自分は寝相が悪いので寝られない。
 布団であったまって目が覚めるのを待ち、ここから出て寒い空間で着替える覚悟を決めた。
「帯人、お弁当頼んでいい?」
「今日は午前中だけでは。」
 ああ、そうだった。部活だけだ。まあ睡眠時間5時間だけど午前中だけなら寝ないか。
「ん、冬休みなの忘れてた。帯人、こいつをよろしく。」
 近くに落ちてるハンカチを拾ってそれにチビを包んで渡した。帯人の手は冷たいからそのまま渡したら面白そうだけど可哀想だ。かわいいとかわいそうは同意語だったか?

結局寒い空間で着替える覚悟ができずに布団の中でもぞもぞと着替える。ああ、服が冷たい…。
「今日はお昼には終るからなんか食べに行く?」
 時期も時期だしたまには一寸贅沢をしようか。といっても仕送りをもらうほどでもあげられるほどでもないバイト代ではファミレスがやっとだが。
「いいんですか?」
 給料日は1日。あと一週間はあるが…まあお年玉をあげるにしても足りなくはない。どっちかといえば自分もまだ貰う年だが。
「それとも何か作ろうか?」
 料理本があれば料理ができないことはない。ただ朝が苦手なのでお昼の弁当や朝食は早起きな帯人に任せることが多い。アカイトのほうがはやおきだが朝は新聞配達しに行ってるし何より不器用なので任せられない。

「マスターが作ってくれるなら、クッキーがいいです。」
 クッキーか。アカイトも食べれるしジンジャーマンを作ってみるのも面白い。ついでにケーキとビーフシチューを作って鳥の丸焼を1羽買おうか。
 パンもパン焼き機で焼いて一番おいしいところを。
「じゃあ帰りに材料買うか。」
 いつもより1時間早い起床のおかげで下準備くらいはできそうだ。
「帯人、自分だけだとワイン買わせてもらえないから一緒に行ってもらっていい?」
 まったく、なんで未成年は買っちゃならんのだ。おかげでおかし作りも料理もやりずらい。別に作るのが好きというわけではないが、同居人にせがまれるのだ。

「解りました。現地集合で?」
「ん。」
 朝食と準備を同時進行でこなす。クッキーは帰ってきて焼くだけ、ケーキは飾るだけ。ビーフシチューは炒める際にワインを入れて香付けをするのだったか?煮込んだ方が旨いのは知ってるが未成年の家にそんなものはないので後回しだ。
恋人なんていないが家族と過ごすのも悪くない。…まあ実家は遠くて行けないが、このメンバーというのも悪くない。
「わぁ。いい匂いですね。」
「ああ、海。おはよ。マスター起こしてこい、もうすぐできるから。」

 朝は和食が多いのでたまにはベーコンエッグとコーヒーにパン。簡単でおいしい。手抜きじゃなくて純粋に好物なんだ。パンにはさむとき、千切りキャベツも一緒にはさんでもおいしい。
「ちびはどうする?アイスがいい?一緒にこれ食べる?」
 どうせこのサイズじゃ一人分食えないが帯人の分の半分をこいつにやってもいい。いつもはアカイトが食べる分だが。
「あいすがね、いいの。」
 冬の朝からアイス…KAITOらしいが自分には無理だ。

 とりあえず無難にバニラを選ぶ。生まれて翌日においてけぼりにしてしまうのが可哀想でダッツで自分をごまかした。サンドイッチを作って、半分に切ると方割れをバイトからもうじき帰るだろうアカイトの分の皿に載せる。
「わあ、めずらしー!料理してんだ?」
「まあな。お早う。」
カイトのマスターがようやくお目覚めだ。

「あれ?カイトの人形?ゲーセン行ったの?」
 ああ、種っこのことか。そう言われれば話してなかった。昨日バイト帰りに迷ったのかカイトマスターが帰宅したのは12時過ぎだったらしい。
「種KAITO。空と共謀して発芽させてみた。」
「共謀って悪いことしてませんよ?」
 いや、あのアイスに突っ込む事態どうだろう。まあ一緒にやっといて人のことは言えないが。

 アカイトが帰ってきたところで食べ始める。
 カイトマスターは部活やらサークルやらとは無縁の帰宅部なので学校まで付いてきかねない暇人な帯人と遊びたい盛りの豆を頼む。
 アカイトは他のバイトがあるらしいので放っておくことにする。
「ほら、口開けな。」
 朝からアイスまみれの大惨事は避けたい。昨日の反省を踏まえ、若干小さめにすくって食わせてやる。

「チビとか豆とかちょびとか呼んでるけど名前は?」
 ちょびはまだ呼んでない。
「考え中。カイトってそのままじゃ海とかぶるし。」
 犬じゃないんだからちびとかちょびとか豆は避けたい。いつ巨大化するかわからんし。
「ネットで募集してれば?」
 KAITOか。でも、面白いかもしれない。

「そうだな。」
 とりあえずチビにアイスを食べさせ終えてから学校に向かった。

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「亜種注意」手のひらサイズの彼 その③「KAITOの種」

http://piapro.jp/content/?id=aa6z5yee9omge6m2&piapro=f87dbd4232bb0160e0ecdc6345bbf786&guid=onにて。
というわけでちびの名前募集します←
基本他力本願です(オイ

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投稿日:2009/12/25 14:47:48

文字数:2,559文字

カテゴリ:小説

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