「……やっぱり、止めときゃ良かったかなー……」

遊園地の前、待ち合わせ場所にした遊園地のキャラクターの像の下に立ちながら、オレは早くも後悔し始めていた。

(来ない……)

なんとなくリンに気づかれたくなかったのでわざわざ家から出る時間をずらして集合しようと決めたものの、その集合時刻になってもネルが来ない。

「どこで何やってんだか……」

未だ見当たらない金髪サイドテールの姿を目で探しながら、オレの思考はこうなるきっかけとなった出来事を思い出していた。

◆◆◆

「あっれ~、もしかしてレン君?久し振り~」

一週間ほど前のあの日。
リンとロードローラーを乗り回すのも飽きたので街にバナナを買いに行くと、偶然メイコ姉さんに出会った。
メイコ姉さんは、前のマスターの元を離れる事となったオレ達が、今のマスターの元に引き取られるまでの間にお世話になった会社の社員で、何かとオレ達を気遣ってくれていた。

「レン君~、ちょっち付き合ってよぉ~」

普段なら頼れるのだが、酒が大好きで、酔うとカラミ癖を発揮する。
昼間だったのに関わらず出会った時点で既に酒臭く、オレは半ば強引に近くの居酒屋に引っ張りこまれた。

「でさぁ~、カイトの奴そこに予定入れやがってねぇ~?」

オレが酒瓶片手に愚痴るメイコ姉さんの話をバナナジュース片手に聞き流していると、愚痴も尽きた頃に突然、姉さんがバッグに自分の手を突っ込んだのだ。

「そんで、要らなくなっちゃったから、これあげるぅ~。リンちゃんでも誘って行ってね~」

◆◆◆

勿論そこで渡されたのが今回のチケットだ。
断ろうにも愚痴に付き合ってくれたお礼だと聞き入れてくれなかった。
しかし、だからってこのまま使わないのももったいないと思ったのがいけなかった。ネットオークションにかけるという選択もあった筈だ。
更にそれだけならまだしも、たまたま買った雑誌の普段なら気にもしないような占いの影響を受けて、まだろくに話した事もないネルの方を誘ってしまうという致命的なミスを犯してしまった。これはもうリカバリーが効かない。

「ああ、本当何やってんだろオレ……」

「おっまたせー!!」

「うおあああ!?」

考え事をしている途中で後ろから突然抱きつかれ、オレはみっともなく大声を出してしまった。
振り返るオレを、飛びついてきたネルが若干引いた目で見ている。

「ま、まさかここまで驚かれるとは思ってなかったわ……」


「……放っておいてくれ……ていうかアンタそういうキャラじゃないだろ……」

周囲の視線が痛い。早くも立ち直れなくなりそうだ。

「いいだろ、たまには羽目外したって。さあ、レッツゴー♪」

妙にハイテンションなネルに引きずられるようにして、オレは遊園地に入った。

「なあレンきゅーん」

遊園地に入ってからすぐ、ネルが声を掛けてきた。

「なんだよ……ていうか止めてくれその呼び方」

「なんで普段通りの格好なんだよー。せっかくのデートなのにぃー」

そういうネルはしっかりオシャレにキメている。
オレが家を出た時は普通の格好だったから、それから着替えたんだろう。時間がかかった理由もそれだろうか。

「別にデートじゃないだろ」

オレが言うと、ネルはオレの右腕に抱きついてきた。

「何言ってんだよー。男と女が二人っきりで歩いてたらそれはデートだろー?」

「そんなわけあるか。それだと親子や兄妹とかにも該当するし」

「いーじゃん禁断の恋。レンきゅんだってよくやってるじゃーん?」

「良くねえよ。つうかリンとは別に双子とかじゃないしな」

公式設定ではオレとリンは『鏡に移ったもう一人の自分』という事になっている。まあ、大抵無視される設定ではあるが……

「んーでもさ、自分自身と付き合うってある意味禁断の中の禁断だよな……ってかそんな事はどうでもいい。せっかくなんだからレンきゅんもオシャレしよーぜー?」

「面倒くさいからやだ」

オレの台詞を気にもせず、ネルはグイグイとオレを引っ張ってゆく。

「まあまあそういうなってー。おや、こんな所にグッズショップが」

「もう勝手にしてくれ……」

その後数十分に渡ってネルはオレの服やアクセサリーを選び続けた。お代がオレ持ちだったのがどこか納得いかない。

「さて、レンきゅんも着替え終わった所で、お楽しみのアトラクション巡りだぁー!!アタシが選んじゃってオーケー?」

「ああ。元気だな……」

服を変えるだけでなんだか疲れきってしまった。上がり続けるネルのテンションに果たしてついて行けるのだろうかと、オレは本気で心配になった。

「よし、じゃあまずはジェットコースター、次にジェットコースター、更にジェットコースター、フリーフォールときてジェットコースターだあああああ!!」

「ふざけてんのかアンタ……」

しかし、オレは後でそれが大真面目な発言だったと気づかされる羽目になるのだった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

短編5~鏡音レンきゅんの憂鬱~

五回目、今度はレン視点です。どうでもいいけどレンって大抵モテキャラになる気がする。場合によってはギャグキャラにしかなりえん他の男性キャラとは違うと言うことか……!←
文の内容の補足として、リンとレンは生活の厳しさから昔のマスターに泣く泣く手放され、今のマスターに引き取られたという経歴があります。ネルさんはこれを知りません。


次はリン視点……自分にどこまでやれるか……

閲覧数:263

投稿日:2011/05/16 07:27:49

文字数:2,056文字

カテゴリ:小説

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  • シベリア

    シベリア

    ご意見・ご感想

    ネルwww
    どんだけジェットコースターが好きなんだwww
    うちは絶叫系で泣き出すほどなので、絶対に乗りませんwww

    レンはほんとにモテますよね!
    友達にもレン廃の子がいますwwwでも渡さない←

    姐さんのからみ癖ww
    うちも愚痴聞いてあげるよ?めーちゃん。((ぇ

    次はリン視点ですか!!楽しみにしてます^^

    2011/05/16 16:12:15

    • 瓶底眼鏡

      瓶底眼鏡

      何故か自分にはネルは絶叫系好きそうなイメージが←
      自分はジェットコースターに乗った時に写真を撮ってくれるサービスがあって、その時のあまりの表情に周りから爆笑された思い出があります←

      レンのモテっぷりは異常←
      女の子なら例え廃でもいいと思います。自分の弟などボカロの中で一番レンが気に入っていて、DIVAやる時もレンしか使わんのですよ……将来が心配←

      是非聞いてあげて下さい、カイトに関する愚痴をさんざん聞かせて貰えますよ!←

      はい、二人の後をこっそり尾行するリンを可愛く書けたらなぁと思います←

      2011/05/16 18:46:17

  • 絢那@受験ですのであんまいない

    そんなにジェットコースター乗ったら酔うっ!私絶叫系嫌い!
    …あ、済みません、チミーです。

    レンはモテますよねwww色んな意味でwww
    リンとレンはマスターに売られた(?)のですか…まっ、生活が厳しかったんなら仕方な(((殴

    次回もがんばってください!

    2011/05/16 13:54:03

    • 瓶底眼鏡

      瓶底眼鏡

      安心してください自分も絶叫系は苦手です←

      はい。本当に羨ましい……でもハクはやらんぞ!←
      前のマスターは流石に売るのは忍びなかったらしく、二人をメイコさんの勤める会社に預け号泣しながら去って行きました……強く生きて欲しいです←

      はい、頑張ります!

      2011/05/16 14:46:00

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