第七話 勝ち組

 「ごめん……、連れ帰られなかった……」

 あたしがそう言うと、その男は「やっぱりな」と、気だるそうに呟いた。
手を首の後ろに持って行って、自分のうなじを撫でている。

 「――仕方ねえな。俺が行ってやるよ、お前も、もう一度ついてこいよ」

 キザなマントを豪快且つ優雅の翻し、門の方へと向かっていく。
ここまで自分の似合うものを知っている人など、なかなかいないものだ。

 「ねえ、本当に大丈夫なの――?」

 「俺を誰だと思ってんだ?あんな落ちこぼれなんて―――一瞬だぜ?」


 気味の悪い笑みを浮かべる。


 でももう、頼れる人はこいつしかいない。


 「大丈夫だって。お前の気持ちはちゃんとわかってるし、きちんとするからさぁ」

 「―――判った」

 「んじゃあ、行きますか。……待ってろ―――レン」



   *



 あれから、3日ほど。

 おりんさんもおかみさんも、何も訊いては来ない。

 話すような内容でもないが。
でも、一日仕事をつぶしたと、咎められた方が楽というものだ。


 今日も、若いおなごたちが白粉や紅に集っている。
たまに、好いているおなごに渡すための紅を求めてやってくる男もいる。

 それは、縁談がまとまっただとか、そういう人だろう。

 あるいは岡惚れ男だ。


 まあ私に関係はない。
ここに奉公している身として、おかみさんとおりんさんと、店のことだけを気にしている。



 ―――課題は、未だだ。




 ゆっくりしていこうと思う。
ここにいれば、できる気がするから。



 「よぉう、久しぶりだなあ」



 店表から。
なんだか軽い、飄々とした声が。



 「あー、あいつに聞いたのは、本当だったか。こんなに変わっちまって」

 
 こいつは――。


 「――か……かいと―――?」



 「れん、何を話しているの――あら。またお客――お友達?」


 おりんさんが話声を聞いて、奥から顔を出した。
これはまずい。

 つい先日もぐみのことで仕事を潰したのに。



 「そうなんです、先日も連れがお邪魔しまして。ちょっとこいつに話したいことが多々あるので、借りてもよろしいですか?お嬢さん」



 おりんさんに、かいとが詰め寄る。
何とも剣呑な目つきで。


 「え……と……」

 「ほんの少しだけでいいんですよう、お願いします、お嬢さん」


 それ以上近づくな。



 もう一歩――かいとが踏み出した瞬間。




 「おりんさんに、それ以上近づくな」




 立ちすくんできっと動けないであろうおりんさんの前に、私は立ち、カイトを防いだ。



 「ほうお。そんなこともできるようになったんだねぇ、えらいえらい」


 何ともとっつきにくい言葉遣いで話す、かいと。
それを私は睨み続ける。



 「これこれ、そこ!お客さんがいますでしょうに、喧嘩なら奥でやっとくれ」



 おかみさんだ。
おかみさんのその一言で、私たちは奥へと上がった。



 「で、あんたはれんの知り合いなんだね?」

 「はいそうです」

 おかみさん同伴で、奥の座敷でかいとと話をすることになった。



 「知り合いならいいのだけれど、店表でああいうことをやられると、お客さんが吃驚してしまうだろう。だから――」

 「おかみさん。そういうのいいんで、本題に入ってもいいですか―――って。こういう口のきき方は、失礼でしたね」


 かいとが笑う。
まるで以前からの知り合いのように。

 
 「――どういう―――え?」

 「落ちこぼれ君にはわからないかなあ。この人、前トップで研修の際人間と恋に落ちて、憲法も破って駆け落ちして、戻らなかった―――【悪魔族】――ルカ、だぜ?」




 『前トップで人間と恋に落ちて、戻らなかった―――』





 「―――ルカ―――あの―――?」




 おかみさんは静かに笑った。
そして。



 「気付いてたの。――じゃあ今のトップはあなたってところかしら?よく気づいたわね、すごいすごい」


 「れんをいつまでもここに置いとくわけにはいかないんですよ。早く課題を遂行させてあげてください」




 やっぱり。

 かいとの要件はそれだったか。






 「だめよ。まだ駄目」






 おかみさんはそう言って、にこりとほほ笑んだ。














ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

ノンブラッディ

おかみさんの正体!!

これから超展開かなあ??

閲覧数:159

投稿日:2012/09/22 12:43:02

文字数:1,855文字

カテゴリ:小説

  • コメント2

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  • しるる

    しるる

    ご意見・ご感想

    ルカさんだと……いままで、そんなそぶりはなかったのに!
    あ、あれだよ!魔法的な何かで、見た目をちょいといじっているのですよ!
    黒髪にして、体型もいじって! うん、自分で納得したww←

    狼のカイトか、赤い頭巾をかぶっためーちゃんを襲わせよう!ww←

    2012/12/22 08:59:51

    • イズミ草

      イズミ草

      まあ、私も直前に浮かんだネタだったんでww
      体系は――ちょっと変えたんでしょうねえww
      そうそう、そうなんですようww

      オオカミのカイト……おなかに石詰めて、もう二度とアイスを食べれなくしてやろうw

      2012/12/22 16:41:39

  • Turndog~ターンドッグ~

    Turndog~ターンドッグ~

    ご意見・ご感想

    ちょ、な、ぬお、ふおおおおおおおおお!!!(強制排除
    ルカさんがおかみさんとかスーパー俺得タイムキタ――――――――――ッ!!

    そしてカイトの「読点(、)+だぜ?』の言い方がついあの爽やかな「お持て成し占い《ノーサイド》」を連想するwww

    2012/09/23 23:08:22

    • イズミ草

      イズミ草

      その通りww
      その彼の爽やかな《ノーサイド》さんみたいに
      したくてwww

      ああ――、お持て成し占い様大好きだああぁあああああ(ry

      2012/09/24 18:09:24

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