柚香さんは『食べられる飛び道具』付きのサイトにひとしきり笑い、薄く浮いた涙を払った。
「種っ子はホント面白いなー。バリエーション凄いですよね」
「うんうん。でも柚香ちゃんには負けたなぁ。雪見とか、その発想はなかったわ。こう、カップから芽が出てるイメージができちゃってて」
感心しきりといった様子のマスターに、柚香さんが照れた笑みを浮かべる。
「あはは、ありがとうございます。ついウケ狙いに走っちゃうんですよね。あえて外したいというか、折角だから変わった事して面白くしたい!と思っちゃって。
あとホラ、私まだ親にお小遣いもらってる身ですから、日常的にダッツとかは無理だし」
「それはウチもだよ、美味しいけど高いよねアレ。カイト達には悪いけど、普段のアイスは半額セールので我慢してもらってるよー」
「悪いだなんて、マスター」
マスターの言葉に驚いて、つい口を挟んでしまった。話の邪魔はしたくないけど、これは聞き捨てなりません。
「毎日アイス食べさせてもらってて、充分過ぎるくらいですよ? 我慢なんて考えもしませんでした」
俺が言うと、マスターはひとつ瞬きをしてからふんわりと微笑んでくれた。それに安心して、俺の頬も緩む。
俺とマスターを交互に眺めた柚香さんの口から漏れた「わー、いいなぁ」なんて呟きは、小さすぎて俺以外には聞こえなかったみたいだった。
「そういえば、セツ君だけでセイ君はまだ聞いてなかったね。あの子は何アイスっ子なの?」
アイスを食べ終えてきゃいきゃい言ってる種KAITO達を見ながらのマスターの言葉に、俺もふと気になっていた事を思い出した。
「セイ君といえば、俺も訊きたいんですけど……最初に逢った時、『ビンゴ』って言いましたよね? それでセツ君が、セイ君の事を『凄い』とか。あれってどういう事なんです? まさか俺達――というかサイトを、探してた?」
「え、でもサイトの事は洩らしてないはずだよ? 探せるものかな?」
目を丸くして俺に向き直るマスターに、柚香さんがうんうん頷く。
「うぅん、流石。スルドイご指摘ですねっ。まず先の質問からお答えすると――ってこれ、後の質問にも繋がるんですけど」
意味ありげに言葉を切って、柚香さんはとびきりの悪戯を仕掛ける子供の瞳を見せた。
「セイの種を植えたアイスはですね、PIN○です」
「PIN○!?」
「て事は、あのカフェオレカラーはバニラアイス+チョコレート?」
「だと思います。よく見ると結構、色ムラがあるんですよねー。溶けて混ざっちゃった感じなのかと。
で、ですね。実はセイにも、なかなかステキなオプションがあるんです♪」
悪戯顔のまま、にまにまと口の端を吊り上げる柚香さん。「オプション?」と訊ねるマスターもわくわく顔だ。
「あのねっ、俺、『ラック』が使えるんだー!」
こちらの話を聞いていたらしい。話題の主が寄ってきて、弾んだ声で教えてくれた。……ラック(幸運)?
「セイ、いきなり言ってもわかりませんよ。あのですねぇ、セイはとっても運が良いんです。ね、マスター」
首を傾げる俺達に、セツ君が補足してくれる。はんなり微笑んで柚香さんに同意を求め、彼女も頷いて説明を継いだ。
「あのアイスって、一口サイズが6個入りでしょう? 全部箱から出して、器にまとめて植えたんですけど……中に1個、『幸運のピ○』が入ってたんですよね」
「幸運の?」
「あぁ、たまーに星型のがあるんだっけ。珍しいから、入ってるとラッキー、って」
「そうそう。そのおかげだと思うんですけど、本当にすっごく強運で……特にクジとか、物探しとか」
へぇ、と感嘆の息を吐き、俺とマスター、それにサイトも、視線をセイ君に集中させる。注視を受けるセイ君は、怯むでもなく「えへへー」とにこにこしていた。
「しかも、ですね。セイが『幸運の』……○ノに限らず、お菓子とかでもいいんですけど、ああいう『入ってたらラッキー』系のモノを食べると、暫くの間だけ更に運を引き付けるみたいなんです。もう『運が良い』のレベル超えて、クジも探し物も100%ゲット、みたいな」
「それを『ラック』って呼んでるんですよー」
「へへー、すごいでしょーっ?」
えへん、とセイ君は胸を反らしてみせるけど、それは本当に凄い。サイトも呆けた顔で口を開いた。
「せー君、すごいです。さいとも、だから会えたです?」
「そうだよっ。あの時も『ラック』発動で、こっちっぽいなーって思う方に行ったらサイトがいたんだ♪」
「わぁ、せー君、まほうつかいみたいですー」
声を弾ませるサイトの瞳が輝いている。セイ君もセツ君も、一緒になって無邪気に喜んでいた。
自分のおかげだ、なんて考えたりはしないんだな。良い子達だなぁ。
すっかり仲良くなった3人を、マスターは微笑ましげに眺めている。柚香さんも嬉しそうに笑みを浮かべていた。
「ふたりがうちの子になってから、地道に種っ子探ししてたんですけどねー、やっぱり見付からなくって。最後の賭けのつもりだったんですよ、これでダメなら近くには他の種っ子いないんだーって」
どこかしみじみとした口調に、柚香さんの言葉が掛け値なしの事実なのだと判る。マスターとの対面をこんなに急いだ事を考えても、本当に逢いたかったんだろうな。
「他の種KAITOか……あんまり気にした事なかったですね」
「んー、最近はちょっと考えてたかな。同じ目線の友達って大事でしょ。カイトは『友達』っていうより『お兄ちゃん』、保護者な感じだし」
マスターが言うと、柚香さんは我が意を得たりとばかりに喰い付いた。
「そうなんですよね! うちは最初からふたりだから、種っ子同士で遊んだりはできるんだけど、やっぱり『兄弟』に近いと思うし。『友達』ってまた別ですよね」
「『兄弟』がいてくれるのも嬉しいんだけどね、勿論。それはそれとして『友達』も欲しいよねぇ」
こくこくと頷き合う2人のマスターは、すっかり保護者の顔だ。サイトは当然として、セツ君セイ君も、善いひとがマスターなんだな。
他人事のはずなのに、何故だか俺も何だか嬉しい。マスターの言葉を借りるなら、『同じKAITO』の事だから、なのかなぁ。
「それじゃあ、賭けには大勝利だね?」
愛嬌たっぷりに言うマスターに、柚香さんは全開の笑顔で同意した。
「はいっ! もうホントに大・大勝利ですよ! 素敵なマスターさんに、KAITOまで一緒で!」
「あぁ、やっぱりKAITO好きなんだ」「そうでしょう俺のマスターは素敵でしょう?」
「「「……」」」
柚香さんの言葉に対する俺とマスターの反応が同時だったのと、その内容に、全員が言葉を失くした。
それも一瞬、柚香さんの盛大な爆笑が部屋に響く。
「カイト、そこは社交辞令で流すところ!」
「えぇ、そんな事ないですよね柚香さん? 俺的には全力で喰い付くところですよ、俺のマスターは宇宙一ですっ」
「宇宙!? 無駄に壮大だよスケールが! いや気持ちは嬉しいけどっ」
顔を赤くするマスターと真顔の俺の遣り取りに、柚香さんはますます笑いのツボを刺激されたらしい。笑いすぎて涙を浮かべ、息も絶え絶えになっている。って、
「柚香さん、ここ笑うところじゃないですよ?」
「笑うところだよ兄さん、こんな阿呆な応酬……。うぅ、最初くらい格好つけときたかったなぁっ」
「あははははっ!! ちょ、もぅ……笑い死にますからっ」
「マスター?」
「わぁ、マスター楽しそー!」
「ますたー、ますたーさん どうしたですー?」
とうとうテーブルに突っ伏してしまった柚香さんに、遊んでいた種KAITO組も何事かと声を上げた。三者三様の台詞と共に、首を傾げたり面白がったり。
柚香さんはそれに手を振って応え、ゼェハァ言いながらも身を起こして、息を整える。
「や、すみません……はぁ。死ぬかと思った」
「あー、何だかごめんなさい……?」
「いやいや、こちらこそっ」
慌てて首を振った柚香さんはマスターと顔を見合わせ、2人揃ってまた吹き出した。
「っはは、でも良かった、楽しい人で」
「ふふ、それこそ『こちらこそ』だよ?」
クスクス笑い合うマスター達に、ちびっこ達もきゃらきゃら笑う。理由はわからなくても、マスターが楽しそうだってだけで嬉しくなってしまうんだろう。
「考えたら私、完全に棚ボタ状態だよねぇ。知らないうちに見つけてもらってて。ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げたマスターは、卓上の小さなKAITO達にも笑顔を向けた。
「セイ君、セツ君も、ありがとうね。サイトを見つけて、仲良くなってくれて」
「あっ、ありがとう、ですー!」
サイトもふたりに向き直り、勢いよく頭を下げている。俺も倣って、感謝の言葉を口にする。
「俺からも、ありがとう。これからもよろしくね?」
セイ君もセツ君も驚いたようだったけど、満面の笑みで返してくれた。
「うんっ」「はいっ」
「「よろしくー!」」
うーん、本当に無邪気で可愛いなぁ。なんか新鮮だ……。
こっそり感慨に耽る俺の隣で、マスターは改めて柚香さんに微笑みかける。
「柚香ちゃんも、よろしくね。楽しい友達ができて嬉しいよ」
「はいっ、私も! すっごく嬉しいです♪」
マスター達もKAITO達も、皆がにこにこして、楽しい気分で。こういうのも、良いものなんだなぁ――なんて、不思議にすんなり思えてしまった。
最初は『KAITOの種』なんて、って思ったけど。――うん、悪くない。
あとはサイトが、もう少し俺にも懐いてくれるといいんだけどなぁ。
KAITOful☆days #17【KAITOの種】
<あとがきっぽいもの(未読の方はネタバレ注意)>
何故か今回は凄く時間がかかった……! 久しぶりに筆が止まったよ、5日かかった(-_-;) 間に小ネタ書いたりはしてたけど。
セイの名前は、漢字だと「星(セイ)」。『幸運のピ○』(『ねがいの~』が公式?)の星型から取りました。
最近あれ買ってないんですが、今でも入ってるのかなぁ。ミルクティー味が大好きでした。
しかし人数増えると全員喋らせるだけで一苦労ですね。今まで2,3人でやってきてたから忘れてた;
* * * * *
【KAITOの種 本家様:http://piapro.jp/content/aa6z5yee9omge6m2】
* * * * *
↓ブログで各話やキャラ、設定なんかについて語り散らしてます
『kaitoful-bubble』 http://kaitoful-bubble.blog.so-net.ne.jp/
コメント0
関連動画0
オススメ作品
気が狂ってしまいそうな程に、僕らは君を愛し、君は僕らを愛した。
その全てはIMITATION,偽りだ。
そしてこれは禁断。
僕らは、彼女を愛してはいけなかった。
また、彼女も僕らを愛してはいけなかった。
この心も日々も、全て偽りだ。
そんな偽りはいらない。
だったら、壊してしまえばいい。
『すっとキ...【VanaN'Ice】背徳の記憶~The Lost Memory~ 1【自己解釈】

ゆるりー
A 聞き飽きたテンプレの言葉 ボクは今日も人波に呑まれる
『ほどほど』を覚えた体は対になるように『全力』を拒んだ
B 潮風を背に歌う 波の音とボクの声だけか響いていた
S 潜った海中 静寂に包まれていた
空っぽのココロは水を求めてる 息もできない程に…水中歌

衣泉
ミ「ふわぁぁ(あくび)。グミちゃ〜ん、おはよぉ……。あれ?グミちゃん?おーいグミちゃん?どこ行ったん……ん?置き手紙?と家の鍵?」
ミクちゃんへ
用事があるから先にミクちゃんの家に行ってます。朝ごはんもこっちで用意してるから、起きたらこっちにきてね。
GUMIより
ミ「用事?ってなんだろ。起こしてく...記憶の歌姫のページ(16歳×16th当日)

漆黒の王子
Winter Night
歌詞
太陽が消えた街 月が支配する街
空気が凍てつき 肌に鋭く突き刺さる
寒さに凍える 不快な夜のはずなのに
澄んだ空気とアーティファクト
その景色が 人を集める
(間奏)
マフラーから漏れる蒸気 寒さに耐える君 誘ったことに罪悪感感じるけど
この景色を君に見せたくって 感...Winter Night / KAITO SP

やさん
Embark on flights bos to Iceland that seamlessly connect these two distinctive destinations. Departing from Boston Logan International Airport, travel...
flights bos to iceland

emily4747
*3/27 名古屋ボカストにて頒布する小説合同誌のサンプルです
*前のバージョン(ver.) クリックで続きます
1. 陽葵ちず 幸せだけが在る夜に
2.ゆるりー 君に捧ぐワンシーンを
3.茶猫 秘密のおやつは蜜の味
4.すぅ スイ...【カイメイ中心合同誌】36枚目の楽譜に階名を【サンプル】

ayumin
クリップボードにコピーしました
ご意見・ご感想